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韓国政府は北朝鮮の平昌五輪参加をどう評価したか

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
平昌五輪を観戦する韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領。(写真:ロイター/アフロ)

2月25日、平昌(ピョンチャン)オリンピックが閉幕し、3月9日のパラリンピック開幕までの「休憩期間」に入った。慌ただしかった五輪前後の南北関係について、韓国政府がどう見ているのかをまとめた。

統一部が「まとめ」資料を発表

閉幕式に先立つ23日、韓国の統一部は「平昌冬季オリンピック 北朝鮮参加関連 総合説明資料(以下、資料)」を発表した。15ページで構成される。

今年1月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「新年辞」の中で、「南朝鮮(韓国)で開かれる冬季オリンピックに(中略)代表団の派遣を含め必要な措置を採る用意がある」と言及したことをきっかけに、わずか二か月の間に起きた南北関係の変化をまとめた資料だ。

2月9日の平昌五輪開幕式で、南北合同入場を見守る、左から韓国、北朝鮮、米国の代表団。写真は青瓦台提供。
2月9日の平昌五輪開幕式で、南北合同入場を見守る、左から韓国、北朝鮮、米国の代表団。写真は青瓦台提供。

資料ではまず、北朝鮮が平昌五輪へ参加する「平和オリンピック」構想は、文在寅大統領の候補時代からの公約であり、就任後も一貫して進められてきたものと自画自賛した。特にIOC(国際オリンピック委員会)との協力も強調されている。

さらに、2月9日の開幕式と前後し、慌ただしく行き来した、三池淵管弦楽団、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会第一副部長など北朝鮮代表団の動静も詳細に整理してある。

6つの「評価および意義」

韓国政府による評価は、6つに別れる。韓国の南北関係と朝鮮半島情勢についての現状認識が分かる内容なので、個別に丁寧に見ていきたい。

その1: 「平昌五輪」を「平和五輪」として成功裏に開催することに寄与

北朝鮮の参加によって、平昌五輪が「平和五輪」になったという見方だ。「世界人類のスポーツの祭典という意味に加え、分断された朝鮮半島で南北が共に参加する『平和』の意味が合わさった」とする。

資料によると、高位級代表団30人、選手団46人、芸術団137名、応援団229人など、北朝鮮から合計500人におよぶ代表団が参加した。

また、北朝鮮の参加により、国内外の平昌五輪への注目も集まった点や、朝鮮半島の緊張緩和により韓国経済の安定性を高める効果があったとした。

2月8日、江陵(カンヌン)市内で公演を行う、北朝鮮の三池淵管弦楽団。写真は統一部提供。
2月8日、江陵(カンヌン)市内で公演を行う、北朝鮮の三池淵管弦楽団。写真は統一部提供。

その2: 断絶した南北関係の復元と朝鮮半島平和定着のための土台に

平昌五輪への参加をきっかけに、板門店の直通電話(通信文)、西海(黄海)の軍通信線、陸路、海路、航空路などが再開された点を挙げる。

16年1月に北朝鮮が核実験を行い、同2月に当時の朴槿恵(パク・クネ)政権が開城工業団地の閉鎖を決めて以降、断絶していた南北を結ぶルートがはじめて使用された。

ソウル北部から北朝鮮へと向かう「関所」の統一大橋。この先は開城工業団地、板門店へと続く国道1号線だ。今回、この道も多く利用された。2月、筆者撮影。
ソウル北部から北朝鮮へと向かう「関所」の統一大橋。この先は開城工業団地、板門店へと続く国道1号線だ。今回、この道も多く利用された。2月、筆者撮影。

資料ではまた、「朝鮮半島の問題解決における、韓国政府の主導的・積極的な役割が際立った」と評価した。

「北朝鮮の五輪参加は、韓国政府の一貫した努力に北朝鮮が呼応したものである」とした上で、「平昌五輪の成功を通じ、朝鮮半島の問題の当事者として、南北が主導的な役割をしなければならないという国際社会の支持が拡散した」とまとめた。

