任天堂 減収減益+業績高止まりの意味 新型ゲーム機の投入時期を考える
任天堂の2023年3月期連結決算が発表され、売上高は約1兆6016億円、本業のもうけを示す営業利益は約5043億円でした。今回の決算と、その背景にある同社の動きについて考えてみます。
◇15年前の絶頂期より上
今回のポイントは、2期連続の減収減益ながら、売上高や営業利益ともに高止まりしていることです。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の出荷数のピークは約2883万台(2024年1月期)。2期連続で500万台減(つまり2年間で1000万台減)にもかかわらずです。
ゲーム機は商品単価が高いため、売上高に大きく影響します。もちろん、単価の高い有機ELモデルが登場し、売れているのもありますが、やはりソフトが好調に売れているのが大きいでしょう。
2024年3月期の売上高予想は1兆4500億円、営業利益は4500億円で、同社の予想通りだと、前年度よりいずれも約10%減です。しかし、実は営業利益率は30%でして、依然として高利益体質を維持しているのが分かります。
ちなみにWiiとニンテンドーDSのダブルヒットをしている時代、売上高が1兆6000億円を突破したのは2期連続止まりでした。現在、3期連続で売上高1兆6000億円を出しているのは、約15年前の絶頂期より上とも言えるのです。
普通の経営視点のセオリーから行けば、増収増益を目指すために「新展開を(つまり新型ゲーム機を出すべき)」となるわけですが、一方でこれだけの業績を出していることは、次の準備(新型ゲーム機)をしながら、現状をなるべく維持するのが得策という考えも成り立ちます。
◇現状維持の意味は
ゲーム機のビジネスですが、ゲーム機がヒットすれば、利益の高いソフトで稼ぎ、さらにプラットフォーマーとしての収益を受け取ります。一方でゲーム機は普及してピークに達したら、その後は右肩下がりになります。そのため、現行ゲーム機の衰退に入ったタイミングで、新しいゲーム機を投入して、もう一度成長のサイクルを目指す……というものです。
ただし、このビジネスモデルは、弱点を抱えています。人気のゲーム機だからといって、その後継機が人気になる保証はゼロということ。失敗すれば、これまでの黒字は吹き飛んで、一気に赤字になる可能性もあるのです。
1億台を出荷したWiiの後継機のWii Uは大きくつまずき、ニンテンドーDSの後継機のニンテンドー3DSも累計出荷数だけでいえば、ほぼ半減。決算でも3期連続の赤字を出したのです。ソニーも大成功したPS2の後継機のPS3は、前評判とは異なり、大苦戦を強いられました。
現在PS5が驚異的な勢いで売れているのでピンとこないかもしれませんが、むしろ大成功した後のゲーム機ほど“引継ぎ”が難しいのです。前世代機のソフトと互換性を持たせても、なお苦しむこともあります。ゆえにゲーム会社経営者が新型ゲーム機の投入を「ギャンブル」というのも道理です。新型ゲーム機の投入時期の判断を誤ると、現在の好調な業績をつぶす可能性があるのです。
ニンテンドースイッチはゲーム機として独自色が強く、高価格・高性能重視のPS5やXbox Series X/Sとは競合しづらい関係にあります。また今は世界的なインフレも無視できません。さらにネットを活用して買い占めと高値売り抜けを狙う悪質な転売も横行していて、その対策も難しいものがあります。現状と好調な決算を総合的に考えると、新型ゲーム機の投入をさほど急ぐ意味がないのです。
今のニンテンドースイッチの性能では、グラフィック重視のリッチなゲームは対応しづらい弱点があるのも確かです。ですが、高性能化の方向性は、PS5やXbox Series Xと競合することを意味し、得策とは言えません。
情報に敏感な人ほど未来に目が向きがちですが、現在ニンテンドースイッチを購入している人たちを、しっかり満足させることも大事です。それが次につながってくるのですから。