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『THE W 2023』の「混沌」としたおもしろさ、「正統派がいない賞レース」として独自性を確立

田辺ユウキ芸能ライター
(提供:イメージマート)

女性芸人を対象としたお笑いの大型賞レース『女芸人No.1決定戦 THE W 2023』(日本テレビ系)が12月9日に開催され、紅しょうがが優勝した。

2023年大会のエントリー数は、過去最多の863組。その中から勝ち上がった12組によっておこなわれた決勝戦。今大会も3つのブロックに分かれ、勝ち残りのサバイバル方式で競われた。Aブロックからはスパイク、Bブロックからは紅しょうが、Cブロックからはエルフが最終決戦へと駒を進め、決勝ステージの審査員票で4票を獲得した紅しょうがが7代目女王の座に就いた。

紅しょうがは熊元プロレス、稲田美紀のコンビで2014年に結成。『THE W』の決勝の舞台は4年連続5回目。2020年大会準優勝の実績を持ち、番組でも「無冠の女王」と紹介されるほどの実力派コンビだった。

ゆりやん対しらきに審査員の川島明が困惑「審査を放棄できないですか」

そんな『THE W 2023』は、「混沌」という言葉がピッタリと当てはまるおもしろさがあった。

優勝した紅しょうがが決勝ステージで披露したのは、はいているスカートがパンツの中に入って、丸見えになっていることに気づかない女性二人の姿を描いたネタ。稲田美紀のパンツは「色も形もスーファミ」(ネタ中の熊元プロレスのツッコミより)で、熊元プロレスは帽子や靴の中敷とお揃いの柄のトランクス。絶妙のワードセンス、そしてパンツのデザイン性をうまく活用し、何より最初から最後までパンツで押し切る度胸がすごかった。

準優勝のエルフがファーストステージで見せたのは、いつもおとなしい妹(はる)が実は人気ライブ配信者で、その正体を知ったギャルの姉(荒川)がその様子を覗き見するもの。妹の配信内容に気持ちがたかぶった姉は配信に乱入し、「姉妹なのに全然似てない」というコメントに反応してギャルメイクを落とす。荒川は実際に生放送のネタ中につけまつげをとるなどしてすっぴんになり、視聴者らを驚かせた。

Cブロックのサバイバル方式で激突した、ゆりやんレトリィバァ、あぁ〜しらきはファーストステージ屈指の名勝負となった。ゆりやんレトリィバァは空の透明ケースとともに登場し、その中から“エアハムスター”を取り出していろんな芸を披露。私たちには存在が目視できないハムスターを飲み込むなど“荒技”をやってのけ、最後に「本当のエアハムスターは、私たちなのかもしれません」とミステリアスに締めた。一方のあぁ〜しらきは、スティックを持ってドラムを叩くふりをしたり、リズムに乗ったりしながらも、実はその素性は「妖怪角刈りおばさん」だと明かすもの。

両者の奇想天外なネタを目の前にし、審査員の川島明(麒麟)は思わず「どっちも負けっていうのはあるんですか」「(審査を)放棄できないですか」と困惑。同じく審査員の塚地武雅(ドランクドラゴン)も「何を見せてくれてんねん」と苦笑いしながら、あぁ〜しらきに軍配を上げて「いないハムスターより、本物の角刈り」との“名言”を残した。ただこれらの審査員コメントがより、今回の『THE W』の「混沌さ」をあらわしていた。

「混沌」こそが『THE W』の戦い方であり、大会としての味

『THE W』は、お笑いの大型賞レースの中でも、大会の意義などを含めてもっとも風当たりが強い印象がある。その理由の一つとして、2人組以上の芸人のファイナリストが同年の『M-1グランプリ』『キングオブコント』という二大タイトルでなかなか結果を残せていないことが挙げられる。

たとえば『M-1』では、2023年の出場資格を持つ芸人たちが準決勝まで残ることができなかった。紅しょうが、エルフ、ハイツ友の会は準々決勝敗退、スパイク、梵天は3回戦敗退、はるかぜに告ぐは2回戦敗退、ぼる塾は不出場だった。そういったことから、『THE W』の大会自体の格を疑問視する声が後を絶たない。

ただ『THE W 2023』を観る限り、『M-1』など他の賞レースでは評価されづらい「混沌さ」「型破りさ」がもっとも求められるのだと感じられた。それが『THE W』ならではの戦い方であり、また大会としての味なのだと思えた。

『M-1』『キングオブコント』では受け付けられないネタこそ、『THE W』でハマる可能性

そもそも『THE W』には、ピンからグループまでさまざまな人数構成の芸人が出場する。さらにジャンルも、漫才、コントだけではなく、今回のゆりやんレトリィバァのような謎のイリュージョン、あぁ〜しらきのような何ものにも属さない前人未到の芸などが次々と繰り出され、カオスな空間となっていく。サバイバル方式というのも『THE W』の大きな特徴となり、審査員によるジャッジも点数ではなく投票制。大会のあり方自体、唯一無二の「混沌さ」を放っている。

そういった点で『THE W』には、『M-1』『キングオブコント』などとはまったく違う角度の笑いが求められる。むしろ『M-1グランプリ』『キングオブコント』では受け付けられないネタこそ、『THE W』でハマるのかもしれない。その象徴こそが、賞レースでは評価されづらい下ネタ系の「パンツネタ」で優勝した紅しょうがであり、生放送のネタ中にすっぴんになるという部分でも驚きを与えたエルフであり、また妙に胸をざわつかせたゆりやんレトリィバァ、あぁ〜しらきなのである。

また『M-1』ではボケ数の多さやスピード感、『キングオブコント』は演技力の高さ、『R-1グランプリ』はピンでやる意味や「自分性」を出すことなどが「勝ち筋」と言われたりする。その点『THE W』はいかに混沌とした空気を作り出して良い意味で場を荒らし、強烈な印象やサプライズを与えられるかどうかがポイントになるのではないか。

『THE W』は「正統派がいない賞レース」として、今後さらに独自の立ち位置を極めていきそうな予感がする。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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