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秘書官、補佐官、官房長官、副長官……首相を取り巻く側近の違い

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
即断即決(写真:イメージマート)

 荒井勝喜首相秘書官(事務)が性的少数者への差別的発言を問題視されて更迭されました。ところで秘書官とは何でしょうか。首相を取り巻く人材には他にも補佐官、官房長官、官房副長官などたくさんいます。整理してみました。

首相政務秘書官

 秘書官は政務と事務にわかれます。現在は政務2人、事務6人。うち政務秘書官は俗に首席秘書官と呼ばれ首相の「側近」「腹心」「周辺」といった位置づけです。

 内閣法の規定では首相秘書官はその命を受けて「機密に関する事務をつかさどり、又は臨時に命を受け内閣官房その他関係各部局の事務を助ける」とあります。法的には内閣官房(後述)に属しています。

 仕事をザックリいえば政務秘書官は首相のスケジュール作成と管理。首相がその任をつつがなく果たせるようにあらゆる調整を行うのです。官邸の首相執務室の横の部屋に陣取り毎日顔を合わせて首相が他の者に漏らせない話まで承ります。国会答弁に目を通して整合性を図ったり必要とあれば説明したり。与野党幹部らとの会談などを設定したりもするのです。その一環として報道記者との質疑にも応じます。

 肝胆相照らす仲でないと務まらないため首相の初当選やそれ以前から支えてきた古株の秘書が務めるケースが過去には目立ちました。

首相事務秘書官

 荒井氏はここ。主要な官庁から送り込まれてきます。役所別にだいたいの職務が分かれていてエキスパートとして政策面を補うのです。官僚の出世コースであるために各省庁とも将来のエース級を出向させます。

 政務秘書官が文字通り首相と一体で辞任すれば一緒に退任するのに対して事務は出身官庁へ戻って「さらに上」を目指すのが通例です。

国務大臣

 憲法には「行政権は、内閣に属する」と規定されていて3権のうち行政府の最高峰です。「その首長たる内閣総理大臣」が「国務大臣」を任命して一体となって職務を果たします。その意味で国務大臣こそ首相の最側近であるはずですが、現在の自公政権の内実は「派閥の連合体たる自民党」+公明党という図式なので首相といえども派閥の推薦を無下にはできず多少意に沿わない人物でも任命する場合もあり得ます。

内閣官房

 内閣の補助機関であるとともに、首相を直接補佐・支援する組織が内閣官房。首相官邸に設置。庶務や内閣の重要政策の企画立案・総合調整、情報収集など国政の基本方針を扱います。トップはいうまでもなく首相で、事務全体をまとめるのが内閣官房長官(国務大臣)。その下にいるのが複数の官房副長官で、政治家2人(政務)と官僚選出(事務)1人が通例です。

 事務の副長官は事務次官を超える官僚組織の最上位となります。その総まとめが内閣官房長官の仕事。直属の上司である首相に省庁の要望を吸い上げて伝えたり、首相の考えを省庁や国民に知らせる役割を果たします。首相と国務大臣の会議(閣議)の進行役を務めたり、1日2回の記者会見を行って内閣の公式見解などを伝える役目があるのです。

 したがって首相にとって官房長官は最強の知恵者であり味方でなければなりません。新しく大臣を選ぶ(組閣)ときには真っ先に官房長官を決めて人事のアドバイスももらうのが通例です。首相は任命した大臣を首相執務室へ呼んで役職(事前に伝えるケースも)ややってもらいたい内容を伝達します。その後の記者会見で司会進行を務めるのが官房長官となります。秘書官も所属はここです。

内閣府

 官房と並んで首相を補佐するもう1つの機関が内閣府です。トップは首相。「省」の連携や、首相が全体を見渡して管理するのがふさわしいと思われる行政サービスを担当します。官邸とは別の建物に入っているのです。

 例えば金融庁のように「長官」の上に特命担当大臣(国務大臣)が置かれるケースも存在します。経済財政諮問会議は首相(議長)と官房長官らで構成され、やはり特命担当大臣が充てられます。

首相補佐官

 最大5人。内閣官房長官、副長官、秘書官らとともに官邸に常駐しています。法律上は官房長官(国務大臣)の管理下にあります。国務大臣の下にいる国務大臣はあり得ないので首相補佐官は閣僚ではありません。しかし「ブレーン」の役割を果たすためには首相直属でなくてはならず「事実上の大臣級」というあいまいな位置づけになります。

 秘書官と大きく異なるのは大半が選挙の洗礼を受けた政治家であるという点です。

 アメリカ大統領には首席補佐官とか国家安全保障担当補佐官といった補佐官がホワイトハウス(大統領府)に常駐しています。最も有名なのがニクソン政権下のキッシンジャー国家安全保障担当大統領補佐官でしょう。冷戦相手の旧ソ連と渡り合い、米中国交正常化の下ごしらえをし、ベトナム戦争を終わりに導きました。

 ただしアメリカ型の大統領制と日本の議院内閣制は大きく異なる点もあって、そこが日本の補佐官の位置をさらに難しくしています。行政府と立法府の相互乗り入れが原則の日本で官邸(首相とそのスタッフ)が国会や省庁の閣僚の意向を顧みずに行動し、その主な役割を首相補佐官が任じるとなると「日本は大統領制ではない」「議会制民主主義や議院内閣制を踏みにじる」といった批判もあり得ます。

なぜ事務の秘書官が記者懇に対応したのか

 さて今回の荒井秘書官の問題。彼は経済産業省から出向してきた事務の秘書官です。そもそも何でオフレコの記者懇に対応していたのでしょうか。本来ならば政務秘書官の仕事のはず。

 岸田内閣発足時に政務担当で就いたのが嶋田隆元経済産業事務次官と山本高義氏、山本氏は典型的な側近で本来、記者懇などを引き受ける立場。嶋田氏は省庁事務方トップを務めた異例の経歴で従来の首席秘書官とは肌合いが異なるし上記に記した政務秘書官の適任とは思えません。

 その山本氏と交替で昨年10月に就任したのが首相の長男の翔太郎氏。例の「公務で買い物」と批判された方です。海千山千の記者相手は父もおそらく怖くて任せられません。というわけで嶋田氏と同じ経産省出身の荒井氏が事務担当ながら代わって対応したようです。

 でも本来は専門分野に特化した裏方の事務秘書官。畑違いのテーマを振られてついメチャクチャを言ってしまったのかも。としたら首相の「親バカ」が飛び火した結果であったともいえましょう。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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