新学期 学校トイレを清潔に保つには、具体的な点検方法の例示が必要
学校の約7割は老朽化している
小学校のトイレと聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか?
古い、暗い、くさいなど、マイナスイメージを抱く人が多いと思います。それもそのはず、公立小中学校の多くは、第2次ベビーブーム世代の増加に伴って、昭和40年代後半から50年代にかけて建築されているので、かなり老朽化が進んでいます。ちょっと古いデータになりますが、文部科学省の平成23年5月のデータによると、公立小中学校施設の非木造施設のうち築年数が25年以上の施設は全体の約7割を占めています。
学校の中でもトイレは最も汚れやすい場所の1つです。丁寧に掃除をしていたとしても、20~30年前に建築されたトイレは、現代の子どもたちにとって使いやすいとは思えません。また、新型コロナウイルス感染症への対策が求められる現状においては、トイレの衛生確保はとくに重要です。快適性に加え、清掃しやすくて清潔を保ちやすい空間・設備とすることが必要です。
トイレそのものを本格的に改修することが急務なのは言うまでもありませんが、予算的な課題から一度に実施することは容易でありません。では、改修時期が来るまでそのまま待つのかというと、そうではないと思います。現状の小学校のトイレの環境衛生が良好に保たれているかをチェックする必要があります。もし、保たれていないのであれば、子どもや教職員の健康に関わることですので、早急に取り組む必要があります。
そこで本稿では、学校トイレの清潔保持について考えてみたいと思います。
小学校のトイレに衛生基準があることを知っていますか?
学校保健安全法第6条に「文部科学大臣は、学校における換気、採光、照明、保温、清潔保持その他環境衛生に係る事項について、児童生徒等及び職員の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準「学校環境衛生基準」を定めるものとする」という内容があり、これを踏まえ、「学校環境衛生基準」が定められています。
そして、公立小中学校の設置者である地方公共団体の教育委員会は、この基準に照らして学校の適切な環境の維持に努めなければならないですし、学校長は基準に照らし、学校の環境衛生に関し適正を欠く事項があると認めた場合には、遅滞なく、その改善のために必要な措置を講じ、又は当該措置を講ずることができないときは、当該学校の設置者に対し、その旨を申し出ることになっています。
学校環境衛生基準はどのように守られているか?
学校ではこの基準を守るためにどのように取り組むことになっているかを説明します。
学校は、基準を守れているかどうかをチェックするために、学校保健計画を作成して環境衛生検査(定期検査と臨時検査がある)を行っています。
環境衛生検査は、毎学年定期に、学校環境衛生基準に基づき行います。また、環境衛生検査のほか、環境維持や改善を図るために日常的な点検を行うことになっています。
環境衛生検査は学校長の責任の下、内容によっては学校薬剤師が自ら行ったり、学校薬剤師の指導助言の下に教職員が行ったり、学校薬剤師と相談の上で外部の検査機関に依頼するなどの方法があります。
一方で、日常的な点検は、毎授業日の授業開始時、授業中、又は授業終了時等において点検し、その結果を定期検査や臨時検査に活用したり、必要に応じて事後措置を講じたりすることを目的として実施します。それぞれの教室は学級担任が実施するなど、教職員が役割分担して実施します。
学校のトイレの衛生基準とは?
では、学校のトイレに関してはどのような基準があるのかを説明します。
定期検査の項目では、「学校の清潔、ネズミ、衛生害虫等及び教室等の備品の管理」という項目の中にある「学校の清潔」が関係します。ここでいう清潔とは、感覚的にきれいと感じることができる状態であることのほかに、微生物や化学物質による汚染が見られず、ごみ等その場に不用のものがない状態と説明されています。
トイレという場で考えると、見た目や臭気などに問題がないだけでなく、健康を害する汚染がなく、整理整頓されている状態、と言い換えることができます。
次表に検査項目と基準を示します。この中で、とくに(1)大掃除の実施、(3)排水の施設・設備、(4)ネズミ、衛生害虫等が関わると考えます。かみ砕いていえば、トイレの大掃除を定期的に実施すること、トイレ排水が上手く流れているか、トイレに害虫がいないか、だと思います。
これらの状況を調査するため、清掃方法や清掃記録をチェックするとともに、現場の状況を調べることが検査になります。なお、検査項目1については、毎学年3回、検査項目2~4については、毎学年1回定期に検査を行うものとなっています。
日常的な点検方法
前述のとおり、定期検査を補い、改善が必要な場合の事後措置を行うものとして、日常的な点検があります。具体的な内容は次表のとおりです。
ここで初めて「ウ 便所の施設・設備は、清潔であり、破損や故障がないこと。」として、トイレのことが記されています。これだけでなく、衛生害虫等の生息が見られないことも必要になります。
点検は、官能法によるもののほか、定期検査に掲げる検査方法に準じた方法で行うものとすると記述されています。頻度に関しては、毎授業日に点検を行うことになっています。
また、点検をする際の留意点として、「便所は、不潔になりやすい場所であるために、日常点検では、特に清潔に留意して、清掃がよく行われているか、施設・設備の破損や故障の有無について点検する。」「排水はすべて円滑に流れているか、また、悪臭が発生していないかどうか点検する。」と記されています。
何か不具合があった場合の事後措置としては
「施設・設備に汚れがある場合は、整理や清掃の徹底を図り、破損がある場合には速やかに補修すること。清掃が不十分な場合には、清掃方法の改善や清掃の徹底を図ること。」
「衛生害虫等の発生が認められたときには、駆除しなければならない。対象となるネズミや衛生害虫等の習性をよく調べ、それらが生息しにくい環境づくりを進めること。」
となっています。
具体的な点検方法の例示が必要
以上のように「学校環境衛生管理マニュアル」には、小学校のトイレの清潔を保つための考え方と実施のための役割分担が示されています。ただ、トイレに関して現場でそれを実施するための具体的な説明が不足しているのではないかと思います。
「便所の施設・設備は、清潔であり、破損や故障がないこと」ということを具体的に示す点検項目が示されていないということです。
トイレには給水設備、便器、排水口、換気扇など、様々な設備があります。どのような状態が正常なのか、どこを見ればよいのかを図示しながら解説しないと分からないと思います。また、どこが汚れやすいのか、においの原因が何なのかなども理解する必要があります。
新型コロナウイルス感染症による主な感染経路は、接触感染と飛沫感染と言われています。また、感染性は定かではありませんが、排泄物にもウイルスが排出されている報告がありますし、新型コロナウイルスに限らずノロウイルスや腸管出血性大腸菌などのウイルスや病原菌を含む可能性があります。
見た目や感覚的な快適さを支えているのは、科学的な衛生です。汚染がなく設備が適切に機能していることが欠かせません。まずは実践的なトイレチェック項目をつくり、学校薬剤師と連携を密にし、設備業者や清掃業者等のサポートを得ながら、取り組むことが必要だと考えます。