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OGの応酬と「キャプテン守田」への感慨(ワールドカップ・アジア最終予選 日本1-1オーストラリア)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
埼玉スタジアムのビジター席につめかけたオーストラリア代表のサポーターたち。

 10月15日、2026FIFAワールドカップ・アジア最終予選は第4節を迎えた。ホームでの初戦で中国を7−0で粉砕した日本は、その後もバーレーンとサウジアラビアのアウェイ戦でも連勝。勝ち点9の得失点差14で早くも独走体制となっていた。

 再びホームの埼玉スタジアム2002に戻った日本が迎え撃つのは、FIFAランキング25位のオーストラリア(日本は16位)。実力と実績ではグループの2番手ながら、スタートでつまずいてしまい、サウジとバーレーンとの2位争いに巻き込まれてしまった。

 5大会連続で最終予選を戦うオーストラリアだが、過去に敗れたのはアウェイでの1試合のみ。ある意味、やりやすい相手と思われていたが、結果は1-1の引き分け。しかも予想外の展開となった。さっそく写真と共に振り返ることにしたい。

最初の難関、アウェイのサウジ戦に勝利して無傷のまま戻ってきた日本代表。埼スタの空気もどこか楽観的。
最初の難関、アウェイのサウジ戦に勝利して無傷のまま戻ってきた日本代表。埼スタの空気もどこか楽観的。

前節に中国に勝利したオーストラリア。この日はバスが渋滞に巻き込まれ、アップの時間を削られてしまう。
前節に中国に勝利したオーストラリア。この日はバスが渋滞に巻き込まれ、アップの時間を削られてしまう。

審判団と両チームキャプテン。遠藤航が体調不良でベンチ外となったため、守田英正に日本の腕章が託された。
審判団と両チームキャプテン。遠藤航が体調不良でベンチ外となったため、守田英正に日本の腕章が託された。

スタメンは前列右から、堂安、田中、南野、三笘、久保。後列右から、守田、谷口、板倉、町田、鈴木、上田。
スタメンは前列右から、堂安、田中、南野、三笘、久保。後列右から、守田、谷口、板倉、町田、鈴木、上田。

序盤から積極的に仕掛ける日本。久保建英のこの表情からも、この日は簡単な相手でなかったことが伝わる。
序盤から積極的に仕掛ける日本。久保建英のこの表情からも、この日は簡単な相手でなかったことが伝わる。

オーストラリアのゴールマウスを守るジョー・ガウチ。上田綺世の執拗なチェイスにもまったく動じない。
オーストラリアのゴールマウスを守るジョー・ガウチ。上田綺世の執拗なチェイスにもまったく動じない。

空中戦では、やはりオーストラリアに一日の長あり。谷口彰悟のヘディングシュートは残念ながら枠外へ。
空中戦では、やはりオーストラリアに一日の長あり。谷口彰悟のヘディングシュートは残念ながら枠外へ。

この日のオーストラリアは、相手の攻撃の起点を封じることに徹していた。堂安律もターゲットのひとり。
この日のオーストラリアは、相手の攻撃の起点を封じることに徹していた。堂安律もターゲットのひとり。

58分、ルイス・ミラーのクロスが谷口のオウンゴールを誘い、オーストラリアに待望の先制点が転がり込む。
58分、ルイス・ミラーのクロスが谷口のオウンゴールを誘い、オーストラリアに待望の先制点が転がり込む。

日本は62分に伊東純也、さらに70分に鎌田大地と中村敬斗を投入。ベンチの選手層の厚さで挽回を図る。
日本は62分に伊東純也、さらに70分に鎌田大地と中村敬斗を投入。ベンチの選手層の厚さで挽回を図る。

76分、中村がゴールラインぎりぎりからクロスを入れると、これがキャメロン・バージェスの足に当たる。
76分、中村がゴールラインぎりぎりからクロスを入れると、これがキャメロン・バージェスの足に当たる。

オウンゴールによる失点で絶望するオーストラリアの選手たち。追いついた日本の選手たちにも笑顔なし。
オウンゴールによる失点で絶望するオーストラリアの選手たち。追いついた日本の選手たちにも笑顔なし。

この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたキャプテンの守田。非凡な運動量と判断力で攻守に貢献。
この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたキャプテンの守田。非凡な運動量と判断力で攻守に貢献。

2試合連続で途中出場から得点を決めている小川航基。逆転ゴールを期待されたがシュートゼロに終わる。
2試合連続で途中出場から得点を決めている小川航基。逆転ゴールを期待されたがシュートゼロに終わる。

終盤のオーストラリアは、勝ち点1を死守する戦術に切り替えてくる。日本にとってはやきもきする時間帯。
終盤のオーストラリアは、勝ち点1を死守する戦術に切り替えてくる。日本にとってはやきもきする時間帯。

5分のアディショナルタイムののちに試合終了。日本は4試合を終えて初の失点、そして初ドローとなった。
5分のアディショナルタイムののちに試合終了。日本は4試合を終えて初の失点、そして初ドローとなった。

 結果はOG(オウンゴール)の応酬による引き分け。何とも奇妙でカタルシスに欠ける試合展開だったが、最終予選の難しさを思い出させてくれたという意味では、日本にとって悪くない経験となった。

 加えて、相手の実力差も明らかだった。シュート数は日本の10に対して相手は1。ポゼッションでも日本は7割を超えていた。オーストラリアは日本の両ワイドと久保を塞ぐことで、何とか活路を見出そうとしたが、後半から起用される選手のクオリティに対抗しきれず、引き分けるのが精いっぱいだった。

 個人的には、守田が腕章を巻いて90分フル出場、立派にキャプテンの大役を果たしたことに深い感慨を覚えた。もちろん、遠藤の代役にふわさしい選手であることは言うまでもない。私が遠い目をしてしまったのは、もっと違う理由によるものだ。

 今から10年前の2014年、私は全国地域サッカーリーグ決勝大会(現・地域CL)で、守田のプレーを見ている。この大会は、地域リーグからJFL昇格を目指す大会で、当時19歳の守田は流経大サッカー部のサードチーム「クラブ・ドラゴンズ」の一員であった。

2014年の地域決勝での守田。不動のボランチとして全社の5試合、地域決勝の6試合にスタメンフル出場。
2014年の地域決勝での守田。不動のボランチとして全社の5試合、地域決勝の6試合にスタメンフル出場。

 地域決勝や地域CLという、アマチュア社会人の大会を経てJリーガーになった選手は、これまで何人もいる。しかし、そこから海外移籍をして、さらに日本代表としてワールドカップに出場し、なおかつ代表でキャプテンを務めた選手となると、守田をおいて他にはいない。

 ちなみに、この年のクラブ・ドラゴンズは、全社(全国社会人サッカー選手権大会)という、5日連続のトーナメントを勝ち抜いて地域決勝の出場権を獲得。1次ラウンドと決勝ラウンドは、いずれも3日連続で開催され、クラブ・ドラゴンズは3位でJFL昇格を決めている。

 この年の守田は、全社と地域決勝の合計11試合にスタメンフル出場。豊富な運動量とクレバーなポジション取りは、この時代から存分に発揮されていた。それにしても、アマチュア社会人の大会から、将来の日本代表のキャプテンが輩出されるとは、なんと夢のある話であろうか!

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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