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残酷な日本のW杯1次リーグ敗退、そのワケは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
スコットランド36-33サモアの激闘(ニューカッスル)(写真:ロイター/アフロ)

残酷な結果である。あと3点。サモアが3点差で敗れ、スコットランドの決勝トーナメント進出が決まった。ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会。これで日本代表は11日午後8時(日本時間12日午前4時)からの1次リーグB組の最終戦、米国戦に勝っても、準々決勝進出の夢がついえた。

10日。スコットランド×サモア戦が午後2時半にニューカッスルで始まったあと、グロスターで試合前日の最終練習を終えた日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の記者会見が午後2時45分に始まった。会見場にある試合中継中のテレビは消された。珍しい状況である。心境を問えば、同HCは語気を強めた。

「ゲーム(スコットランド戦)は自分たちに全く影響はありません。アメリカに勝つことだけです。最後にいいラグビーを見せることだけです。もしサモアが負ければ、がっかりする選手もいるでしょう。でも、すぐに次のアメリカ戦でいいパフォーマンスを発揮することに切り変えなければなりません」

当然、ジョーンズHCらスタッフ、選手たちはいくつかのパターンを想定し、チームのモチベーション維持を図ってきた。自力での決勝トーナメント進出がなくなった時点で、目前の試合に集中することに切り替えた。同HCは「我々のコントロール外にあることに対しては一切、気にしません」と言い切り、ジョークを付け加えた。

「唯一コントロールできるのは、(サモアのエースSOでサントリー所属の)トゥシ・ピシだけです。きょうのトゥシ・ピシはいいパフォーマンスを見せるでしょう」

選手の意思統一もできているのだろう。練習では最後の準備に集中した。ナンバー8のホラニ龍コリニアシ(パナソニック)も「いま、試合(スコットランド戦)をやっていますけど、僕らには関係ない」と言った。

「自分たちがアメリカ戦でやることは決まっている。アメリカに勝つことだけしか考えていません」

妙な空気の記者会見はわずか10分間で終わった。その後、ジョーンズHCらは帰り、メディアはプレスセンターのテレビで一喜一憂しながらスコットランド戦をにらみつけた。日本人メディアはサモア応援一色だった。

サモアはがんばった。ラスト3分のトライ(ゴール)で3点差に追い上げた。だが、そのままノーサイド。サモアが33-36でスコットランドに敗れたのである。

午後4時25分(日本時間10日深夜の零時25分)だった。ジョーンズHCや選手たちはどんな思いでこのノーサイドの瞬間を見届けたのだろう。人間だもの、おそらく平静ではいられなかったはずである。

スコットランド戦を受けての宿舎での取材はNGとなっていた。その代わり、ジョーンズHCのコメントが日本ラグビー協会からリリースされた。行間の感情はわからない。

<まず初めに、スコットランド代表、おめでとうございます。ただ、この結果で我々のやるべきことは特に変わらない。明日(11日)のアメリカ代表戦に勝利して、ラグビーワールドカップで初めて3勝しながらも準々決勝に進出できなかったチームになるでしょう。素晴らしい大会を過ごしているので、選手たちは最後まで集中して任務を果たしてくれるだろう>

たしかに日本代表は歴史的な勝利を重ねてきた。W杯で過去2度優勝の南アフリカを倒してラグビー界を驚かせ、過去、テストマッチで大きく負け越していたサモアにも快勝した。だが、伝統国のスコットランドにはかなわなかった。2勝1敗。最後の米国戦に勝っても、勝ち点は最大13点にしかならない。

B組1位となった南アが勝ち点16点、2位のスコットランドは同14点となった。米国に勝てば、日本は勝敗では南アとスコットランドで並ぶ。でも、トライ優遇のボーナス得点制(4トライ以上で勝ち点1)や接戦(7点差以内の負けで勝ち点1)のあるフォーマットの結果、日本は勝ち点で南ア、スコットランドに届かなかったのである。

トライ数をみると、南アは4試合で合計23トライ、スコットランドが合計14トライを記録している。日本は目下、3試合でわずか6トライである。試合数が違うので、1試合平均に換算すると、南アは5・75個、スコットランドが3・5個、日本は2個となる。

もちろん単純比較はできないけれど、攻撃力、いやトライ数の多寡で決勝トーナメント進出を逃したことになる。ワールドラグビー(WR)は組織内部でトライの得点比率の増加を検討しているという。日本としては今後、トライをとる戦術、戦略を求められることになろう。

とはいえ、日本にとって、最後の米国戦は大事な意味を持つ。W杯2勝で終えるか、W杯3勝で有終の美を飾るか。その価値は大きく変わってくる。

ジョーンズHCは会見でこうも、言った。

「世界で強いチームになるためには、メンタルの強いチームじゃないといけない。4試合目(1次リーグ最終戦)というのは、さまざまなチームがさまざまなモチベーションで戦う。ジャパンに関していえば、最後の試合はプライドをかけた戦いとなる」

いわば4年間のハードワークの総決算である。日本代表にとって、誇り高き米国との戦いは、準備とプライド、メンタルの強さが問われる一戦となる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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