Jリーグの秋春制移行問題 J運営側に足りない視点とは?
Jリーグのシーズン移行問題が物議を醸している。
5月28日に開催されたJ1第15節新潟対G大阪では、新潟ゴール裏からシーズン移行反対の横断幕が多数掲げられた。
Jリーグ側も会見の発言録を公開したり、YouTube公式チャンネルで野々村チェアマン本人が説明したり、シーズン移行に関する議論の経過を積極的に開示しているが、サポーターにシーズン移行の真意がうまく伝わっていないように感じる。
チェアマン自身も「多くの人が同じような立ち位置に立って考える土壌にないのが今は問題」と会見で述べている。
なぜJリーグ側の説明がサポーター側の理解に繋がっていないのか、考察する。
Jリーグとサポーターが同じ目線で議論できない理由
一通り会見の発言録やYouTubeの野々村チェアマンの説明を見てみたが、ひとつ気になった点がある。「何のためにシーズン移行を行うのか? その先にはどんな将来のビジョンがあるのか?」が明確に伝わってこないのだ。
私は企業内研修の外部講師として、よくロジカルシンキングなどをテーマに教えているが、問題解決のアプローチは以下のように定義されている。
最初に中長期的なビジョン(To Be像)を描き、現状(As Is)との差異(Gap)を問題として認識する。次にその問題が発生している原因を追究した上で、その根本原因を取り除くための解決策を立案するアプローチだ。
問題解決やロジカルシンキングに関する書籍で、最初に説明がなされるフレームワークと言っていい。
今のJリーグ側の説明だと、上記フローの5番目にあたる解決策として、「シーズン移行の可否」が唐突に議論されている印象を受ける。この進め方だと、「手段の目的化」という泥沼にハマるリスクがある。
あくまで「シーズン移行」は手段であって目的ではない。
最初に説明されるべきなのは、Jリーグが数十年後に目指すビジョン(To Be像)だ。そのビジョンを達成するためのひとつの手段として「シーズン移行」が存在すべきであって、その将来像がサポーターに明確に示されていないように思う。
Jリーグが目指すTo Beはどこにあるのか?
ということで、自分でネット検索をして、Jリーグが示している将来のビジョンを探してみた。すると、経済産業省のサイトに「Jリーグの成長戦略について」というお題で41ページにわたるPDFを発見した。こちらを拝借して解説する。
7ページに将来のTo Be像が説明されていたので、このページを引用させて頂く。
この2つの成長テーマを把握しているサポーターはどれくらいいるだろうか?
Jリーグの公式サイトでも昨年11月にプレスリリースされているが、筆者の肌感覚としては、ほとんどのサポーターがこの将来ビジョンを認知していないのではないか?
ということで、この将来ビジョンについて簡単に解説してみる。
J運営側はまずTo Be像を丁寧に説明すべき
成長テーマその1「60クラブがそれぞれの地域で輝く」は、今まで何度も言われてきた「地域密着」の話と解釈できる。それに対して、成長テーマその2「トップ層がナショナルコンテンツとして輝く」はJ1の上位クラブに焦点を当てている。
今回の「シーズン移行」は、ACLのシーズン移行に合わせて、ACLに出場する上位3-4クラブへの措置という側面が会見でも説明されている。つまり「シーズン移行」は成長テーマその2を実現するための手段、と解釈することができそうだ。
シーズン移行はJリーグ内の15%程度を占める降雪地クラブに対して大きな負担を強いる可能性があるため、成長テーマその1「60クラブがそれぞれの地域で輝く」の阻害要因に成り得る。
この部分の解決策として、降雪地クラブに対する救済措置(例えば屋内練習場建設に対して補助金を出すなど)が候補として挙げられることになるだろう。
ここまでの解説はあくまで筆者の仮説だが、このようにJリーグが掲げる将来像に対して、それぞれの解決策がどのように紐づくのかがしっかり説明されれば、よりサポーターの理解度は深まるのではないだろうか?
今の議論の進め方は、「シーズン移行の可否」に焦点が当たり過ぎているように感じる。
まずJリーグが目指す将来像を懇切丁寧にサポーターに説明するところがスタートラインとなるべきだ。次の理事会後の会見では、改めてTo Be像の説明から入ってほしいと切に願うばかりだ。