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デマの多いLGBT理解増進法案に対する理解増進をせよ!(弁護士が解説)

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(写真:アフロ)

LGBT理解増進法案について、与党修正案について6月16日にも参院本会議で可決、成立する見通しとなっています。

同法案については、性自認、性同一性障害、ジェンダーアイデンティティの定義の是非や、法案の成立過程、従来の議論過程等で様々な賛否がなされていますが、ひとまずこれまでの経緯は置いておいて、今回、成立見通しの法案の内容そのものについて解説したいと思います。

まず、大前提として、法案を議論している人の中には、一度も法案の原文を読んだことがない人が多数含まれていると思われます。原文を読まずに、インフルエンサーやマスコミやネット上の情報等から、勝手に法案を解釈してしまっており、デマが拡散され過ぎています。

一度でいいから原文に当たった上で議論すべきです。

マスコミも、現在進んでいる法案がすぐに確認できるように、原文のリンクくらい都度貼るべきでしょう。

古い法案への解釈を前提に議論している人が多数いるように思われます。

検索サイトで調べると古い法案が最初に出てきてしまうせいかもしれません。

成立見通しの与党修正案 LGBT理解増進法案

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g21105013.htm

さて、この数日、SNSでも様々な議論が行われていますが、ひろゆきさんや参政党津島市議会議員の野口こうきさん(長いのでトップに表示されていないところまでご確認ください)がTwitter上で以下のようなツイートをし、これに追随するように多数のTwitterユーザーが同法案を危険視する意見を述べていました。

引用URL:https://twitter.com/hirox246/status/1669015407137640449

引用URL:https://twitter.com/117_nogutan/status/1667038882310008839

結論から言えば、いずれも今回、成立見通しとなっているLGBT理解増進法に対する理解としては完全に誤っていると考えます。

まず、ひろゆきさんが引用している条文は、今回成立予定の自民党修正案ではなく、古い野党案です。野党案は、LGBT差別禁止法(差別解消法)とも呼ばれるように、LGBTについての差別を禁止する条項が入っていました。

この場合、確かに、事業者らがLGBT、特にT(トランスジェンダー)に当たる身体的には出生による性のままだが、性自認が別の性である人への対応について、悩ましい問題が起きることが考えられました。

しかし、今回、実際に成立見通しとなっているLGBT理解増進法案(冒頭で引用したもの)は、基本理念(3条)にのみ、「・・・性的指向及び性同一性(*ジェンダーアイデンティティに修正)を理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に・・・」と規定されているのみで、その他諸規定にはLGBT差別を禁止する法的義務はおろか、努力義務さえも明記されていません。

(*なお、ひろゆきさんのツイートには今回成立見通しの法案との記載がないので、敢えて古い法案を引用しているだけかもしれません。)

古い野党案(ひろゆきさん引用) LGBT差別禁止法案 検索サイトで最初に出てくるので注意!

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g20805055.htm

今回成立見通しの法案に規定されているのは、

①目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)*3条の基本理念にある「不当な差別はあってはならない」という記載は具体的な義務を課すものではないです

②国、政府について、国民のLGBT理解増進の施策策定と実施(4条)、年一で施策の実施状況の公表(7条)、基本計画の策定等(8条)、施策策定のための研究推進(9条)、知識の普及等(10条)、内閣官房や省庁の理解増進連絡会議を設けて連絡調整(11条)

③地方公共団体について、国と連携して理解増進の施策策定と実施(5条)、知識の普及等(10条)

④事業主及び学校について、「全て努力義務として」、労働者や生徒学生の理解増進に関し、環境整備や相談機会確保等、及び、国や地方公共団体の施策に協力(6条)、並びに、相談体制の整備等の必要な措置

⑤全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意(12条)

のみです。

国民側に求められているのは、LGBTを差別しないことではなく、LGBTに関する理解増進するように努めることだけです。

「努力義務」とは、違反しても刑事罰等のペナルティのない義務で、遵守するか否かは基本的に当事者の任意の協力によるものです。

このように、日本のLGBT理解増進法案は、諸外国で規定されて問題が起きている差別禁止法案とは全く異なります。むしろ、実効性のない骨抜きの法案という意見や、では差別してもいいのかと思われないかといった批判もあります。

少なくとも、女性を自認する男性器のある人が「温泉旅館の予約がしたい。男湯はありえない。」と言った時に、女湯に入るのはまずいので温泉旅館が予約を断った場合に、差別になるかどうかを議論する必要のある法案ではありません。

LGBT理解増進法案は、現在の法体系を何ら変更するものではないため、上記の例であれば当然に拒否できます。

女子トイレの場合も同様です。

以下のようなツイートがあります。

今回の法案ではこのような事態を許容するものでは決してなく、これは駅員の完全な勘違いです。そもそも、まだ成立していない法案です。

法案が成立すらしていないのに、引用ツイートのような対応をしている時点で、全く理解が足りていない状況です。

このケースでも、当然、利用を拒めますし、特段の事情のない限り、これまでと同じように警察対応も期待できる状況です。

勝手に性自認で差別できなくなったと思い込んでいるだけで、この意味で、LGBT理解増進法案を正しく理解増進する必要があります。

これは、これまでのマスコミやインフルエンサー、政治家が過剰な煽り発言をしていたことより、デマが拡散され過ぎているせいだと思います。

先に引用した参政党の野口こうき市議会議員のツイートの解説もまるで出鱈目です。

LGBT理解増進法のどこにもペナルティを科す条文などないにもかかわらず、法案の内容を捻じ曲げて解釈、LGBT差別をすれば逮捕される可能性があるとまで発言しており、非常に問題があり国民を徒に誤解させ、分断を煽る投稿です。

立法の制定過程で、様々な批判があったことはその通りで、だから野党も批判したいのはわかりますが、制定過程に問題があったことと、その法案の内容の良し悪しは全く別問題です。

もちろん、今回のLGBT理解増進法の成立を足掛かりに、差別禁止法に法改正されたり、様々な施策を講じる努力義務があることから、訳のわからない講習業者等がわらわらと誕生し、そこに補助金がつけられて無駄な公金支出がされる可能性がある等、今後、注意して監視すべき様々な問題はあります。

しかし、それらは本法案に限った話ではありませんし、ひとまず現状のLGBT増進法案を正しく理解した上で、議論すべきことだと思います。

LGBT理解増進法案の成立により、とんでもない世の中になってしまったと思っている人は、是非一度だけ原文を読んでいただくようにお願いします。

6条だけでも構いません(最後に引用しておきます)

なお、僕自身は、LGBT法案には賛成でも反対の立場でもありませんが、原文を無視して、間違った理解を前提に議論することだけは避けるべきで、そのような有り様自体が民主主義の過程において非常に危険で恐ろしく感じたため、今回、このような記事を書かせていただきました。

また、本稿の趣旨とは異なるため、法案の当否や、性的指向、性自認、性同一性障害、ジェンダーアイデンティティ、同性婚等の理解や評価等については一切控えさせていただきました。

(事業主等の努力)*自民党修正案

第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

2 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下この項及び第十条第三項において「児童等」という。)の理解の増進に関し、家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

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