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『キャプテン翼』のなかでも印象深い「スカイラブハリケーン」は、実践できるワザなのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

『キャプテン翼』は、多くのサッカー選手が子どもの頃に愛読したといわれるすごいマンガだ。この作品でサッカーの面白さに魅せられ、プロの道を目指した人が世界中にいる。

すると、にわかに心配になってくるのが「スカイラブハリケーン」である。あの技をやってみようとした人も世界中にいるのでは……?

スカイラブハリケーンを編み出したのは、立花和夫と立花政夫の双子の兄弟。ともにフォワードで、秋田の花輪サッカー少年団以降、サッカーキャリアのすべてを同じチームで駆け抜けた。そんな彼らがこの技を編み出したのは、中学生のときだ。

政夫が仰向けになり、足の裏を上に向けて深く曲げる。和夫がその足の裏に飛び乗り、両足をぴったり合わせた状態から、互いの足を蹴り合う。すると、政夫は肩から下が地面から離れんばかりに伸び上がり、和夫は高々と飛び上がる! 誇張表現かもしれないが、なんか10mほども飛び上がっていたような気も……。

すごいとは思うが、とてもサッカーとは思えない技である。

いまのところ筆者は、スカイラブハリケーンを実践した選手を知らないのだが、これは実現できるものだろうか。

◆ジャンプ高度はなんと6m!

スカイラブハリケーン最大の特色は、その跳躍の高さである。

一瞬「2人分の脚力で1人が飛ぶのだから、2倍高く飛べるのか!?」とも思ったが、よく考えるとそうではない。たとえば、3tの重量を持ち上げられるジャッキが2つあったとして、これを上下に重ねても、6tの力が出せるわけではない。ジャッキ2つで力が2倍になるのは、横に並べたときだ。

上下に並んだ立花兄弟も、脚力が合算されることはない。では、なぜ高く飛べるのか。

スカイラブハリケーンの利点は、科学的には「距離が稼げる」ことだ。ボールを投げ上げるとき、大きなモーションで投げたほうが高く投げられるように、スカイラブハリケーンも、1人が蹴り上げることによってもう1人が大きく動くから、高く飛べるのだ。

2人の動きがよくわかるコマで確認すると、和夫は政夫の足の上で、カカトがお尻につきそうなほど膝を深く曲げている。中学時代の2人の身長は163cmだから、この体勢からジャンプすると、離陸するまでに和夫の体の重心は50cmほど動くだろう。

一方、寝転んだ政夫も、膝が胸につくほど深く曲げている。ここから体を伸ばすと、足は1mくらい動くと考えられる。

つまりスカイラブハリケーンでは、和夫の体は「自分で動かす50cm+政夫が持ち上げてくれる1m」で、計1m50cmも動くことになる。これは自分で体を動かす距離の3倍だ。つまりジャンプ高度の増強力は、2倍どころではなく3倍!

それだけではない。和夫は「肩を地面につけて真上に伸ばした政夫の足」という高い地点から跳ぶことになる。

筆者が自分の体で測定&計算したところ、身長163cmの政夫の場合、その高さは1m40cmになるはずだ。

結論。スカイラブハリケーンは「3倍の距離を動く」と「高いところから飛ぶ」という2つの利点が合体した技ということだ。この結果、飛べる高さは「地上でジャンプできる高さの3倍+1m40cm」になる。

では、和夫は具体的にどんな高さまで飛べるのか?

立花兄弟は、小学生の頃からゴールポストを蹴って高く飛ぶ空中サッカーを得意としており、スカイラブハリケーンを見せた試合でも、1m50cmほど飛んでいた。

すると、1m50cm×3+1m40cm=5m90cm! クロスバーの高さは2m44cmだから、その2倍以上も高い。

おお、やはりこれはスゴイ技である。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆どうしても3秒半かかる!

実際にこの技を試合で使うと、どうなるだろう。

もちろん、2人が蹴るタイミングや角度をぴったり合わせなければ、実現は難しい。では、それらの問題がクリアされたら、スカイラブハリケーンは実戦で使えるのか?

筆者が思うに、最大の心配は、技の発動に時間がかかりそうなことだ。

まず、政夫が仰向けになる。これを自分でやってみたところ、何度やっても1.4秒を切れない。

続いて、和夫が政夫の足に飛び乗る。和夫はここではそれほど高く飛ぶ必要はないが、1mジャンプしたとしても0.8秒かかる。そこから政夫が体を伸ばし、和夫が踏み切って、ジャンプするまで0.23秒。そして、和夫が高度5m90cmに達するまで、さらに0.96秒。結局、合計3.39秒もかかってしまうことになる。

一瞬ごとに局面の変わるサッカーで、こんなに時間のかかる技が有効なのか?

3.39秒といえば、100mを12秒で走る選手が28mも走れる時間だ。政夫が仰向けになり始めるや「あっ。スカイラブハリケーンだ」と気づかれてしまい、和夫がシュートする頃には、ゴール前は相手選手で埋まっているのでは……。

うーむ。『キャプテン翼』に影響を受けてプロの道に進んだ選手たちも、この技は封印するしかないかもしれない。いや、でも世界は広いから、地球のどこかには、このすごい技をマスターした人たちがいる……かなあ(いてほしい)。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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