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国境を越えたWBCスーパーフライ級17位

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:筆者

 4回戦、6回戦、8回戦で1敗ずつしたものの、その度に黒星を肥として這い上がってきた26歳のメキシカン、ビクトル・エフレイン・サンドバル。10回戦になってからは負け無し。目下、37勝(23KO)3敗で、WBCスーパーフライ級17位にランクされる。

撮影:筆者
撮影:筆者

 2019年11月22日にWBCユース・シルバー・バンタム級タイトル、翌2020年9月21日にWBCインターナショナル・シルバー・スーパーフライ級タイトルを獲得したが、共に防衛戦は組まれなかった。

 「コロナの影響です。なかなか試合が決まらない。つまり稼げない。チャンスを求めて、国境を越えてアメリカ合衆国のサンデイエゴに移ってきました」

 

 今、そのサンディエゴで、WBCバンタム級、WBAスーパーバンタム級と2階級を制したラウル・ペレスらの指導を受けている。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/170cd5d12f361f086bdd86de42145091f193388c

撮影:筆者 2階級を制したラウル・ペレスと
撮影:筆者 2階級を制したラウル・ペレスと

 1997年7月24日生まれのサンドバルは、ティファナで生を享けた。父親は知らない。現在61歳の母親が、彼を含めた10人の子供を育てた。

 「僕は下から2番目、6人の兄と2人の姉、そして妹が1人います。母はアメリカとの国境付近で、ガムやキャンディを売って生活費を作っていました。そういう姿を見て育ったから、おカネを稼いでリラックスさせてあげたい。

 ティファナはボクシングが盛んですし、チャンピオンになってリッチになろうと考えました。7歳でカラテ、10歳でテコンドー、12歳からボクシングを始めましたが、ボクシングが最も稼げるから選択したんですよ」

撮影:筆者 ペレスとのミット打ち
撮影:筆者 ペレスとのミット打ち

 アマチュアでは44勝2敗。メキシコ王者にもなった。17歳でプロに転向し、40戦のすべてを母国で経験した。

 「メキシコに拘らず、どこの国でも試合をします。出来れば、年内に世界タイトルに挑戦したい。まだ、米国でのプロモーターもマネージャーも決まっていないんですよ」

撮影:筆者
撮影:筆者

 ボクシングを始めた頃から、サンドバルの憧れはフェザー級から4階級を制したファン・マヌエル・マルケスだという。あのマニー・パッキャオと4度も拳を交え、最後の対戦では戦慄のノックアウトを収めた王者だ。

 「懐が深く、前後の動きが速くてカウンターの名手でしたよね。僕もああいう選手になりたいです」

撮影:筆者
撮影:筆者

 ただ…と彼は言葉を繋いだ。

 「マルケスは増量が上手く運びましたが、必ずしも階級を上げることがプラスに働かない選手もいますよね。エリック・モラレスがそうでした。だから、僕は同じ階級で長くやりたいです」

撮影:筆者
撮影:筆者

 サンドバルは鋭い目をしていた。

 「まだ、サンディエゴに来て1カ月。元世界チャンピオンのラウル・ペレス他、いい指導者と出会え、ボクシングに打ち込む環境を手に入れました。食うために建設労働者もやっていますが、充実した毎日です。

 大家族を養ってくれた母を幸せにしたいですし、きょうだいたちの面倒もみたい。だから必ずボクシングで成功しなければ、と思っています」

 次戦で、上位ランカーとのファイトが決まることを祈る。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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