シリアで暴力の連鎖が再発か?:ダマスカスでテロ、シリア軍とトルコ軍の攻撃激化、米軍基地にドローン攻撃
2020年3月以降、大規模な戦闘が発生していなかったシリアで、10月20日、大規模なテロ、軍事攻撃、無人航空機(ドローン)を使用した爆撃が相次いで発生した。
首都ダマスカスで爆弾テロ
連鎖のきっかけは、早朝に首都ダマスカスで発生した爆弾テロだった。午前6時45分頃、軍が使用する夜行バス1台が首都の中心部に位置する大統領橋(ジスル・ライース・ハーフィズ・アサド)の下を通過しようとした際、爆発し、14人が死亡、2人が負傷した。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)が軍情報筋の話として伝えたところによると、爆発はバスに仕掛けられていた爆発物3発のうちの2発によるもの。残りの1発は、大破したバスの下に落下しているのが、発見された。
この事件に関して、ムハンマド・ラフムーン内務大臣は国営のシリア・テレビに以下のように述べ、厳しく非難した。
事件発生から数時間後、カシオン連隊を名乗るグループがテレグラムを通じて声明を出し、犯行を認めた。
カシオン連隊は、2019年頃からダマスカス県やダマスカス郊外県でシリア軍や治安機関関係者を狙って爆破テロを行うようになったグループ。2019年12月16日のダマスカス県ナフル・イーシャ地区での国防隊隊員の殺害、2020年11月20日のダマスカス県ハラスター市での国防隊隊員の殺害2021年8月14日のダマスカス郊外県西グータ地方のアイン・アファー検問所(軍事情報局)の襲撃などへの関与を認める声明を出している。だが、その実態は不明である。
シリア軍による報復砲撃
報復宣言にも似たラフムーン内務大臣の発言を実行に移すかのように、シリア軍が動いた。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団や反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤなどによると、「決戦」作戦司令室の支配下にあるM4高速道路沿線のアリーハー市を激しく砲撃したのである。この砲撃で、通学中の子供3人と女性1人を含む13人が死亡、35人が負傷した。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。
トルコのドローン爆撃
これに対して「決戦」作戦司令室は、シャーム解放機構がシリア政府の支配下にあるイドリブ県南部のダーナー村、ハーン・スブル村、ダーディーフ村、タッル・ルンマーン村、アレッポ県西部のミーズナーズ村、カフル・ハラブ村などを砲撃した。
しかし、より大胆な行動に出たのは、反体制派ではなく、それを支援するトルコだった。
クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、トルコ軍は、「トルコが支援する自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army)として知られるシリア国民軍とともに、アレッポ県北部のタッル・リフアト市と同市近郊のシャイフ・イーサー村を砲撃し、シャイフ・イーサー村で子供2人が負傷したのだ。
トルコ軍はまた、午後3時15分頃、トルコ国境に面するアレッポ県北西部のアイン・アラブ(コバネ)市を無人航空機(ドローン)で爆撃した。爆撃はPYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の傘下にある社会公正評議会のビルの前に停車していた自動車を狙ったもので、同自治局ユーフラテス地域(アイン・アラブ市一帯地域)の法務委員会(法務省に相当)のバクル・ジャッラーダ共同委員長、16歳と19歳の青年2人の合わせて3人が負傷した。
タッル・リフアト市、アイン・アラブ市は、いずれもシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあり、ロシア軍憲兵隊も駐留している。だが、一連の攻撃に対して、ロシア軍もシリア軍も今のところ対抗措置は講じていない。
「人民諸派」の動き
PYDを狙ったのはトルコ軍だけではなかった。シリア政府を支持すると見られる「人民諸派」と呼ばれる地元住民が、北・東シリア自治局の武装部隊で、クルド人民兵組織の人民防衛隊(PYD)を主体とするシリア民主軍を相次いで襲撃したのだ。
襲撃事件が発生したのは、ハサカ県内の北・東シリア自治局支配地。SANAによると、イラク国境に面するヤアルビーヤ町郊外のタッル・アルウ村にある穀物サイロで、シリア民主軍の車輌を「人民諸派」が襲撃し、車輌が炎上し乗っていた兵士2人が死亡した。
「人民諸派」はまた、ハサカ県内の油田で採掘した原油を積んだシリア民主軍のトレーラー1輌と軍用車輌1輌が、ハッラーブ・ジール村の米軍基地(空港)から出たところをRPG弾で攻撃し、トレーラーを炎上させ、兵士多数を殺害した。
「人民諸派」は5月末から、北・東シリア自治局支配地内でシリア民主軍や内務治安部隊(アサーイシュ)を狙った襲撃を行うようになったが、1日に2回の攻撃が報告されたのは今回が初めてである。
なお、SANAがヤアルビーヤ町近郊の複数の地元筋の話として伝えたところによると、「人民諸派」の攻撃と前後して、米主導の有志連合の冷凍トレーラー70輌と装甲車100輌からなる車列がハサカ県内で盗奪した物資を積んで、ハッラーブ・ジール村の米軍基地からイラクとの国境に違法に設置されているワリード国境通行所を経由し、イラクに出国していた。
…そして米国も狙われる
暴力の連鎖は収まらなかった。シリア領内に違法に駐留を続ける米軍部隊も狙われたのである。
ヒムス県南東部のイラク、ヨルダン国境に面するタンフ国境通行所に米軍(そして英軍)が違法に設置している基地が所属不明のドローンの攻撃を受けた。トルコ国営のアナトリア通信やBBCは、米高官が攻撃を認めたと伝えた。また、シリア人権監視団によると、爆撃では基地内の食堂施設、モスク、食糧庫が狙われたという。だが、爆撃がイスラーム国によるものか、「イランの民兵」によるものかはいまのところ不明である。
なお、10月13日には、イスラエル軍がタンフ国境通行所一帯に広がる有志連合の占領地のいわゆる「55キロ地帯」上空に侵入し、ヒムス県中部のT4航空基地(タイフール航空基地)をミサイル攻撃、SANAによるとシリア軍兵士1人が死亡、3人が負傷する事件(シリア人権監視団によると、シリア人4人と身元不明者5人が死亡)が発生している。