シリアに違法駐留を続ける米軍の基地が「イランの民兵」所属と見られる自爆型ドローンの攻撃を受ける
シリアにある米軍の基地が1月20日、自爆型無人航空機(ドローン)による自爆攻撃を受けた。
攻撃を受けたのは、イラクとを結ぶシリア南東部ヒムス県タンフ国境通行所(イラク側はワリード国境通行所)に設置されている有志連合の基地だ。
タンフ国境通行所
タンフ国境通行所は、2015年3月22日にイスラーム国シリア政府から奪取していた。だが、翌16年3月5日、有志連合が反体制武装集団とともにヨルダンから進攻し、これを制圧した。制圧された通行所には、米軍が基地を設置し、約200人からなる部隊を常駐させた。また、英軍も2016年5月、技術者など約50人からなる部隊を派遣し、駐留させた。
米国は、タンフ国境通行所から半径55キロの地域が、領空でのロシアとの偶発的衝突を回避するために2015年10月に米ロが設置に合意した「非紛争地帯」(de-confliction zone)に含まれると主張、占領を続け、タンフ国境通行所、ヨルダンとの国境地帯にあるルクバーン・キャンプを含むこの地域は以降、「55キロ地帯」(55km zone)と呼ばれるようになった。
米国による「55キロ地帯」の占領は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」を根拠とした。だが、同国が主導する有志連合には、シリア政府の承認を得ているものではなく、トルコが「分離テロリスト」とみなすクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導するシリア民主軍、「自由シリア軍」(al-Jaysh al-Suri al-Hurr)を自称する反体制武装集団諸派が「協力部隊」(partner forces)として参加してはいるものの、シリアのいかなる責任ある当事者も正式に参加してはいない。また、有志連合の活動を認める国連安保理決議も存在せず、その駐留は国際法違反にあたる。
なお、米軍は「55キロ地帯」のほかにも、PYDを核とする北・東シリア自治局の実効支配下にあるシリア北東部各所の25ヵ所(2021年現在)に違法に基地を設置している。
参考資料
「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」(CMEPS-J Report No. 65)
CENTCOM発表
米中央軍(CENTCOM)は1月20日に出した声明(第20230120-01号)で、このタンフ国境通行所の基地がドローンの攻撃を受けたと発表した。声明の内容は以下の通りだ。
また、55キロ地帯で活動する反体制武装集団のシリア自由軍(Jaysh Suriya al-Hurr、旧革命特殊任務軍)はツイッターを通じて声明を出し、以下の通り発表した。
シリア自由軍はその後、以下の通り発表、3機目のドローンによる被害を明らかにした。
誰が攻撃を行ったか?
シリア軍とロシア軍による爆撃の被害が長らく喧伝されてきたシリアでは、両軍のほかに、米軍(有志連合)、イスラエル軍、トルコ軍が爆撃を実施してきた。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が1月20日に発表したところによると、このうちシリア軍が大規模な爆撃を中止してから35ヵ月が経過した。ロシア軍も長らくイスラーム国のスリーパーセルを狙って爆撃を続けてきたが、2022年2月にウクライナへの侵攻を開始して以降、その数は著しく減少した。米軍による爆撃も2020年1月末から2月初めにかけてのグワイラーン刑務所(ハサカ県ハサカ市)でのイスラーム国の襲撃・脱獄事件に際して実施されたのが最後である。イスラエル軍とトルコ軍の爆撃は今も散発的に続いている。
今回のタンフ国境通行所に対する爆撃について、実行声明は出ていない。だが、「イランの民兵」によるものだというのが大方の見方である。
「イランの民兵」とは、シーア派宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。
「イランの民兵」は、2021年11月にタンフ国境通行所に対してドローンなどで2度の攻撃を行っている。
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米軍の基地に対するドローンでの攻撃は、2023年に入って2度目であり、前回は1月3日、ダイル・ザウル県のウマル油田に設置されている米軍(有志連合)の基地(グリーン・ヴィレッジ基地)一帯が狙われた。ドローンの所属は不明だが、「イランの民兵」による攻撃との見方が強い。
今回の攻撃も「イランの民兵」によるものだとしたら、それはシリア国内での「イランの民兵」の活動を認めないとするイスラエルが1月2日に民生施設であるダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)に対して行った爆撃に対する2度目の報復と見ることも可能だろう。