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日本代表がワールドカップで優勝するときの風景。堕ちた強豪「スーペルデポル」が見せた原型

小宮良之スポーツライター・小説家
リアソルのデポルファン(写真:ロイター/アフロ)

 今年5月、スペイン、ラ・リーガ3部で、デポルティボ・ラ・コルーニャがバルサ・アスレティック(FCバルセロナのセカンドチーム)を下し、5シーズンぶりの2部昇格が決まった。シーズン残り2試合、数字上、優勝が決まっている(1位のみが自動昇格で、2~5位がプレーオフへ)。

 特筆すべきは、本拠地リアソルスタジアムに31833人もの大観衆が詰めかけた点だろう。4シーズンに渡って3部で戦い続けたチームの試合だが、熱は冷めていない。ソシオ(チーム会員)は未だに約2万8千人で、むしろ増えた。

 スペイン北西にある、人口25万人に満たない小さな港町の話だ。

 これぞサッカー大国、スペインの真骨頂と言ったところか。

「堕ちた強豪」と言われるデポルの今

 デポルは1990年代から2000年代前半まで、「スーペルデポル」の異名で地方の雄だった。1994-95シーズンにスペイン国王杯で優勝、1999-2000シーズンにはラ・リーガで悲願の初優勝。2001-02シーズンには国王杯決勝で当時、銀河系軍団と言われたレアル・マドリードを下した。欧州カップ戦でも、バイエルン・ミュンヘン、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、ACミラン、ユベントスなどを血祭りにあげている。

 しかし財政難から徐々に弱体化し、2017-18シーズンを最後に1部から降格。2019-20シーズンには昇格どころか、2部から3部へ降格した。そして4シーズンも這いずり回っていた。

「堕ちた強豪」

 そう蔑まれ、見捨てられていてもおかしくない。

 それが3部にもかかわらず、地元の人に愛され、大歓声の中で2部へ帰還する。栄光を築いた1部はまだ遠い。あくまで2部昇格だが、ファンにとっては祝祭だ。

 突き詰めて考えると、これこそスペインがワールドカップに優勝している理由とも言えないか――。

日本がワールドカップで優勝するときの風景

「サッカー世界一、ワールドカップ優勝」

 それを日本サッカーの頂として目標に掲げる声は、関係者の中でも少なくない。

 しかし実際には、たとえワールドカップを制しても「世界の頂点に立った」ことにはならない。あくまで、ワールドカップという大会の優勝。それは世界一と同義ではない。

 デポルのように「堕ちた」と言われた地方の3部クラブが3万人以上の観客を集めてこそ、その国のサッカーが世界一になったと言える。逆説すれば、3部クラブが3万人のサポートを受けられるようなら、それはワールドカップを制したのに等しい。たとえワールドカップを制していなくても、だ。

 スペインは、レアル・マドリード、FCバルセロナ、アトレティコ・マドリードというビッグクラブがリードし、その規模は世界トップクラスと言える。Jリーグトップのクラブと比べて、彼らは年間で10倍以上の収益を誇る。ラ・リーガの歴史は100年以上と長く、その間に積み上げたものを考えれば、まさに雲の上の存在だ。

 しかし日本ではあまり知られないクラブにこそ、強さの源流はある。

下部リーグの充実

 たとえば、今シーズンも2部で火花を散らすスポルティング・ヒホン、オビエドは、1部リーグから脱落して久しいにもかかわらず、ローカルダービーは3万人近い観客を集める。町中が盛り上がる、一つの祭り。人々が心からその戦いを求めるもので、それは理屈では説明ができない。

 地味に映る下部リーグにスペインサッカーの神髄はある。

 スペイン人選手と日本人選手がユース年代まで差がないにもかかわらず、その後で差が開く理由には、「下部リーグに1部リーグのセカンドチームがあって、そこで実戦の段階を踏める」ことも考えられる。たとえばレアル・ソシエダのセカンドチームも3部に在籍。久保建英のチームメイトとして戦っているマルティン・スビメンディなど多くがセカンドチームでのプレーを経て、トップに昇格しているのだ。

「スペイン2部はJ1のクラブと比較したら、主力のレベルはJ1の方が高いかもしれません。でも、スペイン2部ではサブを含めた全員の選手が、ほとんど同じレベルで競争が激しい。その中で成長した選手が、1部の高いレベルへ行くのです」

 スペイン2部、ウエスカに所属している橋本拳人は語っているが、強さの層が違うのだ。

 日本サッカーが世界を制覇する日が来るとしたら――。その時にはリアソルで観られた風景が国内でいくつも生まれているのだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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