ドラフト注目捕手・日本生命の石伊雄太は、阪神・湯浅京己とのプロで13年ぶりのバッテリーを熱望
■NPB6球団8人のスカウトが視察
「あっくんと同じチームがいいです」―。
ニッコリと人なつっこい笑顔を見せるのは、社会人野球・日本生命の石伊雄太捕手。三重県尾鷲市出身の石伊選手は阪神タイガースの湯浅京己投手と幼なじみで、保育園時代からの長いつきあいだ。
NPB各球団のスカウトから注目される石伊選手に「湯浅投手と違うチームで対決するのと、同じチームでバッテリーを組むのとどちらがいいか」と尋ねたときの返事が、冒頭の言葉だった。
近大高専から近大工学部へ進み、日本生命でプレーする石伊選手は今年、ドラフト候補として高い評価を受けている。
7月7日、鳴尾浜球場でのタイガースのファームとのプロアマ交流戦で先発マスクをかぶり、盗塁を刺すこと2度。視察に訪れていた6球団8人のスカウト陣の前で、その強肩を強烈にアピールした。
残念ながらヒットはなかったが、強い当たりは好打者であることも印象づけていた。
ファームとはいえ自身が目指す舞台での一戦だ。「やっぱこういうところに来ると、より一層チャレンジしたいなっていう感じにはなってきますね」とプロ入りへ向けて、石伊選手は気持ちを昂らせていた。
■森下翔太に感嘆
自身のプレーについては「盗塁を刺せてよかった。でも2コ目はセーフですね(笑)。ヒットが出たらよかったんですけど…」と簡単に振り返り、それよりもとばかりに口を開いたのが「森下くん、すごいですね、やっぱ」と、ファームで調整中の森下翔太選手のバッティングについて、だった。
森下選手はこの日、1打席目で特大のレフトフライを放ち、2打席目には左翼にソロホームランを放り込んでいた。その後は三ゴロ併殺打と右飛だったが、石伊選手にとっては鮮烈なインパクトがあったようだ。
「あれだけ飛ばすのもすごいですけど、1球で持っていく。1本目もたぶん風がなかったら入っていたと思うんで。1球で仕留めているのがすごいなと思います。最後の打席は何か試しながらやっていたんだろうなって思いますけど、1、2打席目はしっかり振ってきていたんで、さすがですよね」。
森下選手のスイングや飛距離に感嘆をもらし、刺激を受けていた。
■スローイングのさらなる向上を目指す
自身のアピールポイントを尋ねた。
「やっぱキャッチャーなんで、守備ですね。スローイングもまだまだですがしっかりやりたい。そこからバッティングの結果を出していけたらと思います」。
スローイングでは「けっこう浮いちゃうことが多いんで、低く投げることを意識しています。今、それがちょっと届ききってないんで、まだ調整が足りていないです」と課題を挙げ、「手で投げちゃっているところがあるので、下半身をしっかり使わないと」と、さらなる向上を目指しているところだという。
■“アツアツボール”に驚愕
湯浅投手とは保育園から一緒で、小学校は違う学校ながら「尾鷲少年野球団」で一緒にプレーし、中学校は同じだったが逆にボーイズのチームが違ったという。
オフに帰省すると、湯浅投手のキャッチボールやピッチングの相手を務めることもある。
「ケガ明けで受けたときもビックリしたけど、去年の冬に捕ったときはすごかったですね。ちょうどWBCに行く前で、MLB球で一緒に練習したんですけど、そのときは球種も増えていたし、とにかくすごいボールを投げていましたね」。
憧憬の念からか、目をキラキラさせて語る。
■かわいい弟分
湯浅投手も鳴尾浜での久々の再会を喜び、Tシャツなど“おみやげ”をたくさんプレゼントした。
「真面目でいい子ですよ」と語る石伊選手とは、お互いが小学6年と5年時に県大会でバッテリーを組んだ思い出があるという。
「雄太とは小学校が違うんで、普段はあんまり遊んだりはなかったですね。ただ、自分たちの代のとき、1つ下では雄太だけがレギュラーだったので、野球のときはみんなでよく一緒に行動していましたよ。保育園も一緒で小さいころから知っているので、けっこう気にかけてはいました。自分もそうですけど、雄太も野球が大好きって感じで、いつも楽しそうにしていましたよ」。
