公立学校は労務管理できているのか?(2)労基署は来ない
前回記事では、公立学校では教員に対する労務管理が甘いものになりやすい、制度的な問題①~③について述べた。今回は④~⑤について解説する。
前の記事:公立学校は労務管理できているのか?(1)だれも責任をとらない制度上の欠陥
■④仕事の範囲は曖昧で、定まっていない
OECD調査によると、日本の小中学校の教員は世界一、忙しい。この背景のひとつが、外国と比べて、先生の仕事の種類が多く、範囲も広いことだ。国によっては、教員の業務は授業とその準備がメインで、それ以外の生活・生徒指導や進路指導などは、別のスタッフが行う国もある。日本のように部活動指導に教員が従事する国も珍しい。
細かい図になるが、次のとおり、韓国を除く他の先進国と比べて、日本の教員が担っている業務は多岐にわたる(〇や△が多い)。
しかも、日本以外の先進国では、労働者側と使用者側が協議して、仕事の内容、範囲について協定を結ぶ例もある。日本では民間でもジョブ・ディスクリプション(職務記述書)はないか、曖昧な例も多いのかもしれないが、公立学校でも、何が教員の業務になるのか、たいへん曖昧だ。しかも、教職員組合の組織率が低下しているなか、教員の負担軽減や業務拡大の抑制という観点で、労使交渉がどこまでできているかは、おおいに疑問だ。
文科省も、教員の標準的な職務については示している(次の図)。
だが、相当範囲は広く、あれもこれも、入ってきそうな内容となっている。たとえば、先ほどのプールの点検や管理は、例示はされていないが、「その他学校の管理運営に関すること」に含まれると解釈する自治体もあるだろう。
■⑤労基署は来ない、労働基準監督が機能していない
そして、最後に、私立学校などと決定的に異なる点が、公立学校は労基署の管轄外になっていることだ(ただし、厳密には非常勤講師は労基署の管轄)。私立学校(国立附属学校も)で働き方改革や労働安全衛生体制の整備が進むのは、労基署の指導や是正勧告を受けてというケースが多い。
教員を含む地方公務員の労働基準監督の役割を担うのは、基本的には、人事委員会で、人事委員会を置かない自治体の場合(都道府県と指定都市では人事委員会は必置だが、それ以外は必置ではない)は、その自治体の首長である(地方公務員法第58条5項)。
出所)福井県庁ウェブページ「職員の勤務条件に関する労働基準の監督について」
人事委員会は、地方公務員の勤務時間、休暇、休日、安全衛生管理体制などを調査・監督することとなっている。しかし、人事委員会には非常に少ない人員しかいない自治体が多いし、どこまで労働基準監督の機能が発揮できているかは疑問だ。人事委員会が教育委員会に対して労基署のように強く指導して、是正が進んだという事例を、わたしは聞いたことがない(前の記事の問題点①②も関連する)。
また、都道府県立学校の教職員は人事委員会の所管だが、県費負担教職員(市区町村立小・中学校の教職員の大部分)に対しては、その学校の所在する自治体の首長(市区町村長)が労基署の代わりとなる。
小規模自治体ならまだしも、学校数が数十ある自治体であれば、忙しい首長が労働基準監督をするのは時間的にも無理がある。仮に教職員の労働環境や労働安全衛生に問題があっても、身内でもある教育委員会の責任問題、ひいては首長自身の問題ともなりかねないわけで、首長が積極的に労基署のような役割を担うとは、考えられない。
労働基準のあり方は公立学校教員に限らず、ほかの地方公務員の行政職を含めた問題でもあるが、通常の公務員よりも教員の時間外が多いことは実態調査でも明らかだ。だが、この問題、総務省も、文科省も、厚労省も一向に改革しようという姿勢を見せない。
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以上、5つの制度上の欠陥、問題について見てきた(図を再掲)。もちろん公立学校のよさや改善しているところもあるが、5つの「ない」問題に、もっと注目される必要があると思う。一言でいうと、労務管理や健康確保がザルなのだ。
①~⑤の問題のうち、大きな制度改革が必要な対策もあれば、現行制度でもある程度のことはできることもある。次回の記事ではその点について提案したい。
※この記事では、妹尾昌俊・工藤祥子『先生を、死なせない。教師の過労死を繰り返さないために、今、できること』(教育開発研究所)を一部加筆、活用しました。