3週間の独自調査データで分析する、小池知事・希望の党「戦略の不在」
衆院選は、自民・公明が引き続き3分の2の多数を占める一方、立憲民主党が躍進し、希望の党が伸び悩む結果となった。とりわけ、東京では立憲民主党候補の「終盤の強さ」が目立つ反面、小池百合子知事率いる希望の党が小選挙区1議席、比例3議席と第3党に甘んじたことは注目に値する。
筆者は、代表を務める報道ベンチャー・JX通信社の調査をもとにこうした情勢を分析しつつ、都内での各党の獲得議席数を事前に公開し(10月18日記事参照)、結果は全政党で的中した。
そこで、本稿ではこの衆院選前の3週間分の東京都内情勢調査で生まれたデータをもとに、なぜ小池知事と希望の党がお膝元たる東京で急失速したのか、その「戦略の不在」ぶりを明らかにしていきたい。
支持層も一緒に「排除」「選別」?
小池百合子東京都知事の支持率は、希望の党立ち上げの表明以降に大きく下がった。左図はその推移だが、9月下旬に58%だった支持率は10月中旬には34%まで下がった。3週間で実に24ポイントもの大幅下落ということになる。
では、この時、小池知事から離れた支持層はいったいどんな人たちだったのか。9月下旬以降のJX通信社都内情勢調査で「支持政党別」の小池知事への支持・不支持の内訳を見てみると、特に無党派と与党である自民・公明支持層で大きく減らしていることが分かる。
先に都議選の結果を受けた記事で指摘したとおり、都民ファーストの会は無党派層の大部分を獲得しただけでなく、自民党支持層をも切り崩し、更に公明党は「都政与党」化して取り込むことで大勝を収めた。小池知事自身も各党支持層から幅広く支持を集めることで高支持率を保っていた。それだけに、民進党との「合流」プロセスで与党内の支持層離反が決定的になったことは強い打撃になったように見える。
更には不用意な「排除」発言に代表される強い保守色の打ち出しや、自民との大連立を否定しない曖昧戦術(後に修正)も、政権不支持層の受け皿になりきれないまま立憲民主党にお株を奪われる結果につながったようだ。加えて、最も大きな無党派層の離反を招いたのが、希望の党立ち上げから公示日に至るまでのプロセスの混乱ではないだろうか。
希望の党の混乱ぶりは、公示日前日までテレビや新聞を通じて徹底的に報道された。だが、同党の混乱ぶりはそうした報道では取り上げられない部分でもはっきりとみてとれる。そのひとつが、目玉候補不在のまま「過半数」の擁立だけにこだわった無理筋な擁立戦略だ。その歪みが最も目立ったのが、小池知事のお膝元とも言える東京なのだ。
比例で「数学的にあり得ない数」の候補を擁立
希望の党が今回の総選挙に擁立した候補は、小選挙区・比例合わせて234人だ。過半数の233人をわずか1人とはいえ上回る数擁立したことで「政権選択選挙」の体裁を整えたように見えるが、その歪みが同党の比例東京ブロックの候補者名簿によく表れている。
比例東京ブロックは、現在の小選挙区比例代表並立制となって以来、単一政党での当選者数は「8人」が最高記録だ。今回最多だった自民も、6議席の獲得に留まっている。それにも関わらず、希望の党はこの比例東京ブロックに10名もの「比例単独候補」を擁立した。詳細な説明は省くが、比例代表の議席数を決めるドント式の計算方法を理解していれば、この10人という人数だけも強気すぎることは容易に分かる。しかし、実際には更にその上位に、小選挙区との「重複立候補者」23人が登載されていたのだ。
実は、小池知事のもと大勝した「都民ファーストの会」の7月都議選での得票をそのまま当てはめても、小選挙区で23人全員が当選することは難しい。このことを踏まえると、希望の党は定数17の比例東京ブロックで十数名という数学的にほぼあり得ない人数の当選を見込んでいたか、「数合わせ」だけで東京に候補を寄せたかのどちらかだということになる。いずれにしても無謀というほかない。
数学的にまず当選不可能な人数を擁立してまで「政権選択選挙」の体裁を整えたことで、希望の党はいったい何を得たのだろうか。政権の「顔」たる首相候補を示せないだけでなく、公示日まで延々と小池知事の国政転身への憶測やそれを仮定した「都政投げ出し」への批判を最後まで打ち消せなかった原因にすらなった。致命的な戦略ミスだったと言える。
こうした失敗により、東京都議選での勝利による勢いは完全に打ち消された。都民ファーストの会は都議会では単独過半数を有しておらず、キャスティング・ボートを握る公明党の影響力がより強くなる可能性が高い。更には、その都民ファーストの会が基礎自治体の議会選挙で初めて候補を擁立する来月の葛飾区議選などへの影響も注目される。
実は、戦後に都知事が公選制になって以降、現職知事が出馬して落選したことは1度もない。逆に言えば、何らかの理由で1期目の間に政治的なエネルギーを失った知事は、例外なく2期目の選挙に出られないまま退いている。小池知事は1期目を無事に終えて2期目に臨むのか、自らの前向きな意思で国政に転身するのか、そのいずれを選択するにしても「都政」で足元を固める防戦的な取り組みにエネルギーが割かれることは確実だ。
前原氏の「やりたかったこと」と「致命的ミス」
こうした「野党敗北」の原因を作った人物として、強く指弾されているのが民進党と希望の党の合流を決断した前原誠司氏だ。では、その前原氏の決断は間違っていたのか。実はそうとばかりも言えないデータがある。自民・公明の合計支持率が、野党の合計支持率を下回ったのだ。
JX通信社情勢調査によると、9月下旬の自民党の都内での支持率は36%だったが、希望の党の結成が表明されてから初めての調査となった翌週(9月30日・10月1日)には支持率は9ポイント急落し、27%となった。以後は選挙戦終盤までほぼ横ばいになっている。一方、野党の合計支持率は、9月下旬には24%と自民党単独の支持率を大きく下回っていたが、希望の党設立後の2回目の調査で29%、そして立憲民主党設立後の10月上旬には35%、そして中旬には38%と急増している。小選挙区で候補を一本化している自民・公明両党の支持率を合計しても、10月上旬以降は野党の合計が上回る状態だ(左図参照)。
「どんな手を使ってでも政権を倒す」と言い切った前原氏がやりたかったことは、恐らくこれだろう。そのために、政権不支持層の「受け皿」になりきれないままの民進党を解体するという着眼点は、少なくとも数字から言えば正しかったとも言える。しかし、小池氏共々戦略の詰めが甘かったがために、彼がこだわった「1:1の構図」が作れなかった。更には、希望の党側が立憲民主党の候補に「刺客」を送るなどの無謀を止めることもできなかった。希望の党からの刺客はほぼ例外なく返り討ちに会い、立憲民主党は健闘した。最初から最後まで希望の党の戦略不在が際立った選挙結果だと言える。
今後は野党再編の行方が注目されるだろう。参議院議員が残る民進党の分党・解党や、希望の党の空中分解、立憲民主党の勢力拡大などが既に予想されている。事実上、来年秋の総裁選再選を経て2021年までの政権継続に道を拓いた安倍政権に、野党がどう対峙していくのかが注目される。
衆院選 東京都内情勢調査の結果と分析
立憲民主党に無党派・政権不支持層から最多の支持=JX通信社 衆院選第4回情勢調査(10月18日公開)※議席予測も掲載
比例東京で自民が首位奪還、立憲民主は希望に並ぶ=JX通信社 衆院選第3回情勢調査(10月9日公開)