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幕末の英雄・坂本龍馬は倒幕のために貨幣の偽造を計画していた!

山村竜也歴史作家、時代考証家
坂本龍馬

 土佐藩の志士坂本龍馬は、幕末最大の英雄として多くの人々に愛されている。いや幕末のみならず、日本史上の人物のなかでも一、二を争う人気者といっていい。

 そんな龍馬の人気の秘密は、周囲をあっと驚かせる大胆な発想と行動にあるのだが、時には少々大胆すぎるアイデアを思いつくことがある。倒幕運動の最終段階で、龍馬が打ち出した秘策は、なんと貨幣の偽造だった。

 当時でも重犯罪にあたる偽造という行為を、龍馬はなぜ実行しようとしたのだろうか。あまり知られていない英雄龍馬の暗部を、今回は追求してみよう。

倒幕資金を調達するため偽造を計画

 江戸時代においてはまだ紙幣というものはなく、通貨はみな貨幣(硬貨)だった。その貨幣を偽造するのはどういう方法によるかというと、つまり金や銅の含有量を本来よりも減らし、額面価格との差額を得るというものである。

 実は幕末において、薩摩藩や長州藩はすでに幕府に知られぬようにこの貨幣偽造を行なっていた。百文銭(天保通宝)や二分金を偽造することで、彼らはひそかに大量の資金を手に入れていたのだ。

 これに目をつけたのが、坂本龍馬だった。慶応3年(1867)のある日、龍馬は土佐藩参政の後藤象二郎に向かい、倒幕のための軍資金調達の手段を語ったという。

 大正3年に刊行された龍馬の最も信頼できる伝記『坂本龍馬』(千頭清臣著)によれば、龍馬はこの日、「もうやりましょう」と後藤に言った。「いったい何をやるのだ」と尋ねる後藤に対し、龍馬は笑みを浮かべながら、「偽造偽造」と告げたというのである。

 後藤は驚き、「それはひどい」と拒否してみせたが、龍馬はこう説得した。

「薩摩はすでに百万両の金貨を偽造している。長州も同様だ。これに土佐が加わっても、総計わずか三百万両。別に驚くほどのものではない」

 三百万両は現在の価値にして、約三千億円。龍馬は驚くほどではないというが、どうみても莫大な金額である。ただ龍馬としては、自分の考えをこのように付け加えた。

「倒幕後に新政府ができた時、三百万両ばかりの偽造貨幣を処理することができなくてどうするのだ」

 なるほど、倒幕さえなしとげてしまえば、あとは新政権の力で偽造貨幣の処理はどうにでもなるだろう。今はなにしろあと一歩というところまで来た倒幕のため、軍資金を調達することが最優先だと龍馬は考えたのである。

救国の英雄か、極悪人か

 さらに龍馬は、薩摩藩が実際に偽造した二分金を取り寄せ、どのような製法でつくられているのかを調べた。薩摩製貨幣は精巧にできているといわれていたので、それに習おうとしたのだ。

 こうして翌明治元年(1868)、土佐藩の貨幣偽造は実行され、薩摩製、長州製とともに市中で流通された。その結果、当然のことながら経済は混乱し、草創期の明治政府は偽造貨幣の処理に頭を悩ませることになる。

 そして、肝心の坂本龍馬はどうしたかというと、実は土佐藩が偽造を始める直前、慶応3年(1867)11月15日に幕府方によって暗殺されてしまった。偽造の件とはもちろん関係なく、倒幕派のお尋ね者として幕府の京都見廻組に斬殺されたのである。

 もし生き延びていれば、龍馬は土佐藩の貨幣偽造を主導したダークヒーローとして歴史に名が残ったはずであるから、現在ほど人々に愛されるようになっていたかはわからない。その意味では龍馬は、ぎりぎりのところで悪名を回避し、英雄のままで死んでいくことができてよかったとも思えるのである。

歴史作家、時代考証家

1961年東京都生まれ。中央大学卒業。歴史作家、時代考証家。幕末維新史を中心に著書の執筆、時代劇の考証、講演活動などを積極的に展開する。著書に『幕末維新 解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『世界一よくわかる幕末維新』『世界一よくわかる新選組』『世界一よくわかる坂本龍馬』(祥伝社)、『幕末武士の京都グルメ日記』(幻冬舎)など多数。時代考証および資料提供作品にNHK大河ドラマ「新選組!」「龍馬伝」「八重の桜」「西鄕どん」、NHK時代劇「新選組血風録」「小吉の女房」「雲霧仁左衛門6」、NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」、映画「燃えよ剣」「HOKUSAI」、アニメ「活撃 刀剣乱舞」など多数がある。

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