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安保法案と財務省案で賛否逆転も 全国紙の社説検証 読売の1面報道は8日連続

楊井人文弁護士
財務省(Wikipedia Commonsより)

【GoHooトピックス9月12日】読売、産経は安保法案に賛成でも財務省案には反対、朝日は安保法案に反対だが財務省案には一定の理解ー。消費税率を8%から10%に引き上げ後、軽減税率を導入する代わりに、飲食料品の税率2%相当額を後日、国民に「還付」する案を財務省が示したことについて、日本報道検証機構は、全国紙が9月12日朝刊までに社説などでどのように取り上げたかを調べた。財務省案の呼び方にも違いがあり、「還付案」と呼ぶ新聞が多い中、反対論の読売新聞は「還付」の表現は使わず「給付」との表記を多用していた。ただ、新聞業界は従来から軽減税率を新聞にも適用するよう求め、経営上の利害に関わる問題だけに、各紙の報道や論調に影響していないか留意する必要もある。

財務省案は5日付朝刊から報道され始め、1週間以内にすべての全国紙が社説で立場を示した。読売、毎日、産経の3紙は社説で明確に反対と表明し、日経も明確な反対ではないものの「疑問点はつきない」と批判的だった。他方、朝日は課題を指摘しつつも一定の理解を示す内容だった。

財務省案を最も厳しく調子で批判的に報じているのは読売。11日、全国紙で唯一この問題を大型の1本社説(*)で取り上げ、「国民への配慮を欠く財務省案 自公両党は軽減税率の導入貫け」と題して「欠陥だらけの制度を、採用するわけにはいかない」「財務省案を採用し、軽減税率だと強弁すれば、国民を欺くことになる」などと厳しく批判した。東京本社最終版を調べたところ、同紙は5日から11日までの1週間の朝夕刊すべて1面でこの問題を報じていた(12日付朝刊1面にも記事を掲載し、現在15回連続)。うち1面トップで取り上げた回数も全国紙で最も多い6回。その多くが財務省案に疑問や批判の声があることを伝えるものだった。

一番早く社説で取り上げたのは8日付産経。まだ財務省案の詳細が判明する前だったとみられるが、「ばらまきにすり替えるな」と題して「軽減税率を導入するとした昨年の衆院選の与党共通公約などにも反する内容だ。到底容認できない」と反対を表明。麻生太郎財務相の「複数の税率を導入するのは面倒くさい」という発言に対しても「これまでの議論の経緯を軽視した乱暴な発言」と批判し、「政府・与党は軽減税率を導入する責務から逃げてはならない」とくぎを刺した。12日付朝刊でも改めて社説で「負担も手間も強いるのか」と題して財務省案を「現実的でない」と一蹴。連日の報道でも「与党不快感」「官邸は軽減税率」「公明反発」と財務省案への反対論を見出しで伝えている。

毎日も11日社説で「還付案は直ちに撤回を」と明確な反対を表明。読売などと同様、後日の還付では「痛税感」が緩和されないことやマイナンバーカードを携帯する負担や不安、端末機器の普及などの問題を指摘。麻生財務相を「財政・税制の責任者としての自覚がまるでない」と痛烈に批判し、軽減税率の具体策を検討するよう訴えた。

一方、日経は11日、「社会保障・税一体改革の視点忘れるな」と題する社説を掲載したが、明確な反対の立場は示さなかった。ただ、還付額に上限額を設けて高所得者の負担軽減に一定の歯止めをかけることなどに一定の評価をする一方、「課題はあまりに多い」と問題点を列挙。さらに、「税負担をどう減らすかという目先の議論に追われて、社会保障制度の抜本的な改革についての議論が後回しになるようでは困る」とも指摘し、所得税や社会保障の給付や負担をどう変えるかという視点とセットで考えるよう求めた。

これら4紙とは対照的に、朝日は11日の社説で、「案の利点生かす論議を」と見出しをつけ、還付の対象を飲食料品に限り、還付額に上限を設ける点などに言及しつつ「軽減税率の問題点を意識した内容と言える」と財務省案に理解を示した。システムを築く手間とコスト、情報管理のあり方などの「課題」にも言及しているが、「国民が納得できる制度に仕上げられるかどうか、与党の協議を注視したい」と締めくくり、財務省案をたたき台にして議論を進めることを容認する内容。ただ、朝日は他紙と異なり、8日付朝刊1面で自民、公明両党が財務省案を「大筋で了承した」と報じ、その後もしばらく、与党内の批判の声はあまり取り上げていなかった。11日付朝刊からは自民公明両党から批判や反対論が続出していることを詳しく紹介し、「自公両党が大筋了承」というそれまでの報道を軌道修正しつつある。

財務省案の呼び方も、新聞によってまちまちになっている。財務省案に理解を示している朝日は「還付制度」「還付案」と表現した記事が大半。財務省案に批判的な日経も「消費税還付」と見出しをつけた記事が多く、一部で「日本型軽減税率制度」という表現も使っている。反対論の産経は初報で「給付金」と表記した後、続報では「消費増税時の負担軽減案」「日本型軽減税率」との表記を用いたが、途中から「(消費税)負担還付制度」という表現も使い始めている。毎日は「増税還付」「還付金」という表現を多用する一方、「軽減税率代案」という表記を見出しに使っている場合もある。他方、読売は「還付」や「日本型軽減税率」といった表現は使わず、見出しで「消費増税分給付」を多用しつつ、本文でも「給付」を用いている。

新聞の業界団体である日本新聞協会は、軽減税率の新聞適用を求めており、特設サイト「聞いてください!新聞への消費税軽減税率適用のこと」を開設して、世論喚起に努めている。社説で軽減税率の新聞適用に触れたのは読売と産経の2紙。いずれも欧米各国が導入している軽減税率では「食料品をはじめ、活字文化の保護に欠かせない書籍や新聞」が対象になっているなどと言及した。他の3紙は軽減税率の新聞適用には触れていなかった。

(*) 新聞は通常、1日に2本のテーマで社説を載せているが、1本のテーマで通常の2倍の分量の大型社説を載せる場合があり「1本社説」とも呼ばれる。

消費増税時の負担軽減「財務省案」に関する全国紙社説の見出し

読売新聞(11日)「国民への配慮を欠く財務省案 自公両党は軽減税率の導入貫け

産経新聞(8日)「ばらまきにすり替えるな」、(12日)「負担も手間も強いるのか

毎日新聞(11日)「還付案は直ちに撤回を

朝日新聞(11日)「案の利点生かす議論を

日本経済新聞(11日)「社会保障・税一体改革の視点忘れるな

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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