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Go To トラベル開始から1ヶ月が経過、浮き彫りになる制度設計と旅行現場の問題点とは

江口晋太朗編集者/リサーチャー/プロデューサー
(写真:アフロ)

「Go To トラベル」が7月22日に始まって1ヶ月が経過した。直前に東京都が対象外となり、さらに当初は8月上旬から開始予定だったものが前倒しに。7月の連休とお盆を含めた8月の休暇にかかったことで、旅行事業者や宿泊施設にとって制度の正しい理解のもとでの準備や対応など、混乱を極めたに違いない。

Go To トラベルだけでなく、「Go To イート」や「Go To イベント」、「Go To 商店街」と一連の「Go To キャンペーン」が引き続き実施されていく。ここでは、Go To トラベルを主に事業の問題点について整理する。

Go Toキャンペーン全体を改めて俯瞰する

政府は事業規模108兆円におよぶ「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」のもと、16兆8,057億円にのぼる2020年度補正予算案を閣議決定した。この内、1兆6,794億円が旅行、飲食、イベント、商店街といった一連の需要喚起事業「Go To キャンペーン」に充てられる。

Go To キャンペーン全体の概要(国土交通省より)
Go To キャンペーン全体の概要(国土交通省より)

Go To キャンペーンは国内旅行費用を補助する国土交通省(観光庁)所管の「Go To トラベル」、飲食需要を喚起する農林水産省所管の「Go To イート」、イベントなどのチケット代補助やクーポンを付与する経済産業省所管の「Go To イベント」と、商店街振興を目的とする経済産業省(中小企業庁)所管の「Go To 商店街」で構成されている。

Go To トラベルは、旅行事業者らが販売する旅行商品や宿泊予約に対して、最大で旅行代金総額の2分の1相当額の補助(宿泊割引や地域クーポン)を受けられる。宿泊を伴う旅行は1人あたり1泊2万円分(割引14,000円、地域共通クーポン6,000円)、日帰り旅行の場合は、1人あたり1万円(割引7,000円、地域共通クーポン3,000円)の割引上限だ。期間は2020年7月22日から2021年1月31日(31日宿泊2月1日CO、日帰り旅行は1月31日分)まで。

Go To トラベルは予算1兆3,500億円で、旅行・宿泊代金の割引と地域共通クーポン発行による国の支援額は1兆1,248億3,327万5千円、運営委託費として契約上限2,294億円で公募が行われ、運営事務局に「ツーリズム産業共同提案体」、委託費用は1,895億円で採択された。

「ツーリズム産業共同提案体」は一般社団法人日本旅行業協会、一般社団法人全国旅行業協会、公益社団法人日本観光振興協会、株式会社JTB、KNT-CTホールディングス株式会社、株式会社日本旅行、東武トップツアーズ株式会社によるコンソーシアム。また、協力団体として、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、一般社団法人日本旅館協会、一般社団法人日本ホテル協会、一般社団法人全日本シティホテル連盟 、株式会社リクルートライフスタイル、楽天株式会社、ヤフー株式会社が参画している。

1兆6,794億円の予算から、Go To トラベル分を差し引いた3,294億円をイート、イベント、商店街で割り振る形となる。

Go To イートは、オンライン飲食店サイト経由で期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイント等を付与(最大1人あたり1,000円分)するか、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券(2割相当分の割引等)を提供する。事業予算は約2,003億円、プレミアム付き食事券(例えば、1セット1万2,500円分の食事券を1万円で購入)に767億円、オンライン飲食予約によるポイント等に767億円の合計1,534億円の予算だ。運営委託費は469億円で、食事券発行委託事業費に1件の契約上限額115億円(複数契約有)、オンライン飲食予約委託費事業に1件の契約上限額85億円(複数契約有)、実績確認監査等委託事業に10億円(1件)、キャンペーン参加支援事業者(相談窓口、申請案内、広報)に契約上限額5,000万円(1件)で事業者を公募した。すでに8月7日に締め切られ、8月下旬に事業者決定および契約締結を予定している。

Go To イベントは、 チケット会社経由でイベントやコンサート、美術館などの施設、スポーツ観戦、エンタメにかかるチケット購入者に対し、割引やクーポン等を付与(2割相当分)する。事業予算は約1200億円で、割引やクーポン等支援額は917億2450万円、運営委託費の契約上限額は280億6099万6,000円だ。すでに7月21日で公募は終了しているものの、感染状況をみながら実施時期を判断するとし、いまだ事業者の確定および開始時期は明示されていない。

