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【戦国こぼれ話】毛利元就が3兄弟に与えた「三矢の訓(みつやのおしえ)」は、史実だったのだろうか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
毛利元就は、1代で毛利氏を中国地方を代表する戦国大名に発展させた。(提供:アフロ)

 Jリーグの開幕に先立って、サンフレッチェ広島の選手やスタッフが、清(すが)神社(広島県安芸高田市)で必勝祈願をした。同神社は毛利元就ゆかりの神社で、チーム名の「三矢の訓」に関係している。元就と「三矢の訓」について考えてみよう。

■毛利両川体制とは

 「三矢の訓」に触れる前に、その元となる毛利両川体制を取り上げておこう。

 毛利氏と言えば、毛利両川体制で知られている。毛利両川体制とは、戦国時代に毛利元就が中国地方を領有した際、新たに確立した軍事または政治組織の通称である。単に「両川体制」ともいう。

 元就が実子の元春・隆景を吉川氏・小早川氏の当主にした頃、毛利氏は安芸の国人領主の盟主的な地位にあった。しかし、彼ら国人を支配するだけの政治・軍事力が十分ではなく、吉川・小早川両氏ら有力国人と毛利氏とは対等の立場にあった。

 毛利氏が安芸の支配権を確立するのは、中国・北九州に勢力を持った大内氏が滅亡し、さらに厳島の戦いで陶晴賢を倒した弘治年間(1555~57)以降のことである。

 弘治3年(1557)、元就は嫡男の隆元に家督を譲った。同年11月、元就は隆元・元春・隆景の3兄弟に「三子教訓状」を与えた。そこには、何が書かれていたのか。

 元就は毛利家の存続を第一とし、吉川・小早川の支援は当面のものであり、毛利家中を盛り立てるため兄弟が協力する必要性を説いた。吉川・小早川両氏が毛利宗家を支える「毛利両川体制」は、この頃に成立したと考えられている。

 しかし、隆元は若くして亡くなり、元就も病没することになる。毛利家は隆元の遺児・輝元を当主に擁立し、元春と隆景が支える「毛利両川体制」を継続した。こうして毛利氏は吉川・小早川の支援を得て、中国地方に支配権を広げたのである。

 元春の死後は、3男の広家が後継者となり、輝元を支え続けた。一方、隆景が亡くなると、隆景の甥で・毛利秀元(元就の四男・穂井田元清の子)を祖とする長府毛利家(旧穂井田氏)が、隆景の役割を継承することになった。広い意味では、長州藩初期まで「毛利両川体制」が継続されたのである。

■「三矢の訓」のエピソード

 「三矢の訓」とは、元就が元亀2年(1571)6月に亡くなる直前の話である。

 臨終間際の元就は3人の息子(隆元・元春・隆景)を枕元に呼び寄せ、1本の矢を折るよう命じた。3人の息子たちは簡単に矢を折った。すると、次は束になった3本の矢を折るよう命じた。しかし、誰1人として折ることができなかった。

 元就は、3本の矢を3兄弟に例え、3人が結束すれば強靭になると説いた。これが有名な「三矢の訓」のエピソードである。ところが、これには疑問がある。実は、元就の臨終前であるならば、長男の隆元はすでに亡くなっているからだ。

 こうした点から、「三矢の訓」のエピソードは後世の創作であるという説もあるが、果たしていかがなものであろうか。実は、この話には元ネタがあった。

 弘治3年(1557)、元就は「三子教訓状」を3人の息子たちに残している。「三矢の訓」のエピソードは、この「三子教訓状」がもとになっていると考えられる。その代表的な条文をいくつかをあげると、次のようなものがある。

「元春と隆景は他家(吉川家・小早川家)を継いでいるが、毛利の二字を疎かにしてはならない。また毛利を忘れることは、全く正しくないことである」

「改めて言うまでもないが、三人の間柄がほんのわずかでも分け隔てがあってはならない。そのようなことがあれば、三人とも滅亡すると思え」

 ほかにも条文はたくさんあるが、毛利宗家を中心とし、3兄弟の結束が求められているのは明らかである。いずれにしても、「三矢の訓」は毛利家の結束振りをわかりやすく伝えるエピソードでもあり、先の「三子教訓状」などを通じて、元就が生前から一族の結束を繰り返し3人の息子たちに説いていたと考えるべきであろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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