「受動喫煙」への対策を強化する法改正について(助成金情報あり)-弁護士が解説
非喫煙者が喫煙者の吸ったタバコの煙を吸い込む「受動喫煙」への対策を強化する改正案が通常国会に提出されることが明らかとなりました。
そもそも、これまで受動喫煙について、法律上はどのように扱われてきたのでしょうか?
(受動喫煙の防止対策については、経済効果についての賛否がありますが、本稿では触れません)
現在の受動喫煙の対策に関する法律
受動喫煙対策については、健康増進法に規定がありますが、その中では、官公庁、学校、病院、飲食店などに対して、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずることを努力しなさいという「努力義務」は課せられていますが、実際に対策を講じなくても罰則はありません(参照1)。
また、労働安全衛生法においても、事業者に対して、労働者の受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように定められていますが、これもやはり「努力義務」に留まるものです(参照2)。
これまでの裁判例について
また、裁判においても、受動喫煙の対策についてはあまり厳しい判断はされてきませんでした。
例えば、従業員が雇用主に対して受動喫煙の防止をするように求め、対策を講じてくれなくて損害賠償請求したり、隣人の喫煙により迷惑を被っているため損害賠償請求したりするような事案では、基本的に喫煙者の違法性を認めることはなく、多少、受動喫煙をすることになっても我慢しなさいという判断がなされてきました(生活の中である程度のことは我慢しなさいという理屈で、受忍限度といいます)。
しかしながら、このような受動喫煙に対する寛容な判断が少しずつ変わってきており、平成16年7月12日には、東京都江戸川区の職員が区に対して行った、受動喫煙を原因とした慰謝料請求が認められました(勝訴金額は5万円)。
また、平成24年12月13日には、名古屋でマンションの隣人による喫煙についても違法性を認め、5万円の慰謝料請求が認められています。
神奈川県の受動喫煙防止条例について
このような司法の流れの中、平成22年4月1日には、神奈川県では全国初となる受動喫煙防止条例を施行しました。
この条例では、官公庁、学校、病院などについては全面禁煙、飲食店やホテルなどについては禁煙か分煙かを選んで措置を講ずることを義務付け、指導や命令にも従わない団体には5万円以下の過料を科し、また、禁煙区域で喫煙した者にも2万円以下の過料を科すことが定められています。
また、神奈川県に続いて、兵庫県でも、平成25年4月1日に同様の条例が施行されました。
違反に対する処分がわずかな過料ではありますが、初めて受動喫煙の対策違反について罰則を設けたことは新たな取り組みとして評価されるものでした。
法改正について
このような流れの中、健康増進法の改正法案が提出される見込みで、おそらく神奈川県条例と同様に、官公庁、学校、病院などは全面禁煙、飲食店などは禁煙か分煙かを選択した上で、受動喫煙の対策を講じる義務付けがされる見込みです。
しかし、他の先進国と比較すると、これでもまだまだ不十分で、例えば、日本も締約しているはずの世界保健機関(WHO)のWHOたばこ規制枠組条約第8条及び同ガイドラインでは、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所などでは禁煙とすべきで、かつ、100%禁煙以外の措置は不完全であるとまで定められています。
そのため、オリンピックに向けて、ますます増加していく訪日外国人からすれば、決して評判の良い状態ではないと思われます。
今後、努力義務ではない受動喫煙の防止対策義務が規定されれば、行政からの指導や罰則はもちろん、これまで以上に禁煙・分煙措置をしていない事業者や喫煙者の違法性が認められやすくなり、賠償請求にさらされる機会が増えることになると思われますので、今のうちから対策を講じていくべきかと思います。
受動喫煙防止対策助成金
ただ、禁煙や分煙の措置を講ずるためには費用がかかります。
その費用を少しでも軽減するために、厚労省では、上限額を200万円とする助成金を支給しています。
詳細は以下のリンクのとおりですが、こういった助成金制度がいつまで続くかわかりませんから、今のうちに対策を講じることを検討されてはいかがでしょうか。
※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。