Go To 商店街は、商店街の賑わいを回復するため、感染予防対策を講じた上での商店街イベントやキャンペーン、プロモーション、観光商品開発等を後押しするもので、事業予算は運営委託費の契約上限額51億3433万4,000円だ。各商店街による申請助成の仕組みで、1申請(1商店街)あたり300万円(複数商店街等による広域プロモーション等には500万円の上乗せが可能)を申請上限とし、実施件数は1,000件程度以上(上乗せ分は200件程度以上)で、支援金は51億円の事業予算内から捻出するという。単純計算で、300万円の1,000件とすると、約30億円前後が支援相当額のため、約20億円程度が事務局経費になる。

なお、全国の商店街の数は中小企業庁が3年に1度実施している商店街実態調査(平成30年実施)によると、約1万4,000〜2,000件程度だという。つまり、単純計算で全商店街の10分の1程度しかGo To 商店街の支援は受けられないようだ。Go To イベント同様すでに7月21日で公募は終了しているが、いまだ事業者の確定および開始時期は明示されていない。

イート、イベント、商店街ともに事業期間は契約締結日から2021年3月中旬までだが、トラベルがそうであるように、事業者への給付対応等を踏まえると1月末までが割引やポイント付与の期間であろう。いまだ開始時期が明示されておらず、事業開始後に加盟店等の募集や消費者への周知、ポイント付与や利用を1月末までに行うことを考えると、年度後半に差し掛かるほど事業者への負荷は大きく、十分な成果が広く行き渡るのかが問題となってくる。

Go To トラベルの急な前倒しと東京対象外による混乱

本来であれば、体制を整えてからGo To トラベル適用の旅行商品を販売するのが筋だが、事業開始直前まで詳細が見えず事業開始時には販売体制が整わないままスタートせざるをえなかった。事業開始日である7月22日の前日7月21日に初めて説明会がなされたが、各説明会においても質疑応答時に事務局は質問に正確に答えられず、「確認する」「検討する」といった応答も多く見られ、事業者にとって制度を把握するのは困難を極めていた。その後、日々更新されるFAQとともに仕様を修正しながら進める形となった。

説明会は会場のみでオンライン公開なし、1社1度だけの参加、それ以降はコールセンター対応の仕様だが、コールセンターも8月から本格稼働で事業直後はセンターに何度電話するもまったくつながらない状況が続いた。一部の事業者はやっとの思いでつながり、質問や相談できたところもある。

事業開始直前に、東京都の発着および東京都在住の人が対象外とされ、現場は住所確認対応に追われることとなる。多くの宿泊施設は、サイトコントローラーと呼ばれる仕組みを使い、OTA (ヤフートラベル、じゃらん、楽天トラベル等)の宿泊予約サイトと自前の施設の予約システムを一元管理している。Go To トラベルでは販売価格と割引額、実質支払額の3つの金額表示が必須となる(販売価格2万円、割引1万円、実質支払額1万円等)。しかし、既存のOTAはそのような価格表示の仕様になっていないのがほとんどだ。OTAではメールアドレスでログインし、住所は購入画面で入力するだけで販売仲介ができてしまうため、東京都民であるかどうかという判別は難しい。

仮に、OTA上のログインやマイページ機能などで住所登録をしてた場合であっても、神奈川県在住のユーザーと東京都在住のユーザーで表示価格を変えるといった細かな仕様も難しい。また、以前は神奈川県在住だったが、現在は東京都在住の人が、神奈川県在住の登録情報そのままで旅行商品を購入した場合、その際の旅行者の住所確認をいかに行うか。もっといえば、購入画面による住所入力さえも、東京都民が別の住所を記入して購入できてしまう。OTAが事前払いを主としていることから、現場からも混乱の声が上がった。

他にも、Go To トラベルでは社員旅行などの団体旅行の場合、代表者の住所が東京都以外で他の人たちが東京都民であってもすべての人が適用される。対面販売であれば購入時に免許証などで住所確認の対応が容易かもしれない。しかし、オンライン予約が主となりつつあり、対面販売は一部の大手旅行会社でしか行っていない。

もちろん、宿泊先で免許証などで確認ができるかもしれないが、施設側も免許証を確認して記入した住所と整合するような手間を省きたいだろうし、すでに割引した価格で販売し、あとで東京都民だと判明した場合、当該旅行はGo To トラベルの給付対象外となり、旅行事業者の損失になることから販売した旅行事業者が旅行者に対して追加請求をする必要がある。事業者にとってみれば、旅行者に追加請求する煩雑なやりとりや管理コストが発生する。性善説的運用のもと現場負担が強いられてる。

