楽天モバイル 巨額の「赤字」でも安さを維持できるか
楽天グループが2月14日に発表した通期決算では、過去最大となる3728億円の赤字が話題になりました。
Eコマースや金融、広告事業は順調でも、その利益ではモバイルの赤字を埋められない状況が続いています。楽天モバイルの「安い」料金は維持できるのでしょうか。
安さを支えるのは「経済圏」収入
楽天モバイルは、大手3キャリアより大幅に安い料金で使い放題のデータ通信を実現しています。その理由として、インフラのソフトウェア化によるコストの安さや、楽天経済圏とのシナジーを挙げてきました。
とはいえ、他社より安い料金のままでは、どんなにユーザーを増やしても大きく儲けることはできないはずです。モバイル事業を続ける意味はあるのでしょうか。
そのヒントとなる数字は、楽天グループの決算資料の中に見つけることができます。
一般に、携帯キャリアは1人あたりの料金収入である「ARPU」を重要な指標としています。楽天モバイルの場合、2022年10-12月期のARPUは「1805円」となっています。
つまり楽天モバイルの利用者は平均して毎月1805円を払っていることになりますが、他の大手キャリアはこれが「4000円」前後と、大きな差があります。
データの消費が増えていけばARPUの増加は期待できるものの、楽天の料金プランは使い放題で3278円なので、オプション料金などを除けば、他社を追い抜くことは困難です。
しかし、楽天は前回の決算説明会から、このARPUを「2階建て」で表現しています。携帯料金に相当するモバイルARPUに加えて、上乗せ部分となるのが「エコシステムARPUアップリフト」です。
楽天の説明によれば、楽天モバイルの契約者は楽天経済圏をより多く利用する傾向にあるといいます。この経済圏の売上について、契約者と非契約者の差分(アップリフト)は「705円」で、1805円の通信料金と合わせると「2510円」になるというのが上のグラフです。
このように「非通信」の売上を増やそうとしているのは他のキャリアも同じです。たとえばKDDIの場合、通信のARPUに「でんき」などを含む「付加価値ARPU」を上乗せして表現しています(楽天とは数字の中身が異なると思われるため直接の比較はできません)。
KDDIの場合はpovoやUQ mobile、ソフトバンクならワイモバイルやLINEMOのように、安価なサブブランドを含めて利用者を増やすことで、各社は経済圏を広げようとしています。
逆に楽天の場合、携帯のエリアは他キャリアに比べてまだ見劣りするものの、経済圏のアクティブユーザー数は月間3900万人規模に達しているといいます。
この経済圏からの収入に、携帯料金以上の伸びしろがあるとすれば、楽天モバイルは安価な料金をより長く維持できるのではないかと考えられます。
追記:
2月20日、「楽天モバイルのユーザーは、関連サービスの利用が他キャリアよりも多い」という調査結果をMMD研究所が発表しています。楽天モバイルと楽天経済圏の特徴がよく現れているデータといえます。
大手4キャリアの関連サービス利用実態調査https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2172.html
怪しげなグラフは逆効果では?
昨年話題になった「0円プラン」の終了により、楽天からユーザーの離脱が懸念されていましたが、12月以降は契約者が増加に転じたとのこと。次の大きな目標である「単月黒字化」に向けて、この傾向が続くか注目といえるでしょう。
ところで、決算説明会の資料について「グラフがおかしい」との指摘がSNS上で盛り上がっているようです。たとえば以下のグラフには縦軸がない上に、棒の長さと数字が合っていないことが見て取れます。
実際の契約回線数は2022年10月が445万2000人、2023年1月が451万8000人で、この期間に約1.5%しか増えていないにもかかわらず、グラフの棒は約1.6倍約2.3倍に長くなっています。
(当初1.6倍としていましたが、もっと大きな差がありましたので2.3倍に訂正します)
この点について問い合わせたところ、「グラフについては違いを表すよう構成されております」(楽天モバイル広報部)と回答。一連の指摘については、社内にフィードバックするとしています。
他キャリアの資料にも怪しいグラフがないわけではありませんが、波線を使ってグラフの省略を示すなど、ぎりぎり嘘にならないような工夫が入っているように思います。
このようなグラフの使い方をされると、資料全体を疑ってかかる必要が出てきます。少しでも良い面を見せたいという気持ちは分かりますが、むしろ逆効果になっているのではないでしょうか。