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「金の亡者」メイウェザーが米政府からコロナ融資。日本リング登場はあるのか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
「まだまだ稼ぎたい」(写真:USA TODAY SPORTS/ロイター/アフロ)

大手プロモーションにも救いの手

 いまだに収束の気配を見せないCOVID19(新型コロナウイルス感染症)の猛威。興行がほとんど中止され窮地に陥った米国ボクシング界では連邦政府が立ち上げた中小企業向けの「給与保護プログラム(PPP)」を申請したところがある。ボブ・アラム氏率いるトップランク社、6階級制覇王者オスカー・デラホーヤ氏のゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)そしてフロイド・メイウェザー氏が設立したメイウェザー・プロモーションズ。いずれも業界では大手プロモーションと認識される。

 大手と言ってもビジネス界全体からすれば間違いなくこれらの会社は中小企業に属する。ラスベガスに本社があるトップランク社は従業員20人。同じくラスベガスが本拠地のメイウェザー・プロモーションズは36人。ロサンゼルスのダウンタウンに本社を置くGBPは57人。いずれも実態はこぢんまりとした企業だ。

 この3社が申請したローンは35万ドルから100万ドル(約3800万円から1億700万円)。ローンといっても従業員の給料支払いに充てた場合、最大1000万ドルまで返済が免除される。この特権を行使しない手はない。すでに先月からラスベガスで無観客試合でイベントを開催しているトップランク社は1回のイベントで約5万ドルの損失が出ていると推定されるだけに貴重なサポートとなっているはずだ。同社は先週まで10回イベントを開催し、テレビ(ESPN)から放映料が入るにしてもすでに50万ドル(約5300万円)のロスが出ている計算になる。

600億円の男

 さて、これら3社のトップ、アラム氏、デラホーヤ氏、メイウェザー氏は言わずと知れた富豪、資産家なのだが、ツッコミを入れたくなるのは“マネー”ことメイウェザー氏だ。昨年フォーブス誌が伝えたところで2010年から17年の間にリングで稼いだ金額は9億1500万ドル(約980億円)という途方もない数字。その多くは15年のマニー・パッキアオ戦、17年のコナー・マグレガー戦の金満ファイトによるもの。経済サイトによると現在の純資産は5億6000万ドル(約600億円)と推測される。豪邸のガレージにはカーディーラーと見間違えるほど高級車がズラリと並んでいる。従業員の給料やジムの管理費などポケットマネーで支払えるはずだが……。

 やはり自分が出資した会社にしても個人と公の立場は違うと考えているのだろう。そもそもメイウェザー・プロモーションズの運営はレオナルド・エレーベCEOに任せている。今回ローンを申請したのもエレーベ氏だった。いくら2人は親友とはいえ、公私混同を避けたメイウェザー氏に非はないといえる。

イベントでエレーベCEO(右)と談笑するメイウェザー(写真:Mayweather Promotions)
イベントでエレーベCEO(右)と談笑するメイウェザー(写真:Mayweather Promotions)

金持ちの道楽

 とはいえメイウェザー・プロモーションズの経営は順調とはいえない。最後の興行は2月28日ラスベガスのサムズ・タウン・ホテルで行ったもの。以後COVID19の影響で中断が入り再開のメドは立っていない。最後のイベントに世界ランカークラスの選手は出場していない。逆に今後期待できる新鋭が登場したとも取れる。だがライバルのトップランク、GBPのイベントと比べると華やかさに欠ける印象がする。反対にあまり興行に金をつぎ込んでいないのでダメージが少ないとも憶測されるが、まだ有望選手の数は多くない。

 メイウェザー・プロモーションズの年収は700万ドル(約7億5000万円)といわれる。だが別の資料では15万8000ドル(約1700万ドル)とある。あまりにもギャップがあるが、後者の金額が正解ということもありうる。「金持ちの道楽」と揶揄される所以である。

日本へラブコール

 メイウェザー氏はイベント開催をケアすることや選手育成よりも自身のリング登場に執心する姿がうかがえる。“ビジネスマン”だけに相変わらずビッグマネーを求める姿勢を崩さない。ボクシングマッチではパッキアオあるいはマクレガーとの再戦。あるいは日本へ舞い戻り、18年暮れのキックボクサー、那須川天心とのエキシビションのような試合を画策している。

 パッキアオはともかく、他の選択肢はボクシング界から見れば哀れで嘆かわしいものに映る。そんなファンの心情を逆なでするところがメイウェザー氏らしいとも言えるのだが、最近でも「2020年にエキシビションマッチを計画している」と明かし、日本再登場を匂わせた。

 彼は「すぐにプライベートジェットで東京へ飛んで行くよ。日本で私のパートナーとRIZINの人々とミーティングを行い、今年2020年に何かがある。乞うご期待」とSNSで投稿した。

 だが、これは現状では不可能な話。先日、都内で会見したRIZINの榊原信行CEOは「ぜひプライベートジェットで日本に来て打ち合わせしたいという感じですけど、(コロナ危機で)飛んで来れないですから(笑い)。日本へ入れないですから」とコメント。「ただしタイミングが合えば、もう一度(メイウェザーは)日本で試合をする。秋にも年末にも可能性があります」と付け加えた。

 どうもメイウェザー氏の方が売り込みをかけている様子。RIZIN側がどんな相手、試合形式を用意するか定かでないが、また“イージーマネー”(楽をして大金を稼ぐ)を追求するメイウェザーらしさが垣間見える。

最後に真剣なボクシングが見たい

 ボクシングファンは「もう好き勝手にしてくれ」と叫びたくなるだろう。あるいはリング復帰など考えずに静かにしていてほしいと訴えるかもしれない。一方で本気でメイウェザー氏がカムバックしたいのなら、チャンピオンクラスとは言わないまでも拮抗した戦いが期待できる骨のある選手との対戦を望むファンもいる。それでも彼の経済方程式に当てはめると、そんな選手は皆無。叶わぬ夢となってしまう。

 3年前に話題となった税金未納の問題や半端ではない出費があるだけに彼の銀行口座の預金が激減していることもあるかもしれない。またよく浪費を指摘されるバスケットボール試合などのギャンブルはゲームが中断しているが、再開すれば熱が入るに違いない。

 6月に白人警官の暴行で死亡した黒人男性ジョージ・フロイド氏の葬儀や追悼式の費用全額を負担したメイウェザー氏が自身の会社の救済ローンをリクエストしたのは違和感がある。このままリングに上がれない状況が続くと次は失業保険を申請するかもしれないと陰口を叩かれる。コロナショックで職を失った多くの人たちのように。

ラスベガスにあるメイウェザー・ボクシング・ジム(写真:Mayweather Promotions)
ラスベガスにあるメイウェザー・ボクシング・ジム(写真:Mayweather Promotions)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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