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W杯に向けた強化試合スタート!アジア勢と戦うテーマは?チャイニーズタイペイと韓国のモチベーションは?

小永吉陽子Basketball Writer
7月はアジア勢と強化試合。写真は2018年日韓戦より(写真/小永吉陽子)

競争と経験を積むアジア勢との試合

 8月25日に開幕するFIBAワールドカップに向けて、日本代表が実戦モードに入る。

 7月8日~9日に浜松で連戦するチャイニーズタイペイ戦を皮切りに、7月22日~23日にはアウェーで韓国戦、8月上旬にはニュージーランド戦をこなし、大会直前の8月中旬にはアンゴラ、フランス、スロベニアという強豪と試合を行う。対戦相手の実力を見ると、試合を重ねるごとにFIBAランキング上位や、ワールドカップに出場するチームと対戦することになる。ここでは、7月に戦うアジア勢の紹介と試合の目的について紹介したい。

 選手選考をしながらチームの連携を図っていくには、この時期にアジア勢と試合を行うことは必要な準備過程であり、ワールドカップに出場するならば勝たなければならない相手。とくに、ディフェンス面で差があるチャイニーズタイペイには点差をつけたいところだ。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)はアジア2連戦のテーマをこのように語る。

「試合をやりながらチームと選手をステップアップさせ、選手たちをコンペティション (競争)させたい。まずチャイニーズタイペイに関しては、何回も試合している相手なので、若い選手を経験させてみたい。そして勝つことが大事。日本のファンの前でいいバスケをアピールしたい。韓国はワールドカップに出場しないので、(日本に対して)勝ちたい気持ちが強いと思う。そういうハングリーなチームとアウェーで対戦することはタフネスさが必要になる。アウェーの雰囲気で戦う中で、選手たちのメンタルタフネスさを見たい」

チャイニーズタイペイと韓国が目指すのはアジア競技大会

 日本はワールドカップを目指して強化中だが、チャイニーズタイペイと韓国のモチベーションはどこにあるのか。今年、両国が目標に置いているのは9月23日~10月8日に中国・杭州で開催されるアジア競技大会(通称アジア大会/ASIAN GAMES)だ。アジア大会は4年に一度開催されるアジアの総合競技大会で、新型コロナウイルスの影響によって1年遅れで今年の開催となった。両国ともに「アジアのオリンピック」と言われるアジア競技大会を重要視し、日本戦ではそのセレクションを兼ねている。

 またワールドカップに出場しない両国にとっては、今回から導入される「FIBA Olympic Pre-Qualifying Tournaments 2023」(OPQT)への出場を直前に控えている。

 ワールドカップの順位において、大陸最上位の成績を収めたチーム(アメリカとヨーロッパ大陸は上位2チームまで)と開催国のフランスにはオリンピックの出場権が与えられるが、残り4枠は「FIBA Olympic Qualifying Tournaments 」(OQT=オリンピック世界最終予選)によって争われる。今回導入されたOPQTは「プレ」の名がつく通り、OQTへの出場枠を争うトーナメントで、ワールドカップに出場しない40ヶ国が大陸ごとの予選を行う。アジアからは8チームが参戦し、優勝した1チームが来年夏のOQTへの権利を手にする。アジア予選は8月12日~20日にシリアで開催される。

 韓国は新型コロナウィルスの影響で、ワールドカップ予選のWindow1と2を棄権。開幕から続けて4試合をこなせなかったことで、FIBAから失格処分を受けた。無念にもワールドカップへの道が閉ざされてしまったために、今回導入されたOPQTはパリの切符をかけた願ってもみないチャンスである。

 ただし、チャイニーズタイペイの場合は事情が異なる。9月のアジア大会と2019年以来の復活となる8月開催予定のジョーンズカップ(国際親善試合)にはA代表が出場するが、OPQTにはB代表が出場することが発表されている。

チャイニーズタイペイのエース劉錚は日本戦に出場(写真/FIBA) 
チャイニーズタイペイのエース劉錚は日本戦に出場(写真/FIBA) 

