Yahoo!ニュース

光あふれる渋谷の街に現われた年齢不問の集いの場〜オノマトペル“TOKYO天の川”を語る

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
“TOKYO天の川”ライヴフロアイヴェントのオープニング風景(筆者撮影)

2023年7月1日、巷より少しだけ早い“七夕”にちなんだイヴェントが開催された。

会場となった東京・渋谷の渋谷ストリームでは、11時30分から“創作と飲食”をテーマにした会場が5階フロアでオープンし、軽食やスイーツ、ドリンク類(アルコールあり)を提供するコーナーや、七夕飾りを作ったり短冊に願い事を書いて結びつけたりできるコーナー、紙の灯籠を作るコーナー、光るフェイスペイントを体験できるコーナー、竹に穴を開けて作る竹灯りや光る籠を飾りつけた御輿を作るコーナーなどなど、参加者が思い思いに七夕体験できるコーナーを設置。子ども連れはもちろん、大人同士のグループも作業に没頭したり、ビールやハイボールを片手に談笑する風景が見られた。

15時になると、6階フロアに用意されたステージのあるホールで“天の川タイム”と称する後半のイヴェントがゆるゆると始まる。

“天の川タイム”とは、客席側に組まれた櫓(やぐら)の周りやステージ前で参加者や子どもたちが竹で作った龍のお御輿を先頭に盆踊りのように輪になったり、ライヴ演奏を楽しんだりする企画のことだった。

ライヴは、6人組のHei Tanakaと、5人編成(+ゲスト)のオノマトペルによる2部構成のステージが繰り広げられ、アンコールでは出演者と灯りを手にした踊り手たちが入り乱れて会場に銀河の渦を巻き起こすような一体感が生まれ、「星が見えない」と言われがちな渋谷の街のなかで織姫が彦星に会うために渡る天の川が“見えた”という気持ちを共有できるようなエンディングを迎えることになった。

※エンディングのようすはリンク先(オノマトペル公式Instagram)をご覧ください。→https://www.instagram.com/reel/CuO4A64MBss/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=MzRlODBiNWFlZA==

ライヴフロアのようす(筆者撮影)
ライヴフロアのようす(筆者撮影)

“渋谷に天の川を作る”ためのイヴェント⁉

横沢ローラ:今回実施した“TOKYO天の川”というイヴェントは、“みんなで渋谷に天の川を自分たちの光で創る”っていうのがコンセプトだったんです。

渋谷で星が見えないのは、周りが明るすぎるからだったりするんだけれど、そこに自分たちの光を創っても多分暗くて見えないかもしれない。

でも、真っ暗にすれば自分たちの光が天の川に見えるんじゃないかっていうことで企画しました。規模的には小さいし、暗いかもしれないけど、ぜんぶ自分たちの光でできる天の川、未知の天の川を楽しもうみたいなコンセプトだったんです。

ただ、ずーっと「なにをやりたいかわからない!」って言われ続けていた……。

ワークショップとかやっても大人は参加しないかもよとか、みんなライヴ開始時間ギリギリに来るだろうから天の川のための光を創れなかったらどうするのとか、輪になって踊ってくれなかったらどうするのとか……。

そういうことを関係者がずっと心配し続けてました。

まず、ステージの竹あかり装飾以外は「子どもたちが主体で装飾物やお御輿、櫓(ヤグラ)を作る」という時点で「どんな発想でなにができあがってくるかわからない」とか「当日のお楽しみ」といった不確定要素も多く、一部分でも「私がやらなくてもいいよね?」って欠けてしまったら、きっとバランスが崩れるんじゃないかというハラハラ感があった。

でも、結果的に、誰も放り出さないでくれたんです。そして、来てくれたみんなが、描いたとおりに楽しんでくれていて感動しましたし、各コンテンツのクオリティが素晴らしかった。

結果的に、本当にみんな、大人もやってくれてたし、大人が飲んだくれてて、子どもたちは地元や地域のお祭りみたいに、なんか駆け回ってるみたいな、妄想した通りの世界が広がっていたんです。

大人たちが子どもそっちのけで取り組んでいたワークショップのようす(写真提供:横沢ローラ)
大人たちが子どもそっちのけで取り組んでいたワークショップのようす(写真提供:横沢ローラ)

──付き添いみたいな感じじゃなくて、一緒に?