こうした内容を補完するものとして、王毅中国外交部長の「平昌五輪を始まりに、南北が朝鮮半島の平和の門を開くことを希望する」という談話などを紹介している。

その3: 北朝鮮の「訪南」調節過程で、南北間の理解と信頼が高まった

平昌五輪への参加における詳細を詰める過程で、北朝鮮側は「過去のような『格』の問題や、(政権への)非難などを行わず、相互尊重の態度を堅持した」とした。

「格」の問題とは、高位級会談を行う際に、南北代表の格が合わないと北朝鮮側が批判してきた件を指す。

実は今回、1月9日に行われた一回目の南北高位級(閣僚級)会談において、韓国側の代表である趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官と、北朝鮮側の代表である李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員長の「格が合わない」という議論が、韓国の一部に存在した。

今年1月9日、約2年ぶりに行われた南北高位級(閣僚級)会談で握手する北側の李善権(リ・ソングォン、左)代表と、南側の趙明均(チョ・ミョンギュン)代表。写真は統一部提供。
今年1月9日、約2年ぶりに行われた南北高位級(閣僚級)会談で握手する北側の李善権(リ・ソングォン、左)代表と、南側の趙明均(チョ・ミョンギュン)代表。写真は統一部提供。

これは従来からあった議論で、2013年にも同じような議論の末、南北会談が取り消しになった事例もある。

今でも「統−統ライン」と呼ばれるように、統一部のカウンターパートは統一戦線部と一般的には見られている。2016年に「祖国平和統一委員会」が党の外郭団体から「国家機構」に「格上げ」になったとはいえ、南北対話の出だしがうまくいくよう、韓国側が譲歩した格好ではないかと筆者は見る。

また、分断以降はじめて、北朝鮮の憲法上の国家首班(金永南)と、最高指導者の直系家族(金与正)が派遣されたことから、北朝鮮の「南北関係改善への意志を確認した」とした。

その4: 南北関係改善が朝鮮半島の平和定着につながる要件を作った

2月10日に行われた、文大統領と北朝鮮高位級代表団(金永南、金与正)の「接見」において、北側に対し「米朝対話の必要性を強調するなど、朝鮮半島の平和定着における韓国側の立場を伝えた」とした。

金与正氏が「北朝鮮へ招待する」という兄・金正恩委員長の意を伝え、文大統領が「要件を整え実現させよう」とした当時のやり取りを、資料では「事実上の南北最高指導者間の間接対話」と位置づけている。

2月10日、文在寅大統領に金正恩委員長の「親書」を手渡す金与正特使。写真は青瓦台提供。
2月10日、文在寅大統領に金正恩委員長の「親書」を手渡す金与正特使。写真は青瓦台提供。

資料ではまた、非核化についても言及している。

「非核化に対する北の公式的な立場の変化はないが、米朝ともに対話自体に対しては肯定的な立場を表明するなど、平昌五輪を契機に朝鮮半島の平和定着の過程に進展の可能性が期待される状況」としている。

なお、これと関連し、26日の韓国各紙は「25日の文大統領と金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長の会談の中で、文大統領が直接『核凍結→核廃棄の2段階ロードマップ』を強調した」と報じている。

従来の米朝対話の推進という立場に加え、アジェンダ(議題)のセッティングにも韓国が口を出す積極的な姿勢が見て取れる。

いずれにせよ、韓国政府は肯定的な姿勢を崩さない。

資料では「北朝鮮としても南北関係の追加的な進展のためには、非核化対話での進展が欠かせないという点を明確に認識する契機となった」と、北側の立場をも代弁した。

その5: 米韓間での緊密な協力の維持および、国際社会の北朝鮮制裁の枠を遵守

北朝鮮の平昌五輪参加をめぐり何度も議論になった部分だ。国際社会による北朝鮮制裁には、五輪参加前も今も同様だとする見方を示した。

韓国政府は一連の動きの中で「平和五輪の趣旨、象徴性、南北間の慣例などを考慮し、国連制裁委員会および米国など関連国と緊密に協議した」と評価した。

特に「米国とは、北朝鮮代表団の訪韓前から細部まで緊密に協調した」としている。

2月8日、文大統領と会談を行う米国のペンス副大統領(左)。訪韓中に北朝鮮代表団との接触予定があったが、北側のドタキャンにより中止になっていたことが後に判明した。写真は青瓦台提供。
2月8日、文大統領と会談を行う米国のペンス副大統領(左)。訪韓中に北朝鮮代表団との接触予定があったが、北側のドタキャンにより中止になっていたことが後に判明した。写真は青瓦台提供。