【チャイニーズタイペイ】初指揮官のもとスタート

 チャイニーズタイペイは長く続いたチャーリー・パーカー政権から一新し、国立体育大学で指揮を執る桑茂森(サン・マオセン)ヘッドコーチのもとで新たなスタートを切った。

 ここ数年のチャイニーズタイペイは、国内にリーグが3つ(Pリーグ+、T1リーグ、セミプロのSBL)あるうえに、中国プロリーグのCBAでプレーする選手もいるため、シーズン中に行われるアジアカップとワールドカップ予選には、ベストメンバーを集めることができなかった。そのため、アジアカップとワールドカップ予選には若手や大学生、セミプロの選手で構成された、いわば「B代表」と呼ばれるメンバーが出場している。昨夏(2022年)のアジアカップは「A代表」が出場しており、今回来日するのは、昨夏のアジアカップに出場したメンバーが数人含まれ、アジア大会とジョーンズカップの強化を目指したA代表となる。

 ただし、初ヘッドコーチのもとでスタートを切っているだけに未知数な部分が多い上に、CBAでプレーしている主力ガード陣や負傷者は来日しない。そのせいか、来日する12人の中には、通常のポジションとしてポイントガードを務める選手が一人もいない布陣となっている。

 その中でしいて言えば、#1阿巴西(台湾名:アバシ)か、#12周桂羽がポイントガードを担う可能性がある。阿巴西は身体能力が高く、T1リーグのシーズンMVPを獲得した期待の若手。周桂羽は2022年2月、沖縄アリーナで開催されたワールドカップ予選Window2で21得点を決めて活躍した選手だ。この時もボールハンドラーとなるシーンがあった。

 その他の注目選手は、近年チャイニーズタイペイのエースを務めている#5劉錚。アウトサイドの得点力を持つウイングの選手だ。また、この1年で台頭したシューター#10謝亜軒、インサイドの#21曾祥鈞は国際試合の経験は少ないが、国内プロリーグで急成長している。

#1阿巴西(アバシ)について

ガディアガ・モハメド アル バシール
Mohammad Al Bachir GADIAGA
台湾名:阿巴西(アバシ)は、2020年に22歳でセネガル国籍から台湾国籍へ帰化。2021年にはチャイニーズタイペイ代表の帰化枠としてFIBAアジアカップ予選に出場。しかし、現在は台湾国籍を持つローカル選手として認められ、帰化枠ではなくなった異例の経歴を持つ選手。

セネガル国籍を持つ父の仕事の都合により、阿巴西が台湾に来たのは8歳のとき。以後は台湾に移住し、中国語も堪能。そのため、台湾で育った阿巴西の将来を考慮したチャイニーズタイペイ協会が、阿巴西のステータスを帰化からローカル選手に変更するために奔走。小学校から大学まで台湾の学校に通ったことや、セネガルでの代表歴がないことを証明する書類等を揃えてFIBAに申請した結果、2023年3月に帰化扱いではなく、ローカル選手としての出場が承認された。

今後、チャイニーズタイペイの中心選手として期待されるアバシ(写真/FIBA)
今後、チャイニーズタイペイの中心選手として期待されるアバシ(写真/FIBA)

チャイニーズタイペイ来日メンバー(FIBAランキング69位)

1 阿巴西

アバシ/189/SF/25歳/ T1

5 劉錚

リィウ・ジォン/192/SF/32歳/CBA

10 謝亜軒

シェ・ヤーシュエン/187/SG/24歳/T1

12 周桂羽

ジョウ・グゥイユー/192/SG/24歳/P 

15 陳冠全

チェン・グァンチュェン/195/C/29歳/P

20 周伯勲

ジョウ・ブォシュン/197/PF/32歳/T1

21 曾祥鈞

ツォン・シィァンジュン/205/C/24歳/P

26 李徳威

リー・デェァウェイ/202/C/32歳/P

31 阿提諾

ウィリアム・アルティーノ/211/C/31歳/P

39 盧峻翔

ルー・ジュンシィァン/190/SF/25歳/P

75 李啓瑋

リー・チーウェイ/192/SG/30歳/T1

95 王皓吉

ワン・ハオジー/195/PF/33歳/SBL

主な欠場選手

陳盈駿(エースで司令塔、キャプテン)CBA
林庭謙(アウトサイドの得点源)CBA
林韋翰(負傷中、T1ファイナルMVP)T1
胡瓏貿(負傷中、パワフルなインサイド)T1
呉永盛(日本戦出場をキャンセルしたPG)P

※身長のセンチは省略。最後のアルファベットは所属リーグを示す。CBA=中国プロリーグ/P=P.LEAGUE+/T1=T1 LEAGUE/SBL=Super Basketball League

