健康づくりに最適なハイキング、ほとんどの人が犯す五つの勘違いと楽しくなる五つのポイントを紹介します。
五月は木々が芽吹き、花が咲き、小鳥が歌う素晴らしい季節です。
2021年は昨年から引き続くコロナ対策による運動不足やストレスで体調管理にかつてないほど気を使う必要があります。三密回避で太陽の光を浴びながら、有酸素領域の運動ができるということで野山を歩くハイキングが注目を集めています。
ハイキングと一言で言っても足元が凸凹とし、時には滑りやすい道のアップダウンも出てくるので、運動習慣が少ない方が気軽に飛びつき痛い思いをすることもあります。野山歩きを生涯付き合っていける趣味にするための処方箋の紹介です。
第一章「野山歩き入門者が犯す五つの勘違い」
第二章「初心者からベテランまで野山歩きが楽しくなる五つのポイント」
第一章「野山歩き入門者が犯す五つの勘違い」
週末、繁華街や遊園地に出歩くのはちょっと厳しいなぁ。と考えている方なら、野山ハイキングはちょうどよいアクティビティかもしれません。まず、入門者が犯しやすい五つの勘違いを解説していきます。
1:標高が低い低山なら危険は少ないはずだ
標高1000メートル前後の低山といわれるエリアは人の住む居住エリアからも近く、全国各地に数多くのハイキングコースがあります。山々の中には林業家の私有地もあり、自然発生的にご厚意で通過させてもらっているコースも多く存在しています。地元観光関連の方々やボランティアの力で整備されているコースは標識や道標、マップも整備されていることが多いですが、全国あまねく高尾山並みであるはずという思い込みは間違いです。
低山においては、地元の林業家の杣道、電力会社の送電施設(鉄塔など)、尾根道ハイキングコース、沢登りコースなど様々な目的で歩かれた踏み跡が多く存在していることを忘れてはいけません。
私のホームゲレンデでもある六甲山域でもいまだに行方不明の方が数人、家族が帰りを待っているという実例があるのです。
野山に入る場合はどこからスタートして、どこを歩いているのか、どこに向かっているのかを小まめにチェックして修正する必要があるのです。登山の目的が異なる赤の他人が歩いているのを見て、人が歩いているから「まぁ大丈夫!」ではないのです。それは間違いを起こす切っ掛けになってしまいます。
一方、有名な山岳観光地や標高2000メートルを超える高山エリアの多くは自然公園であったり、積雪が消えるグリーンシーズンにおいては環境保全と登山者の安全の観点からも比較的登山道は整備され、その情報も公開されることが多いものです。山岳エリア特有の気象条件や急傾斜や不安定な登山道も多く、登山者自身の技量も要求されますので、登山という観点で取り組んでいただきたいと思います。
2:SNSでたくさんの情報をスマホでチェックしたから安心だ
ソーシャルメディアのアップされる情報は発信者個人の感想です。とても丁寧に几帳面い安全に関して記述されていたとしても、投稿者の技量や経験値、その時の気象や季節といった多くの変動要素があるという前提で読む必要があります。人は自分に都合が良い情報を取り込む傾向があることを覚えておく必要があります。
他の登山者が歩いたGPS軌跡も入手可能な時代です。そのデータ活用で登山の不安を軽減することはできますが、自分が快適安全に歩けるかどうか、その技術的裏付けと行動責任は自分自身にあるという自覚が必要です。コースによっては対処可能な追加装備を携行しなければなりません。
ここで伝えたいことは、誰か他人が歩いた過去例があるから自分が大丈夫というのは幻想だということです。
3:天気予報で悪天候と言っていないから大丈夫だ
天気が悪い中を歩きたくはないですね。同じ場所に留まっているなら、現代社会の天気予報は優れているので先々の対応はし易いです。野山のハイキングでは歩くにつれ、地形と標高が変化します。1000メートル標高を上げると気温は凡そ6度下がり、また山には上昇気流によって雲もかかりやすく、地形によっては風雨が強まることもあります。