トランプ大統領が1月4日に語った「米国は文大統領を100%支持する」という発言も引用し、日本などが懸念する「日米韓からの韓国切り離し」は「無い」と強調した格好だ。

また、北朝鮮もこうした韓国政府の立場を支援したとの見方を示した。「北朝鮮も韓国側に負担を与えないために、『万景峰92号』に対する油類支援要請を撤回した」との例を挙げている。

その6: 準備過程で国民との疎通、共感の努力が足りなかった部分が存在

最後の6つ目の評価としては、韓国世論への配慮を示した。これまで筆者も紹介してきた通り、平昌五輪への南北同時入場や、女子アイスホッケー単一チーム結成などの過程で、韓国政府は世論の反発にぶつかった。

世論の反発は支持率の低下として現れた。これは同政府としても予想外だったようで、後に統一部長官などが「日程が急であるための配慮が及ばなかった」と弁明している。

資料でも、「平和イメージの構築などの北朝鮮の意図、北朝鮮制裁への共調を瓦解させようという狙いや、北朝鮮核問題が以前と変わらない状況下で、南北関係改善の適切性についての憂慮が提起された」と問題を認めている。

1月22日、北朝鮮の玄松月(ヒョン・ソンウォル)事前点検団長を迎え、反北朝鮮デモを行う保守政党「大韓愛国党」の市民たち。金正恩氏や北朝鮮の国旗をあしらった紙に火をつけるパフォーマンスを行った。筆者撮影
1月22日、北朝鮮の玄松月(ヒョン・ソンウォル)事前点検団長を迎え、反北朝鮮デモを行う保守政党「大韓愛国党」の市民たち。金正恩氏や北朝鮮の国旗をあしらった紙に火をつけるパフォーマンスを行った。筆者撮影

北朝鮮の反応は「評価」も…

資料ではさらに、北朝鮮の反応についても一項を割いて説明した。簡潔に要約すると「北朝鮮メディアが平昌五輪参加をめぐる動向を友好的に取り上げた」というものだ。

特に、金正恩氏が2月12日に、金永南・金与正両氏を含む高位級代表団から直接、韓国訪問結果についての報告を受けた点、さらに「今後の南北関係改善および発展の方向を具体的に提示」し、「具体的な対策を立てるよう指示した」と翌13日に北朝鮮メディアが報じた点を重視した。

2月12日、韓国訪問を終え、金正恩氏に報告する金永南最高人民会議常任委員長(左から2人目)と、金与正朝鮮労働党中央委員会第一副部長(右から2人目)。朝鮮中央通信より引用。
2月12日、韓国訪問を終え、金正恩氏に報告する金永南最高人民会議常任委員長(左から2人目)と、金与正朝鮮労働党中央委員会第一副部長(右から2人目)。朝鮮中央通信より引用。

一方で、韓国に対するものとは異なる米国への立場についても言及した。2月19日の朝鮮中央通信による「対話も戦争も全て準備ができている」という報道を引用している。

また、パラリンピック以降、米韓連合訓練再開時に関し、北朝鮮が「断固として対応」するという点も引用した。だが、「北朝鮮は米国との対話自体は拒否していない」とした。

今後の南北関係は「急がない」

資料では最後に、今後の南北関係について3つの項目でまとめている。こちらも重要なので丁寧に見ていく。

その1: 長い呼吸で急がずに、一歩一歩南北関係を改善する努力を続ける

具体的には、「特使の派遣、高位級ならびに軍事など分野別の対話を続けながら、朝鮮半島の状況を安定的に管理する」とした。注目の文大統領の訪朝に関しては「要件を醸成するのに注力する」と落ち着いたトーンを見せた。

また、今後再開または活性化が見込まれる南北交流については「まずはパラリンピックを準備」としながらも、「キョレマル(民族語)大辞典」、「満月台(マンウォルデ、北朝鮮の開城にある高麗時代の王宮)発掘」など、「民族同質性を回復する事業」を示した。

南北対話の裏でも南北スポーツ交流は続いている。写真は1月26日、中国・昆明で行われた南北間での試合の写真。北側の4.25選手団が韓国の江原FCに2:1で勝利した。写真は主催した南北体育交流協会の提供。
南北対話の裏でも南北スポーツ交流は続いている。写真は1月26日、中国・昆明で行われた南北間での試合の写真。北側の4.25選手団が韓国の江原FCに2:1で勝利した。写真は主催した南北体育交流協会の提供。

