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安倍首相、スリランカで愛を叫ぶ!日本を救ったブッダの教え「憎しみは、愛によって消える」

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
(写真:Donkey Hotey)

世界の中で争いが絶えない。シリアやイラクでは、非人道的で痛ましい憎しみの連鎖が繰り返され、ウクライナ領土をめぐってはロシアとNATO(北大西洋条約機構)との争いも本格化しようとしている。日本をめぐる状況も決して歓べるものではない。今にも戦争がはじまるのではないかと不安を口にする人も現われている。

日本では全く話題に上がっていないが、実はこの時期、かつての日本が戦争を終わらせ、平和を誓い再出発した記念すべき日と重なっている。アメリカのサンフランシスコで太平洋戦争を最終的に終わらせる平和条約の調印がおこなわれ、世界の49カ国(連合国)が、日本からは吉田茂首相が調印文書に署名した。これは、日本が国際社会に復帰することを正式に認められた瞬間であった

サンフランシコ講和会議は終戦から6年後の1951年9月4日から8日まで開催された。今まさに63年目の記念日の真っただ中である。サンフランシコ講和会議の場で繰り広げられた主な議題は、日本は諸外国に対してどのような戦後賠償をするかということと「日本の国の形」をどうすべきかであった。米国が中心となって青写真を描き、各国との調整を行ない、開催に至ったこの会議だが、中には米国寄りの進め方に反発する国も出てきた。実際には52カ国が参加していながら、ソ連、チェコスロバキアとポーランドは調印しなかった。ちなみに中国も韓国も会議には呼ばれなかった。日本が今日、領土問題を抱えている国3つとも会議の場で署名していない点、偶然の一致だろうか?平和を誓った63年前のこの日が、今になって周辺国との確執を生むことになる原因となってしまったのではないか、改めて考えてみる価値は大いにある。

初の戦後生まれで、最年少の首相となった安倍首相。9月6日から8日までの日程で、南アジアを訪問すると公式発表した。特に注目しているのはスリランカ訪問である。日本の現職総理大臣がスリランカを訪問するのは24年ぶりであるが、その訪問理由についての公式発表は「日本のシーレーン上に位置するスリランカとの間で、同じ海洋国家として海洋分野を始めとして幅広い分野での二国間関係を深化・拡大」となっている。今回は首相と共に、中小企業を含むインフラや食品関連等の三十数社の企業が同行する予定で、表面的には両国との経済関係の更なる強化となっているが、真の目的は中国の「真珠の首飾り」戦略に対抗するための「安保ダイヤモンド構想」の構築であることが明らかである。その第一歩として、すでに海上警備力の向上のためと日本からスリランカに巡視船を供与する協議を開始する見通しである。年末には日米防衛協力のための指針再確定も控えている。

再びサンフランシコ講和会議に話を戻したい。9月6日は、会議においてJ.R.ジャヤワルダナ、スリランカ代表がまさに演説を行った日である。スリランカ代表は、自ら対日賠償請求権を放棄し、諸外国にも同じようにするよう訴えた。同時に旧ソ連から提案されていた日本分断案に真っ向から反対し、今の国の形を守ったまま日本に返す必要があると強く求めた。

この演説で最も評価されている部分が何かというと、それは、ブッダの言葉であるダッマパーダ(法句経)5を用いた「Hatred ceases not by hatred but by love (人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない)という部分である。さらにジャヤワルダナ代表は、この思いはアジア共通文化として今もなお存在していると強調したことも忘れてはならない。

演説に対して吉田茂首相は深く感銘し涙したと伝えられている。大日本帝国憲法下の日本の最後の総理大臣となり、戦後直後からの安定的な政権の元に諸外国と共に日本の復興に尽力した吉田茂と後にスリランカの初代大統領となったJ.R.ジャヤワルダナの絶大なる友好および信頼関係はやり取りされた手紙からもうかがわれる。

総理官邸、東京

1951年9月20日

拝呈

サンフランシコ会議において閣下が述べられた、自由を求めるアジアの熱情、セイロン(現スリランカ)政府の日本に対する寛大なる立場に感動いたしました。心からの謝意を捧げます。全日本国民も閣下の高潔なる発言に感銘いたしておる次第でございます。

ここに平和条約調印が完了いたしたる以上、日本は今後すべての隣国と十分なる協力をなし、平和と自由の保持に向かって邁進し、アジアの安定と発展のため、あらゆる努力を傾けることが出来ることを熱願いたします。

頓首再拝

吉田茂

セイロン代表 大蔵大臣

ジャヤワルダナ閣下

コロンボ、セイロン

吉田総理は以来も手紙を絶やさず、明くる1952年にも同様な内容で手紙を送っている。

「去る9月サンフランシコにおける対日講和会議に於いて、閣下が雄弁に披れきされましたセイロン(スリランカ)の日本に対する好意、同情、友好の念を日本国民は忘れることができません。

将来我が両国は、相共に経済的または文化的に着実なる発展をなし、アジアと全世界の平和、進歩、発展に寄与することを確信いたします。」

アジアの平和、安定、進歩、発展を約束した戦後の日本は、民主主義で平和を重んじる世界有数の模範的な国となった。安倍総理が成熟した国として63年目の記念日を最大親日国のスリランカで迎えることは運命的としか言いようがない。

「目には目、歯には歯、手には手、足には足を(Eye for eye, tooth for tooth, hand for hand, foot for foot.)」と憎しみの連鎖を生む武力による解決の方向性を断念し、63年前のJ.R.ジャヤワルダナ初代大統領が行った「Hatred ceases not by hatred but by love(人は憎しみによっては憎しみを越えられない。人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる)」と訴えた演説を、安倍首相に「スリランカの地」で復唱して頂きたい。

63年前の今日、日本が愛によって救われた史実を改めて思い返し、その国の今の代表として、武力に頼ることのない「愛による物事の平和的解決をしよう」とアジアに、世界に呼びかける歴史に残る名演説を期待したい。それは真の意味の「積極的平和主義」であると信じたい。

……

J.R.ジャヤワルダナ初代スリランカ大統領については下の記事も参考になります。

忘れてはならない!JRジャヤワルダナ大統領、日本への本当の願い(サンフランシスコ講和記念日によせて)

日本、国家としての記念日は、思いやりをもって一つになってこそ!サンフランシスコ講和会議、複眼的考察

多死国日本、後始末への提案ースリランカからの言づけ

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スリランカ・日本関連のものとしてつぎの記事も参考になります。

安倍首相にも教えたい!スリランカは日本のお手本である。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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