旅行商品購入者の住所確認の徹底や販売価格、割引額、実質支払額の表示など複雑な対応を行うためには、抜本的なシステム改修などの準備が必要で、これらは数日で対応できるものではない。説明会と事業開始日時にもっと一定の期間を空けるべきだったのではないだろうか。

複雑な給付額割当の仕組み

割引販売した分の補てんは、事業者側が実績をとりまとめ、事務局に毎月報告を行い給付申請し、事後に振り込まれる。旅行・宿泊事業者に払い込まれるお金、いわば給付金だが、これも一筋縄ではいかない。

宿泊・旅行事業者はGo To トラベル事業のために情報登録や給付枠申請を行う。宿泊事業者は旅行会社やOTA以外から予約を取らないのであれば給付枠申請はいらないが、直販するには給付枠申請が必要となる。

給付金は各事業者に対して給付枠の制限があるという。給付金算定は申請時に過去の取扱実績や販売計画などを提出し、それをもとに給付枠が設定されるため、販売実績のある大手企業には給付枠は大きく中小企業やベンチャーは小さい。

仮に給付枠が500万円だったとする。その給付枠をさらに月別、エリア別に給付上限額が定められている。エリア別とは全国13ブロック、北海道、東北、関東(東京都・千葉県除く)、北陸、中部、近畿(大阪府除く)、中国、四国、九州と、旅行者の多い東京都・千葉県・大阪府・沖縄県に分配される。つまり、9月・北海道に30万円、9月・東北に20万円、10月・関東に30万円といった形で、月とエリア別によるマトリックスで給付区分が指定される。事務局曰く、特定のエリアと月に集中することなく、全国に旅行が広がることを目的としているという。

事業者は給付金の枠内で収まるように在庫管理が必要となる。一部の旅行会社は、先着順など商品数量を決めて販売しているところもある。仮に給付枠を超えて旅行商品を割引販売した場合、割引分は事業者自らが補てんしなければならない。大手の旅行会社やOTAらは、Go To トラベル割引だけでなくポイント還元などのマーケティングを展開している。大手は給付額が大きいだけでなく、給付枠を超えた割引販売をしてもある種の広告予算と捉えて売上獲得につなげることができ、大手なりの力業でキャンペーンを展開しやすい。企業資本の差が、給付金枠やマーケティングにかけられる予算に大きく影響してくる。多くの中小企業にもあまねく広げ、観光産業全体の活性化を目的としたキャンペーンだったはずではないだろうか。

いまだ定かではない地域共通クーポンの詳細

Go To トラベルは旅行や宿泊代の割引35%までで、残り15%分は地域共通クーポンに充てられる。しかし、9月以降から開始するとされているもののいまだ詳細な開始時期が明示されていない。Go To トラベル事業説明会でも地域共通クーポンは宙に浮いたまま進められており、クーポン説明会を改めて実施することになった。

Go Toトラベルの地域共通クーポンの概要(観光庁より)
Go Toトラベルの地域共通クーポンの概要(観光庁より)

クーポンは紙と電子で配布されるという。紙は対面販売時は対面購入時に配布され、OTAなどのオンライン予約の場合は宿泊先で紙を直接受け取るか電子配布とのこと。一方、日帰りツアーは観光バスの乗車時や駅の窓口での受け渡しが想定されている。おそらく、バス事業者や各駅の窓口の混乱が生じる可能性は高い。また、電子クーポンはアプリなのか、ウェブなのか。メール登録すればメールに届くのか。他者への譲渡や流用はどうなるか。7月20日時点でまとめられたGo To トラベル事業説明会資料には、紙や電子といった詳細は書かれておらず、FAQにて電子でも実施予定とだけ書かれていた。その後、おそらく電子での配布を確定したのか、電子も展開することを明確に謳うようになったが、その仕様はみえてこない。

ちなみに、クーポンが使えるのは「旅行期間中」のみ、つまり1泊2日であればその2日間のどこか、日帰りであれば当日のみの利用だ。また、旅行先および隣接県でしか使えない。旅行先近辺にクーポン利用可能加盟店がない、もしくは少なければクーポンを使う選択肢も限られてくる。飲食店や土産屋など、加盟店登録の周知徹底には時間をかけるべきではないだろうか。

クーポン説明会は当初8月7日から開始予定だったが、直前に変更になり、実際に説明会が開始されたのは8月13日から。オンライン開催なし、現地開催のみだ。既に開催済みのクーポン説明会にてクーポンの開始時期や加盟店登録の募集時期も明示されていない。加盟店登録から実施までの期間を考えると、9月中の開催も危うい。後ろ倒しになればなるほど、利用期間も限られてくる。

