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薬物依存に苦しんだ元メジャーリーガーのダリル・ストロベリーは今、どうしているのか。

谷口輝世子スポーツライター
背番号「18」。メッツのセレモニーに参加したダリル・ストロベリー氏(左)(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

元プロ野球選手の清原和博容疑者が覚せい剤取締法違反で逮捕された。

米国でも薬物依存やアルコール依存に陥るスポーツ選手たちがいる。

メッツ、ドジャース、ヤンキースなどでプレーしたダリル・ストロベリー氏もその一人だった。

長身から繰り出す華麗なスイング。ドラフト1位指名を受けて高卒からメッツ入り。1983年には新人王を獲得。オールスターに8回出場し、ワールドシリーズ優勝も果たし、本塁打王を獲得したこともある。

しかし、メッツに在籍していた80年代からストロベリー氏はコカインなどの薬物に溺れていき、グラウンド内外でのトラブルが絶えなかった。メジャーリーグ機構からは出場停止処分を数回受けている。

ストロベリー氏は結腸ガンを患ったこともあって1999年のヤンキースを最後に現役を引退。その後も薬物依存から抜け出せないでいた。リハビリ施設に入所したが「自分自身に全く(依存症を克服する)準備ができていなかった」と振り返る。

昨年5月、アラバマ州でのイベントに参加したストロベリー氏は、才能あふれる若い選手がどのように魔の手に捕えられたかを話している。http://www.al.com/sports/index.ssf/2015/05/darryl_strawberry.html

「薬物中毒はとても強力なもの。スポーツ界の周りには薬物の問題が存在する。選手たちはもともと目立つ存在で薬物に陥いることはより注目を集める。選手たちは若く、あまりにも素晴らしい才能を持っているから」

若くしてプール付きの豪邸も高級車も手に入れたが、平穏な気持ちになることはなかったという。

「最初の妻、二番目の妻の人生を引き裂いてしまった。薬物依存に陥っている者は誰もがわがままで、自己中心的になる。誰かの人生を台無しにしようとしているのか全く気にしなくなる」とストロベリー氏は言う。

2003年にリハビリ施設で同じように依存症を克服しようとしていた女性と知り合ったころから、ようやく光がさしてきた。彼女の励ましを受けて、彼女の両親の家の地下室を借りてストロベリーは生活をしはじめた。2006年にはその女性と結婚。キリスト教の助けも大きかったようだ。牧師にもなっている。

その後、ストロベリー氏は自らの意志でメジャーリーガーとしての輝かしい日々と訣別した。自宅には、選手時代のトロフィーや写真などは全く飾っていない。「もともと愛着のないものだった。処分したんだよ。野球選手としてのダリル・ストロベリーはもう終わった。存在しないんだ」とUSATODAY紙の取材に答えている。

10年以上、薬物と縁の切れているストロベリー氏は、今、薬物依存に苦しむ人々を助けることに懸命になっている。特にスポーツ選手を支えたいと考えているようだ。

2014年には、フロリダ州にダリル・ストロベリー・リカバリー・センター開いた。28日間に渡って、薬物やアルコール依存を治療するプログラムだ。最近では、頭部に繰り返し衝撃を受けたアメリカンフットボールNFLの選手が後遺症の苦しんでいることも明らかになっており、こういった選手の支援にも関わりたいという。

ストロベリー氏はセンター開設時にAP通信の取材に対し、人を助けるという自分自身の旅は始まったばかりだ、と答えている。

若く、才能あふれ、大金を手にしたメジャーリーガーで、薬物に溺れたストロベリーはもういない。野球選手であった過去も断ち切った。しかし、彼はダリル・ストロベリーであるからこそ、試合で勝つことよりも、野球というスポーツで結果を残すことよりも、もっと重要なことがあると人々に伝えていこうとしているのだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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