トランプ大統領の虚偽情報に最後の最後まで踊らされ続ける支持者
トランプ大統領が大統領選での敗北をいつまでも認めずに、虚偽の主張を続けている。そして、多くのトランプ支持者がそれを信じている。彼らトランプ信者は、トランプというお釈迦様の手のひらの上にいる孫悟空のようなもので、うまく踊らされている。
トランプ陣営は、ミシガンやジョージア、ネバダ、アリゾナ、ウィスコンシンといったほぼ全ての激戦州で次々と訴えを却下されている。選挙の不正を訴える法廷戦術が尽き、行き詰まりを見せている。
直近でもトランプ氏にとっては、とても痛い裁判の負けがあった。選挙人20人を有する大票田、ペンシルベニア州の連邦地裁のブラン判事が11月21日、バイデン氏が勝利した同州の選挙結果をめぐり、「不正」を主張するトランプ陣営の訴えを「証拠によって裏付けられていない」として棄却した。ブラン判事は略式意見で、トランプ陣営の訴えは「法的根拠がなく推測による主張」と指摘。「『フランケンシュタインの怪物』のように、場当たり的に縫い合わされたものだ」と手厳しく批判した。
しかし、トランプ大統領は21日も、「選挙システム会社ドミニオン社製の票集計機がバイデン氏に有利になるよう票を改変した」と主張する右派メディアの新興放送局ワン・アメリカ・ニューズ(OAN)の動画をツイートした。
これに対し、ドミニオン社は既に声明を出し、一貫して大統領の主張は「完全な偽りだ」と反論している。米国土安全保障省サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)など国政選挙を司る複数のアメリカ政府機関も12日に共同声明で、「投票システムによる票の削除や消失、改ざん、何らかのシステム侵入が生じたという証拠はない」との見解を表明している。
●トランプ大統領が説く「真実の誇張」
実は、トランプ氏は大統領就任以前からずっと、偽情報の流布や物議を醸す流言をすることを肯定してきた。このため、トランプ氏の過去の発言や著書をチェックするなどして、ドナルド・トランプという人物のプロファイリングをしてきた人々にしてみれば、「今回もまたトランプがデマを流している」との冷ややかな見方が多いだろう。筆者もそのうちの1人だ。
例えば、トランプ氏は1987年に出版し、ベストセラーとなった自著「トランプ自伝-不動産王にビジネスを学ぶ」の中で、次のように述べている。トランプ大統領の炎上戦法の極意がうかがえる。
「マスコミについて私が学んだのは、彼らはいつも記事に飢えており、センセーショナルな話ほど受けるということだ」
「要するに人と違ったり、少々出しゃばったり、大胆なことや物議をかもすようなことをすれば、マスコミがとりあげてくれるということだ」
「私はマスコミの寵児というわけではない。いいことも書かれるし、悪いことも書かれる。だがビジネスという見地からすると、マスコミに書かれるということにはマイナス面よりプラス面のほうがずっと多い」
「宣伝の最後の仕上げははったりである。人びとの夢をかきたてるのだ。人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。だからある程度の誇張は望ましい。これ以上大きく、豪華で、素晴らしいものはない、と人びとは思いたいのだ。私はこれを真実の誇張と呼ぶ。これは罪のないホラであり、きわめて効果的な宣伝方法である」
要は、トランプ大統領は不動産王と呼ばれた時代からずっと意図的に物議を醸すような言動を繰り返してきたのだ。トランプ得意の炎上商法だ。そして、政治の世界に踏み入れてからは、過激な発言を繰り返すことで、白人労働者といったコアなサポーターの支持を獲得してきた。
●「トランプ大統領はトリックスター」
宗教研究者の中村圭志氏は21日付の朝日新聞で、トランピズム(トランプ主義)について次のような興味深い考察をしていた。
「トランプ現象は宗教に似ています。人々に救済を約束するのが宗教だとすれば、トランプ氏は、支持者たちにとっては救世主に近い期待を集める存在なのだと思います」
「トランプ氏には世界各地の神話に見られるトリックスター的な性格もあります。うそをついたり、人をだましたりするけれども、結果的に人々に恩恵をもたらす。虚偽のツイートを連発しても支持者が離れないのは、トリックスターとして期待しているからかもしれません」
トリックスターとは、いたずらや詐術、ペテンで既成秩序を攪乱(かくらん)するヒーローのことだ。
●トランプ支持者の77%「バイデン勝利は不正選挙のため」
18日に公表されたモンマス大学の世論調査では、アメリカ国民の60%がバイデン氏が公明正大に大統領選で勝利したと回答した一方、32%が「バイデン勝利は不正選挙があったから」と答えた。トランプ氏支持者に限れば、それは77%に及んだ。
こうした状況について、民主・共和両党の4人の大統領の下でホワイトハウスの顧問や補佐官を務めたデービッド・ガーゲン氏は、CNNへの寄稿の中で、「いわゆる『おしゃべり階級』に属する我々は、トランプ氏の日頃の悪ふざけを報じるのを止めるべきだ。同氏が執務室を去るのなら、そのままスポットライトから外れてもらえばよい」と述べている。ガーゲン氏は現在、CNNの政治担当シニアアナリストであり、ハーバード大学公共政策大学院教授を務めている。
そもそもSNSが発展した現代では、虚偽情報でも流言飛語でも何でも、メッセージを一瞬にして世界中に広めることができる。そして、トランプ大統領のような攻撃的で、能動的な人がSNSをフルに活用し、かっこよく見えてしまいがちだ。その一方、受動的でキャラに欠ける人は防御的でかっこ悪く見えがちだ。テレビといったマスメディアも、前者のような過激な言動をする人々を数字(=視聴率)を持っているからという理由で面白おかしく重宝しがちだ。大統領の座にまで上り詰めたドナルド・トランプは、マスメディアが作り上げたモンスターなのだ。
●SNSを通じて意見の先鋭化をもたらしたトランプ
トランプ大統領はSNSを通じてアメリカ社会に意見の先鋭化をもたらし、自らの立場や存在意義を確固たるものにしてきた。4年後の大統領選での再立候補が取り沙汰されるなど、今後も政治的な影響力を保持しそうだ。
日本でも、トランプ氏の陰謀論やフェイクニュースに踊らされている和製トランプ派が少なくない。トランプ大統領の任期は終わりに近づいているが、同氏の炎上商法の手の内を改めて知っておくことは、世界各地でポピュリズムがはびこる中、無駄ではないだろう。
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