教員採用試験の前倒し、意味のない理由
公立学校の教員採用試験(教採)の前倒しが話題になっている。同時に、無意味と指摘する声も多く挙がっている。
■文科省に指示されてやるだけ
朝日新聞デジタルの6月18日付の記事は、「今年度(2024年度)実施の試験日程を昨年度よりも前倒しにした教育委員会が、全体の6割を占めたことが朝日新聞の調査でわかった」と報じている。これまで教採は7月に始まり、9月から10月の合格発表が一般的だった。
これが早まったのは、昨年(2023年)5月31日に文科省が公立学校の教採の前倒しに関する協議会を開き、1次試験の実施時期の「標準日」を6月16日として各教育委員会に示し、実施を求めていたからである。朝日新聞によれば、それに全体の6割が従ったということになる。
同紙の調査では、前倒しの理由を「文科省から求められたため」と応えたのが33機関で最多だったという。そこには、「文科省に指示されたから従っただけ」というニュアンスが伝わってくる。
2023年5月31日付の文書「公立学校教員採用選考試験の早期化・複数回実施等について方向性の提示」で文科省は、「就職活動を終了する時期はますます早期化しており、民間企業の選考開始日(6月1日)までに、就職活動を事実上終了している学生も増加しています」と現状を分析している。そして、「教師志願者の増加を図り、質の高い教師の確保に繋げていくために、教員採用選考試験の実施方法に関し、早期化や複数回の実施等の工夫改善を進めていく」という答にたどりついている。それが標準日を6月16日にすることになったわけだ。
■民間企業への就職はかなり早い時期の決断が必要
標準日を前倒しすることが教員志願者の増加、質の高い教員の確保につながるのだろうか。教員免許を取得しながらも、卒業後は民間企業への就職を決めたひとりに話を聞いてみた。ちなみに彼は、教採は受けていない。
「民間企業に就職するためには、4年生になってから就職活動を始めたのでは遅すぎます。かなり時間もとられることになるので、教採との両立は難しい。なので、早い時期に民間か教職かを選択し、民間に決めたら教採のことは考えません」
教採の標準日が1ヶ月くらい早まったところで、民間企業への就職を決めてしまった学生には関係ないことになる。つまり、早期化の意味はない。
教員志望者を増やし、質の高い教員を確保するために必要なことは、教採の前倒しではない。多くの人が指摘していることだが、教職の魅力向上でしかない。
にもかかわらず、文科省は前倒しにこだわりつづける。今年度の教採も始まっていない4月26日、文科省は標準日を5月11日にする方針を固めた。意味があるのだろうか・・・。