“お兄ちゃんの顔”で湯浅投手が明かす。
■阪神タイガース・ファーム首脳陣の評価
対戦したタイガースの首脳陣はどう見たか。
◆和田豊ファーム監督
「イニング間のセカンドスローを見ていても、しっかりした球を投げている。コントロールも含めてね。タイムも1.9秒前後で投げられているし。2つ刺されて、実戦でもイニング間のスローに近いものは出せているんで、いいものは持っているなと。
肩だけじゃなくてバッティングでも、今日は8番だったけど、日生の監督さんも『本来であればもう少し上位を打っているけど、今は守備に専念させている』ということなんで、やっぱり非常に楽しみな選手だなというふうには映りました」。
◆野村克則ファームバッテリーコーチ
「肩はよかったと思うね。リストが強い。バッティングもそんな感じがしたね。キャッチャーとしての雰囲気もまずまずかな。周りを見ている雰囲気とか。
ちょっとおとなしいというか、優しいかな。声やジェスチャーで引っ張っていくような、そういうのがもっと見せられたらいいんじゃないかな。
すごくまとまったキャッチャーかなと思うね。まぁ、ずっと見ているわけじゃないからね。今日見ただけでは、そういう印象。
やっぱりキャッチャーは肩が強いのが一番のウリだと思うから、いいんじゃないかな」。
■訪れていたNPB球団のスカウト陣の評価
この日の鳴尾浜球場には、6球団8人のスカウトが視察に訪れた。
◆阪神タイガース・岡本洋介スカウト
「盗塁も刺しましたし、送球の強さも見られるので、守備の面ではかなり高いレベルにあるんじゃないかなと思っています。難しい体勢からでも安定感があって、ラインを外さずに投げていた。
バッティングは右で長打を打てる力もあるし、コンタクトもできると思っています」。
◆オリックス・バファローズ・谷口悦司スカウト
(福良淳一GM兼チーム編成部長、牧田勝吾編成部副部長も同行)
「いつも見ているので、肩の強さはもうわかっている。そこの精度っていうところなんですけど、2つ刺したのはよかったなと。
バッティングも去年からよくなってきていますし、今日も1打席目、2打席目とよかったので、内容は悪くないと思います。
プロとやるときのプレーを見たかったし、今日は成長度の確認ですね。社会人に入って力強さも出てきましたしね。肩の強さも相変わらずで、順調にきていると思います。
やっぱり社会人の捕手の中では名前の挙がる選手。また8月にオリックスも日生とやりますよ」。
◆千葉ロッテマリーンズ・三家和真スカウト
「守備面でも、体勢が悪い中でも盗塁を刺せていました。もともと肩が強い選手ですから。スローイングが持ち味の選手だと思っているので、あそこでいいアピールができたんじゃないかなと思います。
バッティングでも結果はヒットが打てなかったですけど、当たりも悪くないですし、しっかりととらえた打球で惜しい当たりがけっこう多かったので、打席の中でしっかりスイングできるというのも大きなポイントかなと思います」。
◆東北楽天ゴールデン・足立祐一スカウト
「送球は力感がなくて、でも球が伸びている、みたいな。
バッティングも大学時代より力もついてきて、対応力もついてきているのかな。ヒットは出なかったですけど、いい当たりもあって。最後のもセンター前かなっていう当たり。ちょっと運が悪かったですけど。
順調に力をつけてきているのかなと思います。タイプでいうとヤクルトの中村(悠平)くんとかに近いんじゃないかなと思います。彼もピュッと投げてね」。
■今秋のドラフト会議に向けて
来たる7月19日から開催される社会人野球にとって最高峰の舞台である都市対抗野球大会(東京ドーム)。63回目の出場となる日本生命は、同24日の日本通運戦が初戦である。
正捕手として出場する石伊選手も、“司令塔”としてチームを牽引する。そのプレーはきっと、その先のプロへとつながるだろう。
【石伊雄太(いしい ゆうた)*プロフィール】
2000年8月18日(23歳)
179cm・83kg/右投右打
宮ノ上小学校(尾鷲少年野球団)―尾鷲中学(伊勢ボーイズ)―近大高専―近大工学部―日本生命
三重県出身/背番号22
(撮影はすべて筆者)