Yahoo!ニュース

『モンスターストライク』ではボールをぶつけるけど、中のモンスターは大丈夫なのだろうか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

初めて『モンスターストライク』を見たときには、ビックリした。

これ、モンスターの入った透明なボールをぶつけることで、敵を撃破していくゲームだが、大切に育てたモンスターを敵にぶつけちゃっていいの!?

モンスターたちは、敵や壁にぶつかってハネ返ったり、敵に貫通して爆発を起こしたり……を繰り返してステージを進め、クリアするとピョンピョン飛んで大喜び!

するとこっちも嬉しくなってしまうのだが、うーん、あんなにドカドカ衝突して大丈夫なのかなあ。

筆者はこのように、ゲーム内の現象が気になってしまって集中できず、ゲームは超弱いのだが、せっかくだから考えてみたい。

『モンスト』でボンボンぶつかっているモンスターたちの衝撃は、いったいどれほどなのか?

◆ぶつかるスピードは相当速い!

ゲームの「モンスター図鑑」を見ると、スピードの欄に「時速84.13km」や「時速86.53km」などと書いてある。なかには「時速201.10km」とか「時速311.53km」なんて超高速のヒトタチまで!

これはたぶん敵にぶつかるスピードであろう。大相撲の力士が立ち合いでぶつかる速度ですら時速10kmほどだから、かなり速い。

こんな高速でぶつかったら、モンスターたちは大変な衝撃を受けるはずだ。

そのショックの大きさは、モンスターたちの体重によっても変わってくる。人間は高さ1mから落ちても大ケガをすることがあるが、同じ高さからカブトムシやカナブンを落としても平気である。落とす高さが同じなら、地面にぶつかる速度も同じだが、体重が重いほど、受けるダメージは大きくなるということだ。

モンスターたちの大きさは公表されていないようなので、ゲームの画面から割り出してみよう。

測定のしやすさを考えて、取得したモンスターのなかで、比較的スピードの遅いナンバー135「ブルーリドラ」を選んでみる。そのスピードは時速81.00km。遅いとはいえ、高速道路をかっ飛ばすような速度である。

ブルーリドラをフィールドの端から、長い上下の辺に沿って発射してみると、0.66秒で反対側にぶつかった。ここから、フィールドの縦は16.2mと推定され、これと比較すると、ブルーリドラが入ったボールの直径は1.34m。

運動会の「大玉転がし」競技の大玉くらいの大きさということだ。

このサイズのボールのなかに、首長竜のような体形をしたブルーリドラが、体を丸めてぎゅうぎゅう詰めに入っているわけである。

ボール内の空間の70%をブルーリドラの体が占めると仮定すれば、体重は880kg。結構な重量だ。

体重880kgの生物が時速81kmでぶつかるときに受けるダメージを計算すると、なんと体重70kgの成人男性が高度140mから落ちたのと同じ……!

思った以上の衝撃である。

◆完全弾性衝突が起こってる!?

注目は、ボールが壁にぶつかったとき、ほとんどスピードを落とさずにハネ返ること。これは「完全弾性衝突」に近いことが起こっている!

通常、物体が壁などにぶつかると、跳ね返るスピードは、ぶつかる前よりも遅くなる。そのときの遅くなる割合が「反発係数」で、たとえば時速100kmでぶつかったものが時速80kmで跳ね返ったら、反発係数は0.8になる。

実際に衝突する場合、反発係数は1より小さくなる。

これは「ぶつかった衝撃でエネルギーが失われるから」だ。失われたエネルギーは、音や熱に変わったり、物体の破壊に使われたりする。生き物の場合は、体へのダメージになる。

すると、『モンスト』のボールと壁の衝突において、反発係数が1に近いとしたら?

その場合、ほとんどエネルギーは失われないことになり、モンスターたちのダメージもわずかで済むことになる。壁も、ボールも、内部のモンスターたちも、硬くて変形しないか、弾力性が豊かなのだろう。

だが、それはそれで心配だ。衝突でエネルギーが失われないとしたら、敵にもダメージを与えられないのでは?

そこで画面をよーく見てみると、おおっ、モンスターの入ったボールは、壁に当たったときは、ほぼ同じ速度で跳ね返るけど、敵にぶつかったときは、スピードが遅くなっている!

これは、相手の体が柔らかいか、衝突の衝撃で破壊されたからではないだろうか。

ということは、ダメージを受けるのは相手だけ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

意外であった。『モンスト』では、あんなにボンボンぶつかっているモンスターたちだけど、その衝撃は思った以上に少なそう、ということだ。

筆者と同じようにモンスターたちの安否を気にしていた皆さん、空想科学的には「ドカドカぶつけても大丈夫」という結論に至りました。心おきなくゲームをお楽しみください。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事