横沢ローラ:そう。1つすごい大きな発見だったのは、子どもが楽しかったら大人も楽しいっていうこと。それを実感もしたし、みんなも言ってて、すごい素敵だなと思った。

──ライヴもみんなで入り乱れて楽しそうでしたね。

横沢ローラ:オノマトペルの音楽って変拍子だし、工藤くんのちょっと変態チックなコードワークだし、なにが起こるかわからない構成の曲だし、いわゆる王道ポップスじゃないし、メロディーも難しくて歌えないし、ぜんぜん子ども向けじゃない(笑)。

私も子ども向けに歌詞を書いてるつもりはまったくないけど、意外と地域のお祭りとかの子どもイヴェントに呼ばれることも多いんです。

でも、本当は工藤くんが坂本龍一さんみたいな世界に行きたいのはわかってるんですけど……。

──ポップス系? それともミニマル・ミュージック、現代音楽作曲家としての坂本龍一さん?

工藤拓人:どっちかっていうとミニマルかな。

──子ども向けというのは、宮沢賢治がテーマの曲だったりするから?

横沢ローラ:そう言ってもらえて嬉しいけれど、実際にライヴをしてみて、成功するのかは未知数だったので、悩みではあったんです。

──子ども向けだと思われることが?

横沢ローラ:そう、子どもたちが喜びそうな、身体を一緒に動かしたり手などを叩いたり笑ったりするような演出もないのに、子ども向けのイヴェントに呼ばれて、果たしてオノマトペルの音楽がマッチするのか、みんな飽きちゃわないか……。心配だった。

今のままの子ども向けじゃないオノマトペルの音楽を受け入れてもらえるのか、それでも子どもは楽しんでくれるのか、大人向けと子ども向けという垣根を作らないということが本当に実現できるのかを試したかったっていうのもあったんですよ。

それとは別に、オノマトペルが音楽的にめざしているのはジャズを演奏できるハコが合うんじゃないかと思うんですが、ぜんぜんお声がかからない(笑)。

それが哀しくて、そういう状況も“大人向け”を掲げたイヴェントを実施することで打破できないかと思って、今回、企画したんです。

──ローラさんとしては、自分たちの音楽のリスナーの幅を広げるために子どもに注目したというより、もうちょっと違う意味があるようにも思えるんですよね。例えば、子どものほうが素直にオノマトペルの音に反応することがおもしろいからというか、大人とはちょっと違うタイプのリスナーとして届けることに少し頑張ってきたような気もするんですけど、その辺は自分ではどう思っていますか?

横沢ローラ:「子どものほうが」とはぜんぜん思ってなくて、本当にそこの垣根がないんです。

音楽の楽しみ方は人それぞれだと思うので、外国語の歌詞の意味がわからなくても、変拍子でも、それをすごく楽しんで聴いてるような、例えばプログレのファンの人たちもいるじゃないですか(笑)。

子どもたちはとりあえず空間を楽しんでるのかもしれないし、大人たちは音楽を聴いてる人もいれば、空気感を楽しんでいる人もいて、パパやママたちは楽しんでる子どもたちを見て楽しんだりもしていて、なんかカオス的にごちゃまぜな場を楽しむっていうのが、この“TOKYO天の川”を経て、それぞれのライヴの楽しみ方に加わったとしたらいいな、って。

──子どもの場合、年齢が低いと“小4の壁”というか、抽象的な世界をちょっと受け入れづらいことってあったりしますよね? 小学校5年生ぐらいになれば抽象的なことがわかるみたいなことが言われてるけれど、年齢が低いと、オノマトペルが提供しようとしている世界観っていうのは伝わってないんじゃないかという不安もあるのかなと......。

横沢ローラ:それはあります、ある。すごくあるんですけど、うーん、なんだろう、今回のイヴェントで私が企画書に書いていたのは、「この東京の、星の見えないところに、クリエイターとか芸術家とかみんなが、ライヴの一瞬を作るために協業して、一緒にライヴを楽しみながら、渋谷のホールという空間で天の川を作る」っていうのをやりたかっただけなんです。

イヴェントとしてはお祭りに近いんだけれど、私としては“ものづくり+音楽”というか、芸術に振り切りたいと考えていました。

参加してくれた人誰もが、作る才能というか、それぞれに光る才能があって、それが一緒になったら、ほら、楽しい空間ができるよ、って。そのなかで私たちは音楽というパートを務めさせていただきます、ということだったんです。

