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2023年12月のヘヴィロテを決めさせたサマラ・ジョイと父の音楽愛 [聴く]気になる…memo

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
サマラ・ジョイEP『A Joyful Holiday』ジャケット写真(筆者撮影)

ジャズ・ヴォーカル界に出現した“超新星”として話題となっているのが、1999年生まれのサマラ・ジョイだ。

2023年の第65回グラミー賞で最優秀新人賞と最優秀ジャズ・ヴォーカルアルバムの2部門受賞という栄誉に輝いたことで、その名声は一挙に“ワールド・レヴェル”に高まったと言ってもよいだろう。

そんな彼女の、ホリデー企画の作品情報が届いている。

どんな情報かと言うと、6曲入りのEP (4~6曲を収録して全体が30分未満のショート・ヴァージョンのアルバム)のリリースで、ホリデーすなわちクリスマスをテーマにした曲をセレクトしたカヴァー集だ。

このEPリリースのタイミングで公開されたライヴ・ヴァージョンの〈The Christmas Song〉の動画は、EP収録の模様を撮影したものと思われるが、ここでは彼女の父親のアントニオ・マクレンドン(動画ではトニー・マクレンドンと紹介)とデュエットするサマラ・ジョイの姿と美しいハモリ声を楽しむことができる。

実を言うとボクは、サマラ・ジョイの登場(2021年リリースの1stアルバム『Samara Joy』)でその技量の高さに圧倒されながら、ストレートすぎるメロディへのアプローチに個人的な違和感を抱いたりもしていた。

わかりにくいことを承知で例えると、五代目古今亭志ん生を好きな人が八代目桂文楽の噺を“正しすぎる”と感じてしまうような……。

そんな印象が心の片隅に残ったままこのホリデーEPを聴き始めたわけなのだけれど、コテコテの季節ものの企画作品だというのに、ボクのモヤモヤとした印象を吹き飛ばしてくれる内容だったから、まさに“ホリデー・プレゼント”になってくれたというわけなのだ。

そのキーを握っていたのが父上のトニーさんで、彼のコテコテなモータウン的歌唱と娘のストレートな声がブレンドされたときの心地良さといったらこのうえなかったりしたんだけど、それに接したときにボクは、サマラ・ジョイがストレートすぎると感じていたけれど、そのストレートさのなかにはしっかりとアフリカン・アメリカンの音楽的ファミリー・トゥリーが存在していて、むやみに上手いだけではなかったんだと、ようやく気づかされたことになる。

もちろんそれはサマラ・ジョイが、彼女が考える以上にジャズ寄りな歌い方をしない(つまりフェイクしない)ことにも通じると思うのだが、だからと言って父親とのデュエットでスタンスを変える(“地”を見せる?)ようなことをしないというところにもまた、彼女のジャズ・ヴォーカリストとしての矜持を感じるところではないかと思ったりしている。

ボクは音楽愛好家として(つまり宗教云々抜きで)、とっかえひっかえニュー・リリースのホリデー企画の作品を12月になるとヘヴィロテするのがこの数十年の“日課”になっていたのだけれど、2023年の1枚は、まずこのサマラ・ジョイの『A Joyful Holiday』に決めることにした。

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サマラ・ジョイEP『A Joyful Holiday』ジャケット写真(筆者撮影)
サマラ・ジョイEP『A Joyful Holiday』ジャケット写真(筆者撮影)

サマラ・ジョイ『A Joyful Holiday』

2023年10月27日(金)リリース

https://Samara-Joy.lnk.to/AJoyfulHolidayPR

収録曲目:

1. Warm In December

2. Twinkle Twinkle Little Me ft. Sullivan Fortner

3. The Christmas Song

4. Have Yourself A Merry Little Christmas

5. O Holy Night

6. The Christmas Song (Live)

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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