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今日は準決勝! だからこそ考えたい、第104回天皇杯の注目度とリーグカップとの差別化

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
準々決勝でレノファ山口FCを5-1で粉砕し、準決勝に進出した横浜F・マリノス。

 プロ・アマ問わず、日本サッカー界のナンバーワンを決めるトーナメント大会、天皇杯 JFA 第104回全国日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)。本日10月27日に準決勝が行われる。カードと試合会場は以下のとおり。

・横浜F・マリノスvsガンバ大阪@パナソニックスタジアム吹田(13:05 K.O.)
・ヴィッセル神戸vs京都サンガF.C.@ノエビアスタジアム神戸(15:00 K.O.)

 ベスト4となったのは、いずれも天皇杯の優勝経験があるJ1クラブ。神戸が2019年、G大阪が15年、横浜FMが13年、京都が02年にそれぞれカップを掲げている。

 天皇杯については、毎年1回戦から決勝までを取材しているが、今大会の準決勝は2試合とも関西での開催ということで断念。SNSで界隈の反応を眺めてみると、当該サポーター以外の反応が、例年よりも薄いように感じた。そこで本稿では、今大会を「注目度」という視点から振り返ってみることにしたい。

1回戦でアルテリーヴォ和歌山を破り、名古屋グランパスへの挑戦権を得たJAPANサッカーカレッジ。
1回戦でアルテリーヴォ和歌山を破り、名古屋グランパスへの挑戦権を得たJAPANサッカーカレッジ。

■アマチュアによるジャイアントキリングは2試合だけ

 天皇杯の楽しみといえば、やはり「ジャイキリ(ジャイアント・キリング)」。とりわけ、都道府県代表とJ1・J2クラブが最初に激突する2回戦は、毎年注目している。今大会の2回戦32試合のうち、J3クラブ以外の都道府県代表でJクラブを倒したのは、新潟県代表のJAPANサッカーカレッジ(JSC)、そして茨城県代表の筑波大であった。

 JSCは、和歌山県代表のアルテリーヴォ和歌山を2-1で破り、Jクラブへの挑戦権を獲得。2回戦ではJ1の名古屋グランパスと対戦し、51分に挙げたゴールを守りきって1-0で勝利した。一方、筑波大は1回戦にアマチュアシードの明治大に1-0で競り勝ち、2回戦ではJ1首位を走っていたFC町田ゼルビアと対戦。1-1からPK戦の末にジャイキリを達成している。

 さらなる躍進を期待されたJSCと筑波大であったが、前者は3回戦でJ2のレノファ山口FCに0−3で完敗。筑波大も延長戦の末、J1の柏レイソルに力及ばず1-2で敗れてしまった。どちらか一方がラウンド16まで勝ち上がっていたら、もう少し話題を提供できただろう。

 ちなみに前回大会、Jクラブでない都道府県代表で3回戦進出を果たしたのは、ヴェルスパ大分(大分県)と高知ユナイテッドSC(高知県)。いずれもJFL所属であった。このうち高知は、3回戦でもJ1(当時)の横浜FCに1−0で勝利。ラウンド16では川崎フロンターレに0−1と惜敗したものの、大いに大会を盛り上げてくれた。

3回戦で柏レイソルとした筑波大。終了間際に相手のオウンゴールを誘い、延長戦に持ち込むことに成功。
3回戦で柏レイソルとした筑波大。終了間際に相手のオウンゴールを誘い、延長戦に持ち込むことに成功。

■不祥事こそなかったものの会見での発言が大炎上

 天皇杯に限った話ではないが、わが国でサッカーが話題になる時は、ワールドカップでの勝利か不祥事、というのが実際のところである。前回大会は不祥事(発煙筒とか乱入とか)が続いてしまったことで、天皇杯が不本意な形で全国ニュースで取り上げられることとなった。

 今大会は、そうした不祥事こそなかったものの、炎上騒ぎはあった。筑波大が町田にジャイキリを起こした、2回戦の試合後の会見。町田の黒田剛監督が、試合後の会見で「マナーが悪い」「指導教育ができていない」と対戦相手を批判したことから、サッカー界を飛び越えて延焼するとなった。

 この試合では、町田の4選手が負傷(うち2選手が骨折)。黒田監督が怒り心頭だったことは理解できる。けれども、そうした感情を前面に押し出し、対戦相手へのリスペクトを欠いた発言をしてしまったことについては、極めて残念だったと言わざるを得ない。

 この炎上騒動によって、勝者の筑波大は必要以上に世間の注目を集めることとなった。柏との3回戦は私も現地で取材しているが、純粋なチャレンジャーとして格上に挑むことが困難になるくらい、周囲の雑音は度し難いものであった。そんな中、J1クラブに2試合続けて延長戦を戦ったことについては、十分に誇ってよい結果と言えよう。

今大会で初のベスト8進出を果たした山口のサポーター。雨の中、最後まで諦めずに声援を送り続けていた。
今大会で初のベスト8進出を果たした山口のサポーター。雨の中、最後まで諦めずに声援を送り続けていた。

■もはや「天皇杯ならでは」ではなくなったジャイキリ

 9月25日の準々決勝は、ニッパツ三ツ沢球技場にて、J1の横浜FMとJ2で唯一勝ち残っていた山口の対戦を取材した。直近のACLEとリーグ戦で、合計13失点を喫していた横浜FM。山口にもチャンスがあるかと思ったが、結果は5-1で横浜FMが完勝して準決勝進出を決めた。

 天皇杯のベスト4が出揃ってからは、カップ戦らしい「新顔」の有無が注目度を左右する。J2ながら初優勝した、2022年のヴァンフォーレ甲府の快挙は、記憶に新しいところ。2021年には、すでにJ2降格が決まっていた大分トリニータがファイナリストとなり、23年にはJ1のアビスパ福岡とJ2のロアッソ熊本が準決勝進出を果たしている。

 今大会は、優勝経験のあるJ1クラブがベスト4を固めてしまったわけだが、加えてもうひとつ、今年は天皇杯の注目度が霞んでしまうような変化があった。それがYBCルヴァンカップのレギュレーション変更。今季からルヴァンカップは、J1・J2・J3の全60クラブが参加するトーナメント戦となったのである。

 結果として下位カテゴリーのクラブが、上位カテゴリーのクラブを制する番狂わせが続出。しかも11月2日の決勝は、名古屋グランパスとアルビレックス新潟という、実にフレッシュな顔合わせとなった。もはやジャイキリは「天皇杯ならでは」とは言い難い上に、決勝が行われるのも同じ11月。話題性という面で、天皇杯は若干不利な状況に置かれているように感じる。

 今日の準決勝の結果、来月23日に国立のピッチに立つファイナリストが決まる。どんな顔合わせとなるのか楽しみな一方で、伝統あるカップ戦の今後を少し心配している。リーグカップにはない「天皇杯ならでは」の魅力とは何か。大会後、運営サイドにはあらためて考えていただきたいところだ。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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