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『ゼルダの伝説』のフックショット。リンクの身になって考えると、かなり怖いアイテムでは……!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

35年以上の歴史を持つ『ゼルダの伝説』。

来年5月には、新作『ティアーズ オブ ザ キングダム』が発売されるという。

『ゼルダの伝説』シリーズでは、主人公リンクがさまざまなフィールドやダンジョンを冒険していくが、彼が活用するアイテムや能力には、空想科学的にも気になるものが多い。

なかでも興味深いのが「フックショット」と「トルネードロッド」。

どちらも、いろいろな使い方ができるので、それらが実際にあったらどれほど便利だろう!?と考えてしまう。

◆フックショットはコワイ!

移動に欠かせないアイテムの一つが「フックショット」だ。

モリのついた鎖を発射し、鎖を巻き取ることで、自分が移動する。

たとえば、川の向こう岸に行きたいとき、対岸にフックショットを打ち込めば、自分がビューンと跳んでいける。

また、遠くのものに向けて発射して、それを引き寄せることもできる。

これ、とっても物理的なアイテムだ。

自分よりも軽いものに対しては、鎖が巻き戻る力を利用して、引き寄せる。

自分より重いもの、とくに固定されている杭や的に対しては、同じ力によって自分が引き寄せられ、結果的に移動できることになるわけだ。

とくに使い勝手が気になるのは後者である。

たとえば、川の対岸に移動したいとき――。

川の幅が10mあると仮定し、対岸に大木を見つけたとしよう。フックショットが狙いどおり木に当たれば、ゲームでは瞬時に対岸まで跳んでいける。

移動時間を正確に計るのは難しいが、0.3秒くらいだろうか。

あっという間に移動できて便利だが、実践するフックにはモーレツな勇気と体力が求められるはずだ。

10mを0.3秒で移動するということは、対岸の木に時速120kmで向かっていくこと!

これは速い。リンクから見ると、高速道路を走る車よりも速い速度で大木が迫ってくるのだ。めちゃくちゃコワイと思う。

リンクはそんな状況に冷静に対応しているのだ。立派である。

◆トルネードロッドで飛べるのか?

もう一つ興味深いのは「トルネードロッド」で、これもいろいろな使い方ができる。

普段は剣の形をしたロッドを上に向けると、プロペラとなって回転し、空に舞い上がれる。

同時に猛風を巻き起こし、敵を吹き飛ばせる。炎も消せる。

敵に囲まれても、それらを吹き飛ばしながら、自分は飛翔して移動……という便利な使い方ができるのだ。

使い心地はどうだろう? というか、このアイテムで実際に飛べるのか?

リンクの身長を160cmとすると、トルネードロッドのプロペラは直径2mほどだろう。

実際に開発されている一人乗りのヘリコプターを参考にすれば、たとえば「GEN-H4」は重量75kg。

空中に留まる「ホバリング」もできるし、水平に飛んでいくこともできる。

そのローターの直径は4m。

このデータをもとに計算すると、リンクの体重を50kgと仮定したとき、必要なプロペラの直径は1.2mという数値が出た。 

つまり、エンジンが片手で持てるロッドに収まるくらい軽くて小さければ、直径2mのプロペラで充分に飛べる! これは嬉しい!

ムズカシイのは、プロペラが起こす風で周囲の敵を吹き飛ばすほうだろう。

台風のとき、風速40mの風が吹くと立っていられないという。

トルネードロッドが敵にそれくらいの風を浴びせれば、充分に効果がありそうだ。

ただし、風は離れるほど弱くなる。

逆にいえば、送風元に近づくほど強くなる。

たとえば、3m離れたところにいる敵が風速40mもの強風を受けるとき、プロペラの真下にいるリンクが受ける風は、風速590m。

建設中のリニア新幹線は時速500kmで走る予定だが、それでも秒速に直すと140mだから、それよりも激しい風圧を受けてしまう。

敵を吹き飛ばすトルネードロッド。

爽快な武器だが、使っているリンクがいちばん大変である。

当然ながら、すごいアイテムは使いこなすのも難しい。

それを平然とやっているからこそ、リンクは勇者なのだ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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