ジャパナ(日本人)ハパナ(優秀)-南アジアから今の日本を見る-
筆者は、スリランカは最大親日国家だと繰り返し伝えてきた。事実、両国を「愛」で結びつけた偉人や民衆が相思相愛で育んできた豊かな関係を考えると過言ではない。しかしその内容について若干の訂正を加えたい。
結論から言うと政治(国際)と民衆(民際)の交流を分けて考える必要がある。国家を背負わず行ってきた今までの大らかな民際交流はこれからも益々盛んになることを期待したい。それとは分けて考える必要があるのはスリランカとの政治交流である。前者と比べて警戒心が求められる。加えてスリランカとの経済交流については、民際の大らかさと、国際の警戒の両方を持ち合わせて挑む必要があろう。
日本の報道において、国家首脳として24年ぶりとなる1泊2日の日程での安倍総理のスリランカ訪問を、「真珠の首飾りにくさび」と大々的に報道された。滞在日程は63年前に開かれたサンフランシコ講和会議の時期と重なり、9月8日は、首相のスリランカ滞在最終日とサンフランシコ講和会議の最終日・各国が署名した記念日であった。この会議と日本とスリランカをつなぐ一番のキーワードは「憎しみは、憎しみによってではなく愛によって消える」しかない。偶然の記念日に日本の首相の口からこの言葉を期待した者は筆者だけではない。しかし実際にはその内容には若干かすった程度で、首相が今回スリランカ滞在中に強調したキーワードは別にあった。
日本の首相が自ら「日本人は優秀だ」と公言したのである。「ジャパナ ハパナ」は、スリランカで使われるスラングで、ゴロ合わせも良く昔から日本を比喩するのに用いた言葉である。首相のスピーチの中で、今回のスリランカ訪問に際し日本から有能な経済人を同行させた。つまりジャパナ ハパナを連れて来たと表現するのにこの言葉を引き合いにしたのである。連れて行った経済界の実力はともかく今回の外交(政治的)において「真珠の首飾りにくさび」に成功したかの検証も含め、「ジャパナ(日本)はハパナ(優秀)だったのか?」冷静な分析が必要である。(ちなみに今回の訪問で日本からスリランカ側に137億円の円借款を提供。)
まず、スリランカの現状を直ちに理解するため、安倍首相夫妻をスリランカに歓迎した際の新聞記事を見せたい。事実この記事は一部の日本のインターネット上で話題になっており、大々的に日本の首相を歓迎している様子を受けて「スリランカ、ありがとう!」のコメントが絶えない。残念だがその解釈は浅はかと言わざるをえない。実はこの記事には見落としてはならないいくつかの問題点があることに気付く必要がある。
1) 新聞一面を使った記事であることに先ず驚く。日本に対しての感謝の度合いと日本側で解釈されているのが大きな間違いで、これはスリランカ国民に対するこの国の現政権の一面広告であるとの解釈の方が正しいだろう。
2) このことは、記事中の写真から伺うことができる。写真における登場人物の立ち位置がポイントとなる。誰がホストで誰がゲストなのか。センターを陣取っているラジャパクサ大統領の引き立て役に、安倍首相はなってはいないか。日本の援助をスリランカ大統領の手柄として演出されているのである。
3) 両国首脳以外にも写真に一人の男性が写っている。彼はスリランカ大統領の息子で、言語道断、これには公私混同以外の言葉が見つからない。次期大統領候補として大統領家族ぐるみで世襲を目論んでいおり、現政権の広告(一面記事)に今回も登場している。
4) 紙面の一部に日本語の表記が見られる。スリランカ人は日本語が読めないにも関わらず、なぜ?と素朴な疑問を覚える必要がある。新聞読者のために向けられているというより、安倍首相を喜ばせるためであろう。スリランカでこれ程までに歓迎されたなどと、日本のメディアにおいての情報の二次利用を意識していると思うしかない。
安倍首相の10日後に同じくスリランカを訪問した中国の習近平国家主席との写真も比較したい。少なくともホストとゲストの立ち位置は正確である。援助を与える国と受ける国の立場も写真の醸し出す雰囲気から伝わってくる。習近平が、スリランカ訪問に先立ち地元紙に「同じ船に乗り、(発展の)夢を共に追う仲間になろう」と題した文章を寄稿し、その中で「21世紀の海上のシルクロードをつくろう」とスリランカ国民に呼び掛けている。スリランカ訪問前に訪れたモルジブでもマスコミに対して署名入りのメッセージを送るなど、中国側の一般国民に対しての演出は、したたかではあるが上手いと言わざるを得ない。
ラジャパクサのツイッターには、習近平の手をつないで階段を降りている仲睦まじい2人の姿が掲載されており、それは、スリランカ現政権と中国との現時点での距離でもあると言えよう。さらには習近平国家主席がスリランカを離れた直後に、ラジャパクシャ大統領が自身のツイッターで、「中国との友情を評し、スリランカの電機代と燃料代を値下げする」と発表した。中国側の外交のしたたかさと中国側とスリランカの現政権とのしがらみの中で、一般のスリランカ人の脳裏には中国の友好的な印象を焼き付けられた。
1965年から始まり、長い間、対スリランカ支援国としてトップ走ってきた日本だが、なぜいまになって中国と取り合いになっているような案件についてとっくに昔に余裕をもって片付けてこなかったかなどの疑問が残る。その点、ここ数年前から存在感を示すようになった中国の政治決断の速さ、フットワークの軽さと効率的外交戦略などにいろんな意味で学ぶことはある。
これは今のスリランカ、そして中国との関係を絶賛するものではない。むしろ逆である。スリランカの現政権は、わずか10日の間に日本と中国の相容れない2つの国家に対して同様な約束を交わすという節操のなさを露呈した。さらには今回の習近平の訪問に合わせてスリランカの港に中国の核搭載潜水艦が姿を現しており、「スリランカはすでに中国の植民地である」と論じる記事も登場している。スリランカの領土を安易に中国の軍港として提供している現政権の責任は免れない。念のため、現政権のようなこれほどまでの中国に対してのあからさまな前のめりの政治姿勢は今までのスリランカ歴史には存在せず、今後も期待されるものでもない。
日本首脳が久しぶりに南アジアを訪問したことは評価できる。がしかし今回の安倍首相のスリランカ訪問について、スリランカで表面化している情報の中からは、残念ながら「ジャパナ ハパナ」と言えるかが怪しい。今回の訪問はむしろスリランカ現政権に都合よく利用された印象が拭えない。今までスリランカの国民の間で定着してきていた「ジャパナ ハパナ」ですが、このままでは「チーナ(中国人) ハパナ(優秀)」にすり変わりかねない。
首相のスリランカ訪問についていずれの日本国内の報道も「真珠の首飾りにくさび」とだけではなく、同行された首相同行筋からもは「『首飾り』は切れる」と自信をのぞかせていたとも付け加えられた。その自信はいまだ健在なのか。
繰り返しになるが、日本とスリランカの民際交流は変わることなく今まで通り爽やかに展開されることを望むが、国家間の政治的なやりとりに関してはジャパナには今まで以上にハパナであることを親日の1人としても信じ、期待したい。