スマートフォンの電波があるところはレーダー雨雲情報など客観的な情報を入手しておく習慣は大切です。天気を変えることはできなくても備えることはできる、逃げることはできるということです。
天気が良い!悪い!の二極で天気をとらえるのではなく、今から屋外で過ごして野山を歩いて帰るまでの時間軸でどのくらい天気が変化するのかを意識して歩くことが大切です。運悪く天気が悪くなって「予報と違う!」と悪態をつくことは全くもって自分の技量を高めることには繋がりません。
4:登山地図に岩場クサリなどのマークが無いから整備されて安全だ
ハイキングや登山の道はバリアフリーではありません。砂や泥などで滑りやすい道でのスリップ転倒での捻挫や骨折はたびたび起きています。客観的にみて危険と判断できる崖や岩場にはクサリやロープ、梯子、ステップなどの人工物が設置されることが多いものです。このような場所では登山者ハイカー自身の集中力も高くなり、丁寧に慌てず通過することで、頻繁な事故は防がれています。しかし、クサリやロープなどが人工物である以上、経年劣化もあります。自分の手足を基本に登り、人工物は補助として活用するようにとどめるのが基本です。フィールドアスレチックの遊具とは別物だと認識しておきましょう。
ところが危険箇所を通過後、ちょっとホッとした瞬間での躓きやスリップによる転倒事故が後を絶ちません。また、筋力が低下した午後、下山口に近づいた急傾斜の登山道も要注意箇所です。
私たちの集中力は長く継続できませんので、安全面で気になる箇所が出てきたと判断したら、安定した場所で一呼吸、「気を抜かずに足元みて丁寧に行こう」と声を発するとよいでしょう。
5:自分は病気でなく健康で体力に自信がある
この記事をここまで読んでいただいた方は体を動かすことが好きな方だと思います。普段のお仕事や運動習慣と運動の種類を考えると、野山歩きの体力はゼロからのスタートだと思う方が無難です。
野山歩きは速さなどの記録や得点を競う球技と異なり、最大心拍数を要求されるハードさはありません。そのため、前半から自分が歩けるスピードで速くなりがちです。日常も健康で階段の上り下りもしているし、学生時代はスポーツしていたという方は特に要注意です。
野山歩きは長時間不整地の登り下りを行う有酸素領域の運動です。6~7時間後の下山時になっても歩けるスピードを意識して、会話が可能な程度の控えめスピードを維持しましょう。
第二章「初心者からベテランまで野山歩きが楽しくなる五つのポイント」
今回ご紹介する野山歩きは言わば「頂上を目指さないフィールド観察ハイキング」です。頂上からの素敵な景色をみた感動と達成感は良いものです。でも、自然相手の野山歩きはそれだけでない楽しいことがいっぱいあるのでご紹介します。
1:季節の野花や樹木を立ち止まって見てみよう
春は花が咲き、新しい門出にふさわしい季節です。新緑の美しい山道を秋に訪れたら、どんな錦を見ることができるでしょうか。そんな想像をしてみるのもよいでしょう。紅葉する葉っぱ、いつも緑の葉っぱ、個性あふれる樹木たちが山の清水をうみ、生き物を支えています。
樹木の覆われた山道は真夏になっても意外と涼しいものです。植物の名前がわからなくてもかまいません。森林浴のハイキングを楽しみましょう。
ゆっくり歩くと小さな野花を見つけることができるでしょう。日影が好きな花、明るい乾いたところが好きな花など様々です。花を愛でてホッとした時間を過ごしてみてください。
この花、何かな?と図鑑で調べたり、人に教えてもらうなどのコミュニケーションをとることが脳の活性化に役立つのでおすすめです。
2:小鳥や昆虫など野山を生活の場にしている生き物に目を向けてみよう