普段はもうちょっと音楽の比重が高い活動をやっていて、というか、どちらかっていうと本当はずっと音楽メインでやってたいんですけど(笑)、ついつい、みんなでなにか作るっていう企画を考えちゃいがちで……。

ただ、それがオノマトペルとしての活動のバランスを崩しちゃっているんじゃないかという心配もあるんですけど(笑)。

──一般的なプロの音楽活動というのは、音楽を作って提供して、それを受け取ってもらうリスナーというのがあって、その関係性が成り立つことによって活動が成り立っていくわけですよね。だけど、ローラさんがやろうとしてることは、どんどん向こう=リスナーからオノマトペルの活動に対して“侵食してもいい”というか……。

横沢ローラ、工藤拓人:あー、なるほど。

──喩えは悪いですけど、川の堤防をわざわざ自分たちで「壊してもいいからこっちへ来て」って言っちゃってるから、自分たちの領土というか活動範囲が“泥沼”になっちゃうみたいな(笑)。

工藤拓人:う〜ん、なってるね(笑)。

横沢ローラ:確かに、確かに。そういうのがオノマトペルの活動姿勢の根本にあるかもね。

──でも、そうすることで領土が肥沃になって、実りがあるという、そこまで先を考えているのであれば、川が氾濫しても嬉しいのかもしれないけれど……。実際にはタイヘンなことになってるわけですよね(笑)。

横沢ローラ:そうか! 堤防を自ら決壊させて溺れて、たまに音楽よりイヴェントの準備に時間を取られすぎて「とっちらかっている」と言われる……、けど「領土が肥沃になって実りがある」なんて“名言”いただいてしまった(笑)。嬉しいです! 感動しました!

──普通だったら、クリエイター側がリスナー側から侵食されることを受け入れてしまうのは、嫌がるというか、恐怖ですらあると思うんだけど、そこはあまり考えないで突っ走ってしまうように見えるんですよ。

工藤拓人:それはまあ、普通にありますね(笑)。

オノマトペルのステージ(筆者撮影)
オノマトペルのステージ(筆者撮影)

オノマトペルの音楽的な変化

横沢ローラ:今回、このイヴェントのために〈TOKYO天の川〉って曲を作ったんですけど、工藤君からしたら初めての4拍子だったから、オノマトペル側から侵食したと言えるかもしれない(笑)。

工藤拓人:別に僕、なにがなんでも「変拍子を作りたい!」っていうわけじゃないんだけれども、ただ、意識するところは変えたかな、あの曲に関しては。

──イヴェントだから、踊れるように?

工藤拓人:主にそうですね、あとはやっぱり、口ずさめるようにっていうところかな。みんなでその歌を口ずさんで踊るっていうところを、最終目標にしてたと思うんで、そのことについては考えました。

いつも鍵盤に向かって曲を書くんだけども、いままでのスタイルをぜんぶ取り払って、鼻歌から作るみたいな……。

そういうのって、自分でやったことがなかったんで、けっこう新鮮だったかも(笑)。よかったなと思います。そういう作り方ができて。

──いままでそうやってこなかったのは、それだと自分は出ないと思ったから?

工藤拓人:うーん……。そういうことではないんですけど、自分が出ないというよりかは、“フツーだとこういう視点から作るよな”っていうところを封じてたというか。

コードのおもしろさだとか、リフとか、楽器のセオリー的なところからではなくて、鼻歌だけみたいなものに挑戦したというか。人から人へ鼻歌で伝わっちゃうような、それで成り立つようなタイプの楽曲を意識したんです。

だから、自分でもいつもとは切り口が違うって感じていたことは確かですね。

──オノマトペルは“詞先”なんですか?

横沢ローラ:ほぼ“曲先”です。

──工藤さんから曲をもらって、ローラさんが言葉でイメージを作るって感じですか。となると、最初の曲のイメージっていうのは、できあがったときのイメージとはやはり違うことになるのかな?

工藤拓人:曲を作るときに、多少はイメージを込めたりしますけど。でも、大概の曲はそうではなかったかもしれないですね。

実は、ちょっとそれが問題だなと思っていたこともあった。だから最近は、曲を作るときにイメージを込めるようにはしてたりします。

──詞の世界観やテーマに影響されずに曲から作っていくというのは、現代音楽的な作り方かもしれませんね?

