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佳境を迎えるWEリーグ優勝争い。逆転優勝を狙うINAC神戸を支えるもの

松原渓スポーツジャーナリスト
2点目を決めた成宮唯(写真提供:WEリーグ)

【トップ3がリード】

 WEリーグは、閉幕まで残すところ約1カ月。優勝争いが佳境を迎えている。

 4月21日に行われた第16節では、首位の浦和と2位のINAC神戸、3位の新潟が勝利。一方、4位の東京NBが10位のC大阪と引き分けたため、優勝争いから一歩後退した。9連勝中の浦和が頭ひとつリードしているが、2位の神戸は勝ち点「7」差で消化試合が1試合少なく、浦和との直接対決を残しているため、逆転優勝の可能性は残されている。

 神戸は3日前の広島戦で、セットプレーの流れから今季初の複数失点を許し、0-2で敗戦。15節目にして初黒星を喫し、首位を浦和に明け渡した。

自力で優勝をつかむためには落とせない試合だっただけに、成宮唯は「チームとしてネガティブ(な空気)になりかけました」と振り返る。それでも、短時間で気持ちを切り替え、中2日で相模原のホーム・ギオンスタジアムでの一戦に臨んだ。

 代表に4名を送り出す神戸は、代表とリーグで連戦となった影響でジョルディ・フェロン監督がギリギリのマネジメントを強いられており、この試合では守護神の山下杏也加が欠場。先発3人を入れ替えて臨んだ中、レギュラー陣が攻守を牽引し、出場機会の少ない選手たちも活躍した。

辻澤亜唯(写真提供:WEリーグ)
辻澤亜唯(写真提供:WEリーグ)

 インサイドハーフで初先発のチャンスをつかんだ高卒ルーキーの辻澤亜唯が、果敢に仕掛けて流れを引き寄せる。連動して中央とサイドを効果的に使い、守屋都弥、北川ひかるの代表ウイングバックコンビが決定機を作り出すと、前半38分には田中美南のクロスに守屋が合わせて先制。67分には、アンカーの松原優菜のロングフィードに2列目から抜け出した成宮が難しい角度から左足を振り抜き、鮮やかなミドルシュートを沈めた。73分には、途中出場の髙瀬愛実が自ら得たPKを決めて、ダメ押しの3点目。

髙瀬愛実の3点目(写真提供:WEリーグ)
髙瀬愛実の3点目(写真提供:WEリーグ)

 守備ではセンターバックの土光真代、三宅史織を中心に相模原のシュートを4本に抑え、4試合ぶりの出場となったGK船田麻友も無失点に貢献。今季10試合目となるクリーンシートを達成した。

【中盤を司る2人の主軸】

 フェロン監督は試合後、「非常にいい内容だった」と内容を賞賛した一方、リーグの過密日程について苦言を呈した。代表組はアメリカで行われた4カ国対抗戦に参加し、4月6日と9日に2試合をこなして帰国後、8日間で3試合を戦う強行スケジュール。指揮官が神妙な表情でこう訴えたのも無理はない。

「(アメリカとは)片道15時間の移動があり、時差が13時間ほど違うので時差ぼけもあります。代表活動として必要な試合があるのは理解していますが、もう少しリーグ側も(クラブと)協力してカレンダー、スケジュールを考えて欲しいです」

 今季、WEリーグは代表ウィークや女子ACLプレ大会などの影響で、開幕が例年よりも遅い11月にずれ込んだ。その結果、リーグの日程が後期に集中。その中で緊張感のある優勝争いを繰り広げている上位陣は、選手層の厚さや個々の対応力の高さが光る。

ジョルディ・フェロン監督(写真提供:WEリーグ)
ジョルディ・フェロン監督(写真提供:WEリーグ)

 バルセロナ育ちのフェロン監督は、ポゼッションにこだわりを持ち、今季はその軸として経験値の高い田中美南を据えてきた。ただし、対戦相手は田中に対して必ずと言っていいほど複数人で対応してくる。そのため、両ウイングバックの攻撃参加と、プレーエリアの広い成宮の動きが、田中を生かすカギとなる。

 成宮は、この試合で今季4ゴール目を奪取。トップ下で縦横無尽に動いてチャンスを創出し、自身も直近の5試合で3ゴールと好調を維持している。その理由について、「(田中)美南と自分に対して監督がある程度自由を与えてくれているので、美南の動きをなるべく見るようにしていますし、どちらかが中盤に降りるときは、どちらかが前に行くような動きは、試合を重ねるにつれてやりやすくなっています」と、手応えを口にした。連戦下で、コンディションはむしろ上がっているという。

成宮唯
成宮唯写真:西村尚己/アフロスポーツ

 自身が決めた2点目は、ゴールまでかなりの距離があったため、ドリブルで持ち込む選択肢もあった。だが、「チームの流れが良くなかったので、仕掛けるよりも『打ってしまえ!』と思って振り抜きました」。ビューティフルゴールでチームを勢いづけた。機動力と決定力を高めている背番号10のパフォーマンスは、リーグ終盤のチームの浮沈を左右しそうだ。

 また、この試合ではアンカーの松原が攻守のつなぎ役として躍動。持ち前のキックを生かし、2点目に直結する美しいパスを通すなど、フル出場で生き生きとプレーした。前半途中で無念の交代となった広島戦から中2日で、どう切り替えたのか。

「(フェロン)監督からは『いい選手は、悪い日があってもすぐ次に切り替える』と言われました。試合後は落ち込んでいたんですけど、悔しさはピッチで取り返すしかないので。試合が近づくにつれて『やるしかない』と気持ちが固まりした」

今季、広島から加入した松原は、24歳でキャリアのひとつの転機を迎えている。神戸の中盤を長年支えた伊藤美紀の背番号6を引き継ぎ、主戦場はそれまでの右サイドバックからアンカーへ。昨季の出番はわずか2試合だったが、今季は16試合中15試合に先発し、パス成功率は82.6%(4月14日時点)とリーグ上位。強度の高い練習の中で鍛えられた守備面の進化もうかがえる。

松原優菜(写真提供:WEリーグ)
松原優菜(写真提供:WEリーグ)

「優勝争いをするチームでプレーするのは初めてですし、うまくいかずに悩むこともありますが、試合に出ながら少しずつ成長できていることが自分の自信になっています。周りは上手い選手ばかりなので、ついていくばかりですが、今後はもっと自分からゲームをコントロールできるようになりたいです」

 高めてきた自信を、リーグ終盤の優勝争いにぶつけるつもりだ。

【競争が生み出す勢い】

 フェロン監督は言う。

「出場機会はただのプレゼントのようにはあげません。練習でいいプレーを見せている選手をスタメンに選びます」

 今季は愛川陽菜、井手ひなた、桑原藍ら若手選手が、レギュラー陣に食い込もうと競争を繰り広げてきた。今季加入した辻澤も、そこに食い込みつつある。

 指揮官が若い選手たちに求めることは、「自分の持っているものを出すこと」。与えられたタスクをこなし、一方で恐れずにチャレンジし続ける強さがなければ、生き残ることはできない。その競争の中から、新たなスター候補が生まれてきそうな予感が漂う。

 残りは6試合。新潟や浦和との直接対決が重要なことは言うまでもないが、中位以下の順位争いも激しく、どの試合も気を抜くことはできない。次節は、4月28日にホームのノエビアスタジアム神戸で10位の仙台を迎える。成宮は、静かな口調の中に覚悟を込めてこう言った。

「優勝を目指す上で、もう負けられません。ホームで勝って、首位の浦和についていきたいと思います」

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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