虫嫌いの方もいるでしょう。そんな虫や幼虫も小鳥という巨大な捕食者から逃れて生きるのに精一杯です。ギフチョウやアゲハチョウ、旅するアサギマダラなど野山は生き物にあふれています。
囀りがわかりやすいウグイス以外にも多くの鳥たちが森の中で暮らしています。バードウォッチングに詳しい友人と一緒に歩けばとても楽しいひと時を過ごせることでしょう。
刺されると厄介な虫もいますから、長袖と虫よけスプレーもあるとよいです。でも、殺虫スプレーを周りの空間に吹き撒くのは止めましょう。私たち来訪者は山の生き物への影響を小さくする努力が必要です。
3:地下深くでできた岩石や海で積もった岩石など地質や山の地形に目を向けてみよう
日本列島は四方を海に囲まれた海抜ゼロメートルからアルプスの3000メートル級の山々まで様々な地質から成り立っています。
恐竜が闊歩していた昔に地下深くでマグマが固まった深成岩、噴火によって積もった火成岩、南の海で積もった生き物由来の石灰岩や硬いチャートは海洋プレートに乗って日本列島までやってきました。
野山ハイキング中に出会う足元の岩石がどこから来たのか、不思議な地形や雄大な景観がどうやってできたのか、人の歴史や一生を計る物差しとは違う時間軸で自然を感じてみてほしいと思います。
4:風景や樹木の色や香り、肌触り、木々のざわめきや小鳥のさえずり、食事の味など五感を意識してみよう
多様な環境を持つ日本の野山を覆う樹木もまた多様です。山肌の色も薄い緑から濃い緑へと変化します。視覚からの情報は膨大ですし、他の感覚と組み合わされていくベースとなります。
葉っぱや花からは特有の香り成分を発散します。時には小枝を手に取って樹皮を擦ってみたり、葉っぱを揉んで香りを嗅いでみてください。爽やかなものもあれば、それほどでもないものもあると思います。どこでどんなものを見たかという記憶は嗅覚と体験と一緒に覚えると一層記憶に強く残るのでおすすめです。
風が木々を揺らす音、小鳥や虫が鳴く声は日本語を母国語とする私たちには心地よく、時には感情まであるかのように感じ取ってしまいます。この感覚には例外の方もあるかと思います。聴覚は沢の音、落石の音、風の強さなど安全に関わる点でも大切です。
樹木の木肌、岩肌の感触など手のひらから受け取る触覚も大切です。こんなコロナ災禍ですから消毒消毒!というご時世ですが、しかるべきタイミングで手指洗浄と消毒すればよいのであって、手のひらを通じた自然界からのメッセージは大切にしてほしいと思います。
私たちは感情の生き物です。
オンの時間では効率優先とデジタル化でスピードが速い環境におかれています。
オフの時間では感動や驚きを感じたら素直に表現するようにトレーニングすることがとても重要になってきています。
5:地域の寺社仏閣や石仏、城址など先祖の辿った歴史にふれてみよう
野山ハイキングに出かけるなら、立ち寄ってみたいのが麓にある地域住民に守られてきた寺社仏閣です。教科書でしか見聞きしたことがない人物に縁があるかもしれません。
戦国時代の山城跡があると知ってから登り見下ろしてみてはどうでしょうか。当時の支配者がどのような思いでこの景色を見ていたのだろうかと想像するのも楽しいかもしれません。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ゴールデンウィークをアウトドアで過ごしたい、開放的な気分でリフレッシュしたい、という方がこのコロナ災禍を転じて自分自身の健康習慣としての野山ハイキングを安全安心に楽しんでいただけたら大変うれしく思います。
最後に
自然の中で過ごすということは、人間界における地位も名誉も役に立たない、自然が機嫌のよいときにお邪魔させていただくという謙虚さが必要だということをお伝えしておきたいと思います。
どうぞ、三密と節度ある行動で感染拡大を防ぐと同時に、自分自身の健康と免疫力維持を図っていただきますようにお願いいたします。