工藤拓人:あ……(笑)。

──曲をブロックの組み合わせのようにして作っていくみたいなところとか。そこに物語性を入れていくというのは、逆にかなりめんどくさいし、いわゆる脈絡がないわけですよね。それは厭わないということなんですよね?

横沢ローラ:……です(笑)。パッとイメージが湧くときもあるけど、何度も何度も書き換えることも多い……。

──最初に閃くという感じじゃなくて?

横沢ローラ:曲によるかな。例えば、オノマトペルのいちばん最初の曲の「百鬼夜行」、これは〈工藤オリジナル1〉と書かれたデモ音源が私に送られてきて、もうなにもヒントがないなぁと思ってて……。

ペンタトニック音階が入ってたりしていたから、私は“和”を感じたのと、ちょうど徳島に滞在していて阿波踊りの時期だったりしたので、そのヴィジュアルと曲調が私のなかでマッチして、1年に1回妖怪が集うイメージがまとまっていったかな。

それから、曲を聴いたときに宇宙を連想したのもあって、「銀河鉄道の夜」の後の世界みたいなイメージを加えたり……。

〈笠地蔵〉という曲は、〈ミュージカル〉って仮タイトルで届いたんですけれど、組曲みたいな構造で、緊張感があって。

そこに物語を作っていくのはすごいタイヘンで、もう、どうやって考えたのか覚えてないけど、最終的には笠地蔵が笠を盗まれちゃって旅に出たけど自分たちの使命に気づいてまた戻って、地蔵の使命を果たすみたいな物語にしてみたんです。

この曲、演奏前にストーリーを解説するかしないかで、ウケがぜんぜん違うんですよ。

例えば岩手でやるとめちゃくちゃ人気だったりするんですけど、Spotifyみたいな曲だけ再生される環境だとぜんぜん再生回数が伸びていない(笑)。

──タイトルだけだと曲のイメージが伝わっていないということですか?

横沢ローラ:そう、ぜんぜん伝わってない感じ。でも、子どもとか、子どもの親とかは気に入ってくれたりする。

そういうこともあったので、私が自由に発想するっていうところから、最近はもうちょっと、工藤君と相談して曲を仕上げるようになってきているんです。

で、今回のイヴェントのために作った曲は4曲ぐらいあったんですけど、どれも4拍子なんだよね。

工藤拓人:確かに、ちょっと意識は変わってきたかも。これまでみたいに複雑になりすぎず、みたいな。

──多分、リスナーはそれを敏感に感じてたんじゃないかと思うんですよ。会場で見ていてもそれを感じていて、だから踊れたし、みんな身体が動いていた。〈TOKYO天の川〉なんかは、オノマトペルのこれまでの曲にあった曖昧さが少なかったんじゃないか、と。

工藤拓人:なるほど。

──オノマトペルのこれまでの曲って、絵本を読んでるみたいな感じというか……。シンプルで、ストーリーがドンッとあって、キャラクターがゴンッと来る、みたいなところがあるから。一般的なポピュラーミュージックだと、主語が曖昧というか、気持ちも「どっちなんだ?」みたいだったりするんだけど、そういうところがオノマトペルって少ないから、「わかりやすいけど共感しづらい」って誤解されているんじゃないかと思うんですよ。

工藤拓人:確かに、そういう意味では、直近で作った曲についてはそういうところを意識していたかもしれない。曖昧な部分を作って、聴いた人が「もしかしたら自分のことかも?」なんて、歌の世界に投影できるような感じの作り方を試み始めてるというか……。

横沢ローラ:〈TOKYO天の川〉って曲は、なるべく曖昧な歌詞になるようにしたというか、主人公が誰かはわからない。

ただ、完全に、その歌から見てもらえる風景はイメージしてて、自分の光は小さいけど、そしてその光で照らしても道は見えないし、先も見えないけど、確実に光っていて、その光は、身近な人の存在に気づきにくいけど、天の川が見えたときに、自分の隣にも光があったことに気づくとか……。