加えると、Go To キャンペーンの一つであるGo To イートのプレミアム付食事券の所管は農水省であり、Go To トラベルの地域クーポンとは別物だ。飲食店はGo To トラベルのクーポン加盟店登録をし、さらにGo Toイートの利用加盟店登録をしなければならない。短期間に複数の登録申請をし、レジなどで会計対応をし、クーポンや食事券が使われたことを記録・保管し、事務局に申請するという多くの管理コストがかかってくる。

事業直前に明らかになった第三者機関という存在

Go To トラベルにおいて事業開始直前に明らかになったものがある。それが、宿泊名簿管理を第三者が照合するという目的のもとに設立された「第三者機関」なる存在だ。

第三者機関とは、宿泊事業者が直販の予約記録を宿泊施設の外部で管理できるシステムや団体を指し、当該記録を宿泊の事実を裏付けるものとして事務局に提出できる機関だという。旅行会社やOTAのみの予約対応の宿泊施設は第三者機関の照会は必要ないが、昨今の宿泊施設の多くは自社サイトで宿泊予約を受け付けている(OTAの手数料がかからず売上確保でき、消費者と直接つながるD2C的なトレンドもある)。つまり、宿泊施設はGo To トラベルの給付対象商品を自前で販売するには、他社の予約システムなどを通じて宿泊記録を蓄積・保管する仕組みを構築しなければならない。

その第三者機関だが、公的機関もしくは事務局内の照会ではなく、予約システム等を提供する外部の企業や団体が登録できるという。第三者機関の利用には二つの方法がある。一つが「施設直接管理」方式だ。同方式は、あくまで第三者機関に対して予約情報のエビデンスを残すだけで、給付申請は宿泊施設側が直接行う。もちろん、自社のウェブサイト内には前述したようにGo To トラベル適用のための料金表示やクーポン発行などの対応がでてくる。もう一つ「委託管理」方式で、第三者機関が宿泊施設に代わり給付金の交付申請を行い、給付金は第三者機関から宿泊施設に振り込まれる形だ。Go To トラベルの宿泊事業者申請の際、どの方式で登録するかが必須となる。

第三者機関第一号承認の企業とは

事業開始直後の7月23日、第三者機関第一号として株式会社ピアトゥーが承認された。同社は2018年設立の会社だ。ピアトゥーは、7月25日にGo To トラベル完全対応の宿泊施設直販システム「STAY NAVI」をリリースした。STAY NAVIを組み込むことで、煩わしい3点価格表示(販売価格、割引額、実質支払額)や給付枠予算の管理などができるという。旅行者もSTAY NAVI上に登録している宿泊施設を検索でき、STAY NAVI経由で予約すればGo To トラベル適用割引で予約できる。しかも、Go To トラベル説明会では詳細が明らかにされていないはずの地域共通クーポンの電子送信機能など、クーポン制度にも完全対応仕様のサービスとなっている。

Go To トラベル特設公式サイトが開設された7月27日、事務局であるJATAのサイトでは第三者機関に承認された企業・団体は6団体しか公表されていなかった。なお、ピアトゥーの後に第三者機関に承認された株式会社エス・ワイ・エスは、ピアトゥーの代表取締役が以前代表を務めていた会社でもある。また、6団体中前述の「委託管理」対応の第三者機関は、ピアトゥーのSTAY NAVIしかなかった。一日でも早くGo To トラベル申請を進めたい宿泊事業者にとっては、STAY NAVIが第三者機関の最有力候補な状況になっていた(現在、200以上の団体・企業・機関が第三者機関として承認されている。しかし、どこが委託管理までできるかは一覧からは把握できない)。

STAY NAVIは第三者機関承認直後から、Go To トラベル唯一の公式サービスと謳って宿泊事業者に営業をかけ、運営事務局とその協力団体らが一斉に推し進めた。特に、これまで宿直販していなかったり、オンライン予約に対応できていない旅館を含めた全国約8.5万の宿泊施設を対象にアプローチが行える。未曾有の経営危機に乗じて、全国の宿泊施設の予約情報という膨大な顧客情報を特定企業に集約できる仕組みで、情報の非対称性の高さによる内部優位性を持って事前にサービスが開発され、導入を推し進めたものといえないだろうか。

Go Toトラベル公式サイト、第三者機関承認一覧リスト(8月17日撮影)
Go Toトラベル公式サイト、第三者機関承認一覧リスト(8月17日撮影)

