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北朝鮮戦での2つの成果と平壌開催中止の衝撃(ワールドカップ・アジア2次予選 日本1-0北朝鮮)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
北朝鮮戦でスタメン出場となった堂安律(左)と南野拓実。堂安は先制点をアシスト。

 3月21日に東京・国立競技場で行われた、FIFIAワールドカップ・アジア2次予選の日本代表vs北朝鮮代表。試合は開始早々2分、田中碧が決めたゴールが決勝点となり、1-0で勝利した日本が早くもグループで独走状態に入った。本稿では激闘の模様を写真とともに振り返ることにしたい。

3000人分用意されたアウェイ側のチケットは完売。先月の女子の五輪予選に続き、北朝鮮の応援団は気合十分だ。
3000人分用意されたアウェイ側のチケットは完売。先月の女子の五輪予選に続き、北朝鮮の応援団は気合十分だ。

先のアジアカップで準々決勝敗退の原因を作ってしまった板倉滉(右)。この日はキャプテンマークを託された。
先のアジアカップで準々決勝敗退の原因を作ってしまった板倉滉(右)。この日はキャプテンマークを託された。

日本代表の森保一監督。アジアカップでの苦杯を経て初めて迎えるアジアでの公式戦に、密かな緊張感が見て取れる。
日本代表の森保一監督。アジアカップでの苦杯を経て初めて迎えるアジアでの公式戦に、密かな緊張感が見て取れる。

この日のスタメン。前列左から、菅原、前田、守田、南野、堂安。後列左から上田、鈴木、伊藤、町田、田中、飯倉。
この日のスタメン。前列左から、菅原、前田、守田、南野、堂安。後列左から上田、鈴木、伊藤、町田、田中、飯倉。

日本は序盤から積極的だった。上田綺世がドリブルで左サイドから切り込み、パスを受けた田中碧が右サイドに展開。
日本は序盤から積極的だった。上田綺世がドリブルで左サイドから切り込み、パスを受けた田中碧が右サイドに展開。

逆サイドで受けた堂安律は連続してクロスを供給。南野拓実のシュートが相手に当たると、こぼれ球を再び折り返す。
逆サイドで受けた堂安律は連続してクロスを供給。南野拓実のシュートが相手に当たると、こぼれ球を再び折り返す。

最後は田中で右足で決め、わずか2分で日本が先制。この時点では「前半だけで3点いけるかも!」と思ったのだが。
最後は田中で右足で決め、わずか2分で日本が先制。この時点では「前半だけで3点いけるかも!」と思ったのだが。

アジアカップは選外だった田中。この日は点を決めただけでなく、ピッチ上でリーダーシップを取る様子も見られた。
アジアカップは選外だった田中。この日は点を決めただけでなく、ピッチ上でリーダーシップを取る様子も見られた。

貪欲に追加点を狙う日本だったが、北朝鮮は速やかな守備の立て直しに成功。GKカン・ジュヒョクも好守を見せる。
貪欲に追加点を狙う日本だったが、北朝鮮は速やかな守備の立て直しに成功。GKカン・ジュヒョクも好守を見せる。

先制点をアシストした堂安は、自身も再三好機を迎えるものの、放った3本のシュートはいずれもネットに届かない。
先制点をアシストした堂安は、自身も再三好機を迎えるものの、放った3本のシュートはいずれもネットに届かない。

前半を失点1で抑えることができた北朝鮮。後半は相手が苦手とするロングボールを多用して活路を見出そうとする。
前半を失点1で抑えることができた北朝鮮。後半は相手が苦手とするロングボールを多用して活路を見出そうとする。

相手を圧倒していた前半から一転、後半の日本は押し込まれる時間帯が続く。そんな中、GK鈴木彩艶は冷静に対応。
相手を圧倒していた前半から一転、後半の日本は押し込まれる時間帯が続く。そんな中、GK鈴木彩艶は冷静に対応。

日本ベンチも動く。58分には守田英正に代えて遠藤航を投入。強靭なデュエルで中盤での相手の圧力を軽減した。
日本ベンチも動く。58分には守田英正に代えて遠藤航を投入。強靭なデュエルで中盤での相手の圧力を軽減した。

74分には交代枠3枚を使って3バックに変更。右のワイドには、伊東純也の14番を引き継いだ橋岡大樹が起用された。
74分には交代枠3枚を使って3バックに変更。右のワイドには、伊東純也の14番を引き継いだ橋岡大樹が起用された。

そのまま1−0で試合終了。FC岐阜所属で代表デビューとなったムン・インジュは、試合後に遠藤と言葉を交わす。
そのまま1−0で試合終了。FC岐阜所属で代表デビューとなったムン・インジュは、試合後に遠藤と言葉を交わす。

試合後、笑顔でポージングする田中。この時点では当人も、平壌でのアウェイ戦に思いを馳せていたことだろう。
試合後、笑顔でポージングする田中。この時点では当人も、平壌でのアウェイ戦に思いを馳せていたことだろう。

 前半の序盤で先制したものの、その後は追加点を奪うことができず、後半は相手のロングボールと圧力に苦しむ展開。スペクタクルもカタルシスも感じられない、ある意味「ワールドカップ予選らしい」試合だった。

 依然として課題は少なくない。それでも、2つの成果は間違いなくあった。まず、着実に勝ち点3を積み重ねたこと。そして、アジアカップでの悪い流れを断ち切ることができたこと。特に後者は重要で、これからの長い予選での戦いに向けて、良い意味でのリセットができた。

 それだけに、26日に平壌開催されるはずだったセカンドレグが、突如として中止となったのは残念でならない。「厳しいアウェイ戦がなくなってよかった」という意見もあるが、チームは5日後に向けて綿密に準備していたわけで、ここからのプラン変更は容易ではない。

 北朝鮮代表もまた、この決定を歓迎しているとは思えない。今後、FIFAやAFCからペナルティが課せられる可能性もある。が、本当はホームで戦いたかったであろう、彼らが罰せられてしまうのであれば、これは同情するほかない。

 もともと現地での取材は考えていなかったし、平壌からのTV放映も絶望的と聞いていた。それでも純粋にフットボールのことだけを考えるなら、ホーム&アウェイの原則は守られるべきだし、5日前でのキャンセルなど常識的に考えれば論外だ。

 この日、堂々と戦った両代表にとって、実に後味の悪い決定となってしまった。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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