そういう身近な事象と天の川というイメージを掛け合わせながら歌詞を書いたので、“いままでのオノマトペルの曲にはない”という指摘は当たっていますね。

あえて“子ども向け”にしない背景

──“TOKYO天の川”を見ていて感じたんですけれど、あのイヴェントもそうだし、オノマトペル自体が“子どもウケ”を考えたバンドじゃないんだぁ、って。“TOKYO天の川”の会場では、子どももはしゃいでいたけど、その親の世代を巻き込んで楽しめる音楽を提供しているんじゃないかと思ったんです。親の世代って、お二人に近いのかもしれないけれど、いろいろなしがらみのなかで子育てをしていかなければならないという、めちゃめちゃ生きるのがタイヘンななかで、オノマトペルがもたらしてくれるファンタジーに共感しているというか、刺さっているんじゃないかと思ったんですよ。もちろん、少子化だしマイノリティだからYOASOBIなんかが決して狙っていかないマーケットなんだろうけど、だからこそオノマトペルは貴重なんじゃないか、と。

横沢ローラ、工藤拓人:そうなのかなぁ(笑)。

──だからと言って、完全に子ども狙いの作風にすればいいのかといえば、そうじゃない。

工藤拓人:そういうことですよね。だから、今回のイヴェントも“立ち位置”がすごく難しいと思っていたんです。

子ども向けっていうことにしちゃうと、途端になんか趣旨もやる内容も変わるだろうし、なによりも気持ち的に、子ども向けのことを考えなくちゃいけないんじゃないかという気になってしまって、そのための曲作りに注力しすぎると、アイデンティティがぼやけちゃうんじゃないか、と。

演奏中の工藤拓人(Photo by nobu)
演奏中の工藤拓人(Photo by nobu)

横沢ローラ:そうそう、子どものためって言っちゃうと、自分を含め大人たちが「自分はさておき子どもを楽しませるための演出」にスイッチが入っちゃうから。子ども向けのコンテンツを研究し始めたりするでしょ?(笑)。

もちろん、危険がないように安全面や、大人の目が行き届くようにいろいろアドバイスをもらい、設計はしっかりしたい。

TOKYO天の川の全体像を見渡すことのできるフライヤー(筆者スクショ)
TOKYO天の川の全体像を見渡すことのできるフライヤー(筆者スクショ)

横沢ローラ:けれど、大人の私が楽しめるようなワークショップやものづくりやライヴにしているのに、“子ども向け”って印象づけられちゃうと、大人が遠慮しはじめるから……。

だからこそ私は、“子ども向けじゃない”っていうワードは死守したかった。大人も子どもも一緒に楽しめることはたくさんあるし、子どもは楽しむことの天才だって信じてる。きっと子どもがいる人たちは、このことを体感的にわかってるんでしょうね。

ということで、あえて“キーヴィジュアル”は大人っぽくしたんです。とにかく文化・芸術イヴェントというか、アートを前面に打ち出したかった。

フライヤー表紙に掲載されたTOKYO天の川のキーヴィジュアル(Designed by Sankofa、筆者スクショ)
フライヤー表紙に掲載されたTOKYO天の川のキーヴィジュアル(Designed by Sankofa、筆者スクショ)

横沢ローラ:お御輿を担いでステージフロアにたどり着いたときに、イルミネーションに照らされたホールの高い天井を見上げて、親子連れが自然に「空が高い」「星がきれい」って話していたというのを聞いて嬉しかった。

天井じゃなくて“空”とか“星”……。その感性は、誰もがみんなもっていると信じているし、自分が子どものころに絵本や物語を起点に空想世界をたくさん描いてましたから。

ライヴフロアでは「空が高いね!」という声が上がっていた(写真提供:横沢ローラ)
ライヴフロアでは「空が高いね!」という声が上がっていた(写真提供:横沢ローラ)

──そういう意味でも、オノマトペルの音楽は、童話や昔話の世界がテーマのように見えるけど、その素材で遊んでいるだけだから、みんなも好きなように楽しんでくださいっていう姿勢を貫いたほうが、刺さり続けてくれるんじゃないかと思うんですよ。

横沢ローラ:音楽活動だけじゃなく、いろいろ私が“決壊”させて泥沼化してしまったことではあるけれど、“TOKYO天の川”の会場は本当に楽しそうだったから、やってよかったと思っています。

ただ最近、イヴェントの計画や準備に没頭しすぎて……。オノマトペルとしては、もっと音楽に軸足を置いた活動に力を入れていかなきゃと思ってます。

工藤拓人:コンサートに来てくれた人が「きょうは普通にライヴしかやってなかったからちょっともの足りないね」みたいになったらヤバい(笑)。

横沢ローラ:音楽だけに集中したい気持ちはあるんだけど、イヴェントの企画なんかにもすごい興味があるからなぁ……。

ただ、やりたいことをぜんぶ自分で仕切ろうとすると、いくつ身体があっても足りないから(笑)。

──オノマトペルが気になっている人たちは、イヴェント性があるからだけじゃないということに気付いているんだと思うんですよ。オノマトペルの曲があるからあの会場で踊れるんだし、渋谷のホールのなかで生み出された“天の川”の意味を発見することができるんだ、と。そういう気づきをもたらしてくれる音楽の力をもったバンドがオノマトペルで、それを原動力として展開していこうとするイヴェントもまた、音楽活動の一環だということを広めていけば、矛盾はないんじゃないですか?

