挑戦者が鮮烈な一手で藤井聡太棋聖を撃破!佐々木大地七段の「必殺の一撃」
6月23日(金)に第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が行われ、挑戦者の佐々木大地七段(28)が藤井聡太棋聖(20)に勝利し、通算1勝1敗となりました。
先手番の佐々木七段が得意の相掛かりに進め、藤井棋聖も真っ向から迎え撃ちました。
難解な中盤戦を経て、佐々木七段のミスに乗じた藤井棋聖が優勢で終盤戦に入りましたが、藤井棋聖が勝負を決めに出たところで佐々木七段に「必殺の一撃」があり、佐々木七段が逆転勝利をおさめました。
その「必殺の一撃」について解説していきます。
詰みを狙う竜捨て
第1図は藤井棋聖が4八にいた竜で△7八竜と金を取った場面です。
先手が飛車を持っていると▲3二飛と打てば後手の玉が詰むため、後手としては竜を相手に渡すのは怖いです。
もちろん藤井棋聖には狙いがあり、△7八竜を▲同銀と取ると△7五銀打から長手数の詰みがあるのです。
(△7五銀打▲同竜△同銀▲同玉△6四角▲7六玉△8六金以下の詰み。△7五銀打に▲8七玉には△8六歩▲9八玉△8七金以下の詰み)
藤井棋聖は勝ち筋とみて△7八竜と指したのでしょう。しかし、佐々木七段はこの手に対して、形勢を逆転する「必殺の一撃」を放ったのです。
必殺の一撃
第2図の▲5五角が「必殺の一撃」でした。
王手ではありますが、銀のきいているところなので△5五同銀で角を捨てただけに見えるでしょう。しかし、銀を動かしてから▲7八銀と竜を取るのが狙いです。
6四にいた後手の銀を▲5五角と捨てて動かしたことが生きて、先手玉の詰み筋が消えているのです。
また、▲5五角に対して△4四歩と王手を防ぐ手も考えられますが、その場合も▲7八銀と竜を取ります。
先ほど、▲7八銀と竜を取ると△7五銀打から詰みがあると解説しましたが、▲5五角と打っていると△7五銀打▲同竜△同銀▲同玉の時に角のききがあるので先手玉が詰みません。
この▲5五角が状況を一変させる、「必殺の一撃」でした。
▲5五角に後手がどう対応しても▲7八銀と竜を取ったときに先手玉が詰まない形となります。
そして飛車を手にすれば後手の玉を▲3二飛で詰ますことができます。
飛車を渡した後手は、その詰みを受けることが難しいです。
藤井棋聖はこの手をウッカリしていたのでしょう。▲5五角に対して△同銀と取る時は秒読みに追われたこともあり、焦りが手付きに出ていました。
形勢も「必殺の一撃」で佐々木七段が優勢となり、以下数手で藤井棋聖を投了に追い込みました。
強いからこその失着
▲5五角という「必殺の一撃」があったため、△7八竜が痛恨の一手でした。
△7八竜では△7三桂と桂を打って先手の竜のききを止めるのが良かったでしょう。
次に△7五銀打から詰みがあり、先手には思わしい受けがありません。
△7三桂とすれば藤井棋聖の勝ちで終わったことでしょう。
△7八竜は詰みを読み切る能力に優れた藤井棋聖らしい一着でした。
強いからこそ△7八竜という手を指してしまい、「必殺の一撃」を食らってしまったのです。
そんな鋭い手を指せない人であれば、△7三桂と打ってしまいそうです。
勝負とは時に皮肉で、だから面白いのです。
佐々木七段の執念が逆転を引き寄せたとも言えます。
秒読みが続く中でもあり、藤井棋聖に△7八竜と派手な手を指されたら、諦めのいい人であれば「ああダメだ」と思って竜を取ってそのまま詰まされたでしょう。
佐々木七段の勝利を諦めない気持ちが「必殺の一撃」を手繰り寄せたのです。
五番勝負は1勝1敗となり、もつれる展開となりました。
第3局は7月3日(月)に静岡県沼津市で行われます。
この対局に勝ったほうがタイトルへあと1勝となります。シリーズの流れを大きく決める一戦となるでしょう。