FAN ID制度が世界標準となるか? コンフェデ杯で導入されたセキュリティの仕組み
ロシアで開催されているコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)はグループステージの日程を終了し、A組からポルトガルとメキシコ、B組からドイツとチリが勝ち上がった。現地時間で6月28日にポルトガル対チリ、29日にドイツ対メキシコの準決勝が行われ、それらの勝者が7月2日の決勝で対戦する。
筆者はサンクトペテルブルクで開催された開幕戦、ロシア対ニュージーランドとモスクワで行われたロシア対ポルトガルをスタジアムで観戦した。
日本代表が出場していないのに現地をわざわざ訪れたのは、来年のワールドカップ本番に備えて、ロシアを下見するためだ。
事前調査をする上で筆者が最も気になっていたのは、FIFA主催の大会で初めて導入されたFAN IDという仕組みがどのように運営されるか、この一点に尽きる。
FAN IDを発行せずにスタジアムに入れるか試してみた
FAN IDとは、コンフェデ杯をスタジアム観戦する一般客に提供される身分証明書のことだ。
観戦チケットをウェブで購入すると同時に、FAN ID用の顔写真をアップロードし、住所、生年月日、国籍、パスポート番号などの個人情報を登録する必要がある(ちなみにFAN IDを発行すると、コンフェデ杯と来年のワールドカップの開催期間中はロシアの入国VISAが免除される)。
公式サイトの説明(英語)には、全ての観客においてFAN IDの発行が必須(mandatory)と書かれてある。
そんな厳格なセキュリティの運用が果たしてうまく回るのだろうか? と筆者は疑問に思ったので、試しに開幕戦でプラスティックのIDカードを発行せずに、ウェブ申請後に承認されたことを証明する「electric FAN ID」を印刷した紙だけを持参し、入場できるかチャレンジしてみた。
結果は動画の通り、あえなく入場ゲートで門前払いされてしまった。例外対応は一切なく、セキュリティ面は万全のようだった。
仕方がないので、その後スタジアム脇のFAN ID発行所に出向いた。
パスポートと紙出しした「electric FAN ID」を提示したところ、ものの10分でFAN IDのプラスティックカードを発行してもらえた。
再度、スタジアムの入場ゲートで発行されたばかりのFAN IDを提示したところ、問題なく入場できた。
その際、FAN IDと観戦チケットの2つのバーコードを連続でスキャンする運用だったので、観戦チケットの名義がFAN IDと異なると入場できない可能性がありそうだ(さすがに他人名義の観戦チケットで入場できるかのテストはできなかった)。
FAN IDの仕組みがデファクトスタンダードとなるか
何万人もの一般客が入場する国際スポーツイベントにおいて、全観客に顔写真付きの独自の身分証明書を提供するシステムを採用し、そのIDを持参しない者は一切入場を認めないセキュリティルールを導入したのは、このコンフェデ杯が世界初だ2度目となる(※筆者修正 2014年のソチ冬季オリンピックで同様のSpectator Pass制度が導入されていたため、世界初ではなく、2度目と訂正した)。
国際テロが多発する昨今、莫大なコストをかけてでも入場者全員に身分証明を義務付けるセキュリティシステムが導入されるのは、必然の流れとも言える。
今大会で混乱なくFAN IDの制度が運営され、一定の成果をおさめることができれば、来年のワールドカップ本番のみならず、2020年の東京オリンピックでも同様のシステムが導入される可能性は大いにあるだろう。
今後の世界的なスポーツイベントにおいて、入場者の安心・安全を担保する身分証明システムが、国際標準となるかもしれない。
コンフェデ杯の準決勝、決勝をテレビ観戦する予定の人は、試合中に時々映し出される観客の首元にも着目してほしい。試合の内容だけでなく、このような大会運営の方式にも注目すると、より興味深く試合を観戦できるはずだ。