Go To トラベル本申請登録の最終日である8月21日、Go To トラベル事業者向け公式サイトで第三者機関リストが更新され、観光協会や直販システムなどのカテゴリーと都道府県単位のリストが掲載された。しかし、8月20日時点までは1番ピアトゥー2番エス・ワイ・エスと、承認された順とおぼしきリストが掲載されていたのが確認されている。宿泊施設は、Go To トラベルの本申請を行うには第三者機関による管理可能な状態でないと申請やその後のGo To トラベル事業対応ができない。迅速な対応をしたい事業者にとって、リストの早い順からリサーチなり登録検討を進めたのではないだろうか。なお、Go To トラベルに承認された旅行・宿泊事業者は、承認リストが掲載された当初から承認順ではなく都道府県別によるリストになっていた。

STAY NAVIによる委託管理方式を利用するにあたり、販売額の1.5%を委託管理費として徴収するという。1兆円以上の事業予算における宿直販分の1.5%だけでも、軽く見積もって数十億円以上の収益が見込まれるだろう。STAY NAVIのサービス説明では、Go To トラベル中はシステム利用を無料にすると書かれているが、Go To トラベル終了後は通常のシステム利用料として送客した宿泊予約総額の3%が徴収される。経済状況によっては、政府が来年もGo To トラベルと同様な事業を立ち上げるかもしれず、宿泊事業者にとってもポータルサイトとしての顧客流入に期待してしまうため、STAY NAVIを解約する大きな理由が見出しずらい。見方を変えると、STAY NAVIが実質的に公式OTA的なポジションにとって変わっただけともいえるかもしれない。

誰のための政策か、丁寧な制度設計を徹底すべき

東京都が対象外となったことで、現場も住所確認や東京発着の旅行商品組成の販売計画など大きな影響を与えた。東京が対象外となった感染状況は7月15日時点で286人、Go To トラベル開始以降の8月7日には大阪で255人を記録している。検査数拡大や陽性率など複合的な要因もあるため一概にはいえないが、今後の感染状況によっては対象外もありえるだろう。逆に、東京が対象外ではなくなることもある。事実、給付金のエリア区分でも東京は枠が用意されているし、東京の宿泊施設や事業者も承認リストに並んでいる。すでに年末頃まで宿泊や旅行予約が見通されている中、Go To トラベル期間中に新たな対象変更となった場合の対応コストはいかほどだろうか。

膨大な申請に短期間で対処しなければならない事務局の負担も大きい。宿泊事業者リスト内に、一時、事業者名が「個人」と書かれたもの(現在は削除済)もあったりと、申請の審査体制にも不安が拭えない。他にも、旅行・宿泊事業者に課される感染症対策において、東京都の感染防止対策ポスター申請同様、宿泊・旅行事業者はチェックをいれるだけで申請が通ってしまう。観光庁による感染防止対策の実施状況の調査において、実施状況が整っていない宿泊施設が見受けられた。現場では、急な前倒しとともに登録申請やGo To トラベル適用の販売や予約対応など多忙を極めている。安全性を担保するためにも、予約管理や感染防止対策実施の準備期間をきちんと設けた上で事業を実施するべきだったはずだ。

制度の複雑さや不安定さから、Go To トラベルを敬遠する声もある。周囲の旅行会社や宿泊施設経営者に話を聞いたところ、「複雑な制度を理解するのが大変。面倒な申請の対応に追われるよりも、目の前のお客や常連を大切にしたいから登録はしない」と語る人たちが少なからずいた。

事業開始から一ヶ月しか経っていない中、本申請が終了し、多くの旅行・宿泊事業者もこれから本格的にGo To トラベル適用の商品を展開していくだろう。9月以降(時期はまだ未定)には地域共通クーポンが開始され、引き続きGo To イートやGo To イベントといった他のGo To キャンペーンも展開される。

すでにGo To イートに懸念を示すジャーナリストもいる。トラベルと比べての給付金の少なさや分配の問題点、テイクアウトやデリバリーの適用外といった問題点が浮き彫りになっている。

事業者、消費者、日本経済全体にとって最良な制度設計になっているのかどうか。改めて問い直すべきではないだろうか。そして、制度の問題点あれば、改善し以降の制度立案の糧とするPDCAを回した上で政策立案をしなければならない。そのためにも、今回の政策の問題点や課題を洗い出す必要がある。引き続き、注視していきたい。

編集者/リサーチャー/プロデューサー

編集者、リサーチャー、プロデューサー。TOKYObeta代表、自律協生社会を実現するための社会システム構築を目指して、リサーチやプロジェクトに関わる。 著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞社出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

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