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イスラーム過激派の食卓(「イスラーム国 インド州」の不思議な食卓)

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 例年ラマダーン月の最後の10日間は、「イスラーム国」の活動強化期間である。この期間に「攻勢」を実施したと主張するのは恒例行事だし、ここ数年日に日に量質が低下している同派の声明類も、この期間は件数が増加する。件数増加(或いは水増し)の一端を担うのが、各地の「イスラーム国」の者たちが自分たちのラマダーンの暮らしぶりと称する画像群を発信することである。これらは各地の「イスラーム国」が順調に活動し、ラマダーンのごちそうを楽しむくらいのゆとりがあることを誇示しようとするものと思われるが、今期も「シリア州ホムス」「シナイ州」、そしてイラクやソマリアの作品が出回っている。そうした中、2021年5月6日付で「イスラーム国 インド州」の画像群が出回った。

写真1:2021年5月6日付「イスラーム国 インド州」
写真1:2021年5月6日付「イスラーム国 インド州」

写真2:2021年5月6日付「イスラーム国 インド州」
写真2:2021年5月6日付「イスラーム国 インド州」

過日紹介した「シリア州ホムス」、「シナイ州」の食事風景と今般の画像との違いは、一目瞭然である。すなわち、「インド州」の食事の場面は果物と飲み物に限られ、他の諸州が発表するような調理の場面や肉料理が見られないのである。もちろん、一般的なラマダーン月の過ごし方でも、日中に飲食を断った後で日没後ただちに鯨飲馬食すれば命にかかわるので、まずはナツメヤシや果物と水や果汁を摂り、日没の礼拝をしてから本格的な夕食を摂る。つまり、今般の画像群は日没直後に軽く食物を摂る場面であると言えなくもない。

 しかし、今般「インド州」が発表した画像群のその他の画像を眺めていると、この画像群は、これを撮影するためだけに4~5人位を集めて撮影したものではないのかという気もしてくる。というのも、他の諸州ではごちそうの調理は無論、日常的な主食であろうパンやお米類の仕込みの場面も含まれており、武装集団が何らかの根拠地・野営地・潜伏地で寝食を共にして活動している様が示唆されているのに対し、「インド州」の画像群にはそうした生活感が欠けているのである。もちろん、「インド州」はカシミール地方でインドの官憲を襲撃したとしばしば主張しており、活動の実態がないということではない。となると、今般のようななんだか変な画像群が示唆しているのは、「インド州」が活動の主力である実戦部隊についての情報は秘匿し、広報部門かよりランクの低い活動家に公開用の画像を撮影させた可能性や、「インド州」の者たちは「イスラーム国」の他の地域の者たちのように山林や砂漠に拠点や潜伏地を構築するのではなく、集落や都市に正体を隠して潜伏し、必要に応じて招集されるという活動の形態をとっているなど様々な可能性である。いずれにせよ、「インド州」の者たちの生態が、中東、アフリカ、フィリピンなどの「イスラーム国」の者たちの生態となんだか異なるものであるとの印象は拭い難い。

 「イスラーム国」の在り方は、実際にどの位のつながりや関係があるかを問わず、世界各地の多様な諸集団が「カリフへの忠誠」を通じて「看板(とそれに伴う威信や社会的影響力)を共有する」というものを基軸とする。そのため、「インド州」が他の諸州とは異なる形態で活動していたとしても、別に不思議ではないかもしれない。とはいうものの、今般の「インド州」のいかにも生活感のない画像群がファンの共感を得るかは微妙なところであるし、画像群自体がラマダーン中の広報強化期間に迎合しただけのあんまり質の良くない作品にも見える。もっとも、画像群に登場した面々が、その後正体を隠して彼らの家族や友人らとラマダーンの夕食を楽しんでいるという光景も、なんだか気持ちの悪いものである。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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