オートロックのマンションで再配達をなくせ。「置き配」を可能にする工夫が急速拡大
利用者が増え続けるオンラインショッピング。それに伴って配送に関する問題が生じ、解決策が模索されている。なかでも急務なのが、いかに再配達をなくすか、だ。
「再配達を減らす工夫」がマンションに広まりはじめのは、じつは20年くらい前から。21世紀が始まるあたりで、一部分譲マンションのエントランスに宅配ボックスを設置するようになってからだ。
配達先が留守のとき、この宅配ボックスに荷物を収めれば配達完了となる。再配達をしなくて済むし、受け取る側も手間が省かれる。だから、宅配が増える時代にぴったりのマンション設備と喜ばれた……が、宅配される荷物が増えた現在は「宅配ロッカーがすべて使用中」となるケースが増加。宅配業者によるロッカーの取り合い(朝早く、空いているロッカーをいちはやく利用しようとする)が生じるようになってしまった。
そこで、2018年から登場しはじめたのが「全戸宅配ボックス付きマンション」。すべての住戸の玄関前に宅配ボックスがあり、“マイ宅配ボックス”として使用できる方式だ。
なんともうらやましい方式が、今、全国の新築分譲マンションで増加。さらに、新築だけでなく既存の分譲マンション、賃貸マンションでも再配達をなくす別の手段が生み出されている。
オートロック付きマンションの最新「配達」事情を解説したい。
全戸宅配ボックス付きマンションが増えだした2つの理由
全戸宅配ボックス付きのマンションが実現するようになった理由は、2つある。
1つは、2017年11月、国土交通省によって「宅配ボックス設置部分の容積率不算入」が決められたこと。これにより、全戸に大型の宅配ボックスを付けても、その分、住戸の面積が削られる、ということがなくなった。
つまり、宅配ボックスを設置するためのハードルが下がった。一方で、全戸宅配ボックス付きにすればマンションの魅力が上がる。それで、新築分譲マンションに「全戸宅配ボックス付き」が一気に増えたのである。
もう1つの理由として、オートロックの機能がさらに進化したことを挙げるべきだろう。
それまでのオートロックは、エントランスでインターホンを押しても、留守中だと反応がなく、建物内に入ることができなかった。しかし、最新のオートロックには、外出中でも、住人のスマホに連絡が入るものがある。
スマホで対話できるだけでなく、スマホの操作でオートロックを解除することもできる。
この機能を利用すれば、留守中でも配達人を建物内に入れ、各住戸の宅配ボックスまで荷物を運んでもらうことが可能になる。
以上の方式とは別に、指定された宅配業者だけにオートロックを解除するためのカードキーを渡すマンションもある。カードキーは、深夜は無効になるなど入館制限を加えることができる。
そして、近年のマンションはモニターカメラを複数設置し、入館者の映像を撮影保管することで、防犯性を向上させている。これで、宅配業者にカードキーを渡すことが可能になった。
つまり、マンションのセキュリティシステムが進化したことで、全戸宅配ボックス付きが実現した側面もあるわけだ。
そもそもオートロックが、再配達を増やした?
現在、オートロックを備えたマンションの一部では留守中でも宅配便を受け取りやすくなっている。
それは喜ばしいことだが、一方で、そもそもオートロックがなければ今ほど再配達が増えなかったのではないか、という思いも浮かんでくる。
国土交通省の調査によると、2021年4月の宅配便再配達発生率は1割を超えて約11.2%に達した。10人の配達人が働いていると、そのうち1人は1日中再配達ばかり行っていることになる計算だ。
そこまで再配達が増えたのは、オートロックのせいかもしれない。
というのも、オートロックがない一戸建てやアパートでは、玄関前に「置き配」をすることが容易だが、オートロック付きマンションではそれがしにくいからだ。
毎日配送される荷物の中には、置き配が可能なものもある。受け取りの捺印やサインが要らず、「留守のときは玄関前に置いていっていいですよ」という荷物だ。
インターネットショッピングが増える現在、「置き配でいいですよ」という注文が増えているのだが、オートロックのマンションではこの「置き配」がしにくい。
届け先が留守で、オートロックが解錠されなければ、「置き配」でよい荷物も持ち帰るしかなく、再配達となってしまう。
そんなマンションが今後も増えれば、再配達の数は増加する一方だろう。
だからこそ、オートロック付きマンションでも荷物を受け取りやすいように、「全戸宅配ボックス付き」など新しい工夫が生まれているわけだ。
既存のオートロック付き賃貸マンションで、置き配を減らす工夫も
最新の全戸宅配ボックス付きマンションには、「宅配用」とは別に「置き配用」のボックスを設置するケースも登場した。
上の写真が、マンションの全住戸に設置される新タイプの宅配ボックス。一部のボックスが宅配用で、荷物を収めた後は扉が施錠される。しかし、一部は「置き配用」で扉が施錠されない。
荷物によって、「宅配用ボックス」と「置き配用ボックス」を使い分ける、新しいスタイルである。
さらに、オートロックの既存マンションでも、置き配を可能にする工夫が登場している。
たとえば、世界的オンラインショッピングサイトのAmazonは、1年前の2021年4月からKey for businessというサービスを展開しはじめた。
これは、オートロックの機械にAmazon専用の機器を追加。Amazon指定の配送業者が、そのマンション住戸に届ける荷物を持っているときのみ、オートロックが解錠されてマンション内に入ることができる仕組みだ。
「置き配」でよいかどうかは注文時に指定でき、オートロックが解除されるのは、配送業者が配送するAmazonの荷物を持っているときだけ。指定配送業者であっても、配送する荷物を持っていないときはオートロックが解錠されない。
また、配送された荷物が見当たらない、というようなときの補償対応も備えられている。
このシステムの長所は、既存のマンションにも簡単に機器を設置し、導入できること。Key for business 専用機器の機器代金、設置費用はすべてAmazonが負担。機器を動かす電気代がかかるが、それは1年間で1000円程度という。1戸1戸ではなく、マンション全体で年間1000円程度だ。
分譲マンションだけでなく、賃貸マンションにも導入しやすいKey for businessは 2021年の年末時点で、国内1000棟以上で導入された。
オートロックでセキュリティを固めつつ、「置き配」は受け取りやすくして欲しい……そう願う住人が多い証拠だろう。
留守中でも荷物を受け取りやすいことだけでなく、「玄関先まで荷物が届く」というメリットのあるシステムが全国のオートロック付きマンションに広まっている。