さらに、「保険医療、山林、宗教、体育、文化分野での民間・自治体の南北交流活性化」を明記した。また、「離散家族、拉北者、国軍捕虜、抑留者、北朝鮮の脆弱階層の生活の質改善」など、人道的問題の実質的な進展にも努力するとした。

その2: 南北関係の進展と朝鮮半島の非核化の善循環構図を形成

前述したような交流とは別に、「北朝鮮の核・ミサイルの高度化の厳重性を深刻に認識し、非核化という立場を明確に固持していく」とした。

さらに「南北関係の追加的な改善のためには、米朝対話など非核化過程での進展が必要」とした。

1992年、南北は「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」を採択した。第一項目には「南と北は核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない」とある。写真はハンギョレより引用。
1992年、南北は「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」を採択した。第一項目には「南と北は核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない」とある。写真はハンギョレより引用。

これもやはり、文在寅政権がこれまで繰り返してきた「南北対話と非核化対話は分離しつつも、南北関係と北朝鮮核問題を互いに良い影響を与えながら改善していく」という原則にのっとったものだ。

また、「北朝鮮問題の当事者として、持続可能な朝鮮半島の平和定着のために主導的な役割を果たす」としている。その上で、「米朝対話の開始を支援・けん引しながら、必要時には斡旋、仲裁の役割を行う」としている。

韓国側の「手応え」が伝わる一文だ。

その3: 国民と国際社会の共感帯に基づく北朝鮮政策を推進

最後の部分では、「国民からの多様な憂慮と指摘を謙虚に受け入れる」と、世論に配慮する姿勢を示している。

特に、「今回明らかになった『国民の北朝鮮認識の変化』、『若者世代の価値と要求』を直視し、理念と世代をまとめる『国民と共にする北朝鮮政策』を推進する」としている。

これは、「分断が固定化し、統一を至高の目的とする層が減った」という点と、「南北関係改善のための犠牲を受け入れない世代が増えている」という韓国社会の変化の両面を指すものだ。

「文在寅の朝鮮半島政策」政策推進体系図。統一部の資料とまったく同じ形状のものを筆者が作成した。
「文在寅の朝鮮半島政策」政策推進体系図。統一部の資料とまったく同じ形状のものを筆者が作成した。

政府はこうした異見を乗り越え、「『統一のための約束(仮称:統一国民協約)』の制定など、国民との疎通努力を続ける」とした。

また、文在寅政権の朝鮮半島政策である「『平和共存』と『共同繁栄』」のビジョンを国際社会と共有」し、「分断を根源的に解消すると共に、構造的な平和を定着させるために最善を尽くす」とした。

韓国政府の評価を注視すべき理由

長々と引用してきたが、これは「現在の朝鮮半島情勢において、韓国政府の視線は非常に重要である」という理由による。

昨年末から今年にかけ、韓国政府が実現させてきたことは決して過小評価するべきではない。北朝鮮の平昌五輪参加を成功させたばかりか、今では非核化(核凍結)を明確な議題にし、米朝対話を促し続けている。

もちろん北朝鮮には、韓国が最も与(くみ)し易いという「狙い」と共に、国際社会による経済制裁の効果という、切羽詰まった「事情」があるのかもしれない。だが、韓国も負けていない印象だ。

余談だが、筆者は北朝鮮が対話に乗り出してきた理由の一つに挙げられる「経済制裁の効果」をどう計測するのかについて懐疑的であり、そうした議論や情報がもっとオープンに共有されるべきだと思っている。

とはいえ、国家情報院などを通じたオリジナルの情報を持つ韓国政府が、何かしらの根拠を持って「北朝鮮を表舞台に引っ張り出し、対話の要求を繰り返している」点はそう簡単に無視できない。

このような理由から、韓国政府による北朝鮮への視線が今後、国際社会の北朝鮮観に大きな影響を与えることは間違いない。

今回の評価から、韓国政府が気にするのは「韓国内の世論」である点が伺えるのも興味深い。弱みをしっかり認識している印象だ。次回は、韓国社会の評価をまとめる。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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