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中国の核搭載爆撃機が敵基地を攻撃!――この勇ましいPR動画はハリウッド映画のツギハギだった

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国空軍が公開した動画の爆破シーン=微博より筆者キャプチャー

 中国空軍が制作したプロモーション動画に、米ハリウッド映画のシーンが“借用”されていたことが発覚し、中国のネットユーザーの間で批判が起きている。中には「『世界最大の軍事大国を目指す』という夢の正体は、米ハリウッド映画のツギハギだったのか」との皮肉も投稿されている。

◇全民国防教育日に公開

 中国空軍は「全民国防教育日」(毎年9月の第3土曜日)の9月19日、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」のアカウントで、2分15秒の動画を公開した。そこには、勇ましい音楽が鳴り響くなか、核攻撃能力を備えたH6爆撃機が砂漠の基地を離陸して出撃するシーンが描かれている。

 飛行中、パイロットが機内のボタンを押すと、ミサイルが発射される。滑走路に着弾すると、地面が揺れて爆発し、巨大な炎が巻き上がる。こんなシミュレーション映像だ。

 有力ニュースサイトの中国経済網は19日、この動画に関連して「戦神H6、出撃!」と題して、次のような文章を記している。

「大国、剣を帯び、遠くの相手の急所を突く! 人民空軍は祖国の空の安全の擁護者として、自信と能力を持って、祖国の空の安全を常に守っている。本日(19日)は第20回全民国防教育日。動画をクリックして、H6が攻撃する衝撃的瞬間を感じてください!」

 ところがロイター通信などが21日、この標的が米領グアムのアンダーセン空軍基地の滑走路と同一に見えると報道。同時に中国のネットユーザーから「爆撃の場面が米ハリウッド映画『ザ・ロック』のシーンと全く同じ」という指摘が相次いだ。

 確かに、中国空軍の動画にある「滑走路に巨大な炎が巻き上がる」場面は「ザ・ロック」のシーンの縮尺を変えて使っているように見える。

「ザ・ロック」のワンシーン=YouTubeより筆者キャプチャー
「ザ・ロック」のワンシーン=YouTubeより筆者キャプチャー

 微博上には中国のネットユーザーから「知的財産権の意識はないのか」「自軍のプロモーションビデオに、なぜ自国の映像を使わないのか」などの批判が相次いだ。

◇台湾海峡の緊張の中で公開

 一方、欧米メディアが問題視しているのは、攻撃対象が、米国がアジア太平洋地域での有事に対応する際、重要な役割を果たす「アンダーセン空軍基地」の滑走路とされている点だ。

 台湾海峡での緊張が高まっている中で公開されたことから、「この動画は、グアムなど安全と思われる後方の場所でさえ、台湾や南シナ海などの地域で紛争が発生した時、脅威にさらされる可能性があることを、米国人に警告する意図がある」(英紙デーリー・テレグラフ)などの指摘が出ている。

 台湾海峡は、8月9~12日にアザー厚生長官、9月17~19日にクラック国務次官という米高官の相次ぐ台湾訪問により、緊張が高まっている。

 中国側はこれらを「内政干渉だ」として強く反発し、大陸と台湾を隔てる台湾海峡の「中間線」(米国が1950年代に設定した事実上の停戦ライン)や台湾の防空識別区域(ADIZ)に戦闘機を送って挑発している。ADIZ侵入の際にはH6も動員された。

◇旧ソ連製が原型

 H6は旧ソ連製TU16が原型の中・長距離爆撃機。中国は1956年にソ連から製造技術の移管を受け、翌年、ライセンス生産を始めた。空対艦ミサイルや巡航ミサイルを搭載でき、戦闘行動半径も1100マイル(1770km程度)あるため、米国の空母機動部隊に対する抑止力としての役割が想定されている。

 H6の動きは近年、目立っている。

 16年12月には東シナ海から南東に飛行し、沖縄の宮古海峡を通過して太平洋に抜けた。同じころ、南シナ海の「九段線」(中国が南シナ海で独自に引いた境界線)に沿って飛行しているのが確認された。17年には宮古海峡や対馬海峡、台湾海峡の上空を飛行し西太平洋へ抜けている。

 昨年1月にも長距離飛行訓練のため、中国南部から台湾南方のバシー海峡を通過して西太平洋へ抜けた。同7月にはロシアの爆撃機と編隊を組んで沖縄県・尖閣諸島に接近するという異例の行動を見せたこともある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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