横沢ローラ:確かに! 音楽を作っているのは2人だけど、“TOKYO天の川”のような空間を生み出すことができるような芸術家集団がオノマトペルなんです、って言えるようになればいいんですよね。

工藤拓人:音楽よりイヴェントのほうにリソースが割かれないように、監視しなきゃならないなぁ(笑)。

オノマトペルの工藤拓人(写真=左)と横沢ローラ(写真=右、筆者撮影)
オノマトペルの工藤拓人(写真=左)と横沢ローラ(写真=右、筆者撮影)

工藤拓人

工藤拓人(筆者撮影)
工藤拓人(筆者撮影)

くどう たくと Takuto Kudo

北海道札幌市出身。ピアニスト /キーボーディスト / 作編曲家。

ジャズピアニストとしてはSAPPORO CITY JAZZのコンテストにて優勝し二度カナダ・トロントジャズフェスティバルに出場。

2017年12月に自身のバンド「オノマトペル」を結成、2018年9月にEP「ツベラコベラ物語」をリリースし、TOWER RECORDSにて全国展開。2020年12月、2作目となるフルアルバム「並行世界切符」をリリースし大和田伝承ホールにて11人編成での管弦楽ライヴを成功させる。ライヴツアーをしながら音楽制作、CM音楽などを提供。

作編曲家としては、弦楽四重奏(バイオリン、ビオラ、チェロ)を組み込みクラシック音楽とポップス音楽を巧妙にブレンドさせた作風を始め、エレクトロニカのような電子音楽にも通ずるアレンジも依頼が多い。幅広いジャンル・サウンドを通して、メジャーアーティストへの編曲なども行う。

演奏家としてもジャズ、JPOP、R&B、EDMなど、多岐にわたるジャンルのミュージシャンの演奏を支え、全国ツアーなどをサポートする。

工藤拓人公式サイト:https://www.takutokudo.com/

横沢ローラ

横沢ローラ(筆者撮影)
横沢ローラ(筆者撮影)

よこざわ ろーら Laura Yokozawa

「物語」を歌う日本の女性シンガーソングライター。宮沢賢治『遠野物語』や各種絵本とミュージカルに影響を受け、学生時代にジャズ研でドラマーとしての活動を経たのち、ボストンの音楽大学にてJAZZ、R&B、ゴスペルのシーンを学ぶ。2011年に帰国後、現地のミュージシャンたちとレコーディングをした自身のアルバム2枚と、アレンジャーでキーボーディストの安部潤氏プロデュースでジャズ・フュージョンの名曲をリアレンジしたアルバム『Fusion-O-Potamus』をリリース。

2018年からピアニスト工藤拓人と結成したユニット「オノマトペル」にて精力的に活動。

ギター弾き語りでも全国を回り、日本各地の土着文化、民話、寓話などからインスパイアされた曲と絵によって地域、文化、人をつなぎながら広めることをライフワークとする。

スタジオワークとしては、子供むけのポップでキュートな楽曲から、郵便局、内閣人事局、製薬会社、航空会社などのテーマソング、ブランドイメージアップCM、テーマパークのCMやコンピレーションアルバム、10代向けのヒット映画の挿入歌を歌唱するなど、幅広いジャンルのクライアントへ歌と曲を提供。

2020年12月、渋谷からクリスマスソングとカードを届ける企画「シブヤクリスマスキャロル」プロジェクトを開始、2022年にフェス「SHIBUYA赤鼻祭」を実施。2023年、テレビ東京「今夜はすきやき」の音楽に歌唱で参加、任天堂ゲーム「スプラトゥーン3」のキャラクター「ウツホ」の声を担当し、サントラCDにも歌唱で参加。

横沢ローラ公式サイト:https://www.laurayokozawa.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

富澤えいちの最近の記事