20-21シーズンのMVP、ソン・ギョチャン。走力ある2mのフォワードで現在兵役中(写真/FIBA)
20-21シーズンのMVP、ソン・ギョチャン。走力ある2mのフォワードで現在兵役中(写真/FIBA)

【韓国】帰化選手とベテラン不在で挑む

 これまで日本より上のランキングにいた韓国だが、気がつけば日本との順位は逆転(日本36位、韓国38位)。韓国のランキング低下は今回のワールドカップ予選で1試合もしていないことが響いている。強化試合での日韓戦は2018年以来5年ぶり。2018年は日本で開催して1勝1敗だった。対戦は2019年のジョーンズカップ以来で、この時は81-83で日本が惜しくも敗れている。

 今回の韓国代表はホーム開催でありながらも、負傷やコンディション調整などの理由から欠場する主力選手が多い。9月末のアジア大会には、ベテランのオ・セグンやキム・ソニョン、帰化選手のラ・ゴナらが加勢することが予想されるが、現状は帰化選手が不在で12名のみで活動しているので、7月の日韓戦も、8月のOPQTも、メンバー表にある12名が出場する可能性が高い。ただ、日韓戦に欠場する選手が多いとはいえ、KBL所属の選手たち(兵役中の2名含む)は、リーグで成績を残しているトップ選手たちであることに変わりはない。

 日韓戦の出場が予想される候補12名の特徴としては、ウイングの層がとても厚い。実際、指揮を執るチュ・イルスンHCは、高陽オリオンで指揮をしていた2014-15シーズンに195センチ前後のサイズのある選手を多く揃えて「フォワードバスケ」と呼ばれるスタイルでリーグを制覇したことがある。

 ウィークポイントは欠場者の多いポイントガードとシューター陣の層の薄さだ。昨年のアジアカップでは196センチのイ・ウソクがポイントガードの代役を務めた場面もあったので、日本戦で試すことも考えられる。現段階では宇都宮から仙台に移籍したヤン・ジェミンも12名に残っている。

イ・ヒョンジュン(写真の選手)、ヨ・ジュンソクら、期待の若手海外組は日韓戦は出場せず(写真/FIBA) 
イ・ヒョンジュン(写真の選手)、ヨ・ジュンソクら、期待の若手海外組は日韓戦は出場せず(写真/FIBA) 

日韓戦に出場する韓国代表 (FIBAランキング38位)

ホ・フン

(181/PG/27歳/国軍体育部隊・尚武=兵役中)

パク・ジフン

(184/PG/28歳/安養KGC)

イ・ウソク

(196/G/24歳/蔚山現代モービス)

チョン・ソンヒョン

(189/SG/31歳/高陽デイウォン)

ムン・ソンゴン

(196/SF/30歳/水原KT)

ソン・ギョチャン

(200/SF/27歳/国軍体育部隊・尚武=兵役中)

ヤン・ジェミン

(200/SF/24歳/仙台89ERS)

ムン・ジョンヒョン

(194/SF/21歳/高麗大4年)

イ・デホン

(197/PF/31歳/大邱韓国ガス公社)

イ・スンヒョン

(197/PF/31歳/全州KCC)

ハ・ユンギ

(204/C/24歳/水原KT)

キム・ジョンギュ

(207/C/32歳/原州DB)

日韓戦に欠場する主な選手

オ・セグン(昨季ファイナルMVP/PF)
キム・ソニョン(昨季シーズンMVP/PG)
カン・サンジェ(シュート力ある2m/PF)
チェ・ジュニョン(2mのオールラウンダー/SF)
ピョン・ジュニョン(昨季優勝、兵役中/PG)
ヤン・ホンソク(リバウンドに強いウイング/SF)
イ・ジョンヒョン(ユニバ終了後に合流/G)
イ・ヒョンジュン(NBAサマーリーグ出場/SF)
ヨ・ジュンソク(昨年ゴンザガ大に編入/PF)
ラ・ゴナ(帰化枠、リカルド・ラトリフ/PF)

※上記の欠場選手はアジア競技大会に出場する可能性がある。
※【2023年9月追記】アジア競技大会には負傷などの理由により、オ・セグン、ムン・ソンゴン、チェ・ジュニョン、カン・サンジェ、ソン・ギョチャンら主力の出場が見送られた。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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