入学、就職でレトロな木造アパートを選ぶとき、忘れてはいけない阪神・淡路大震災の教訓
阪神・淡路大震災が起きたのは、1995年1月17日。あれから28年も経ち、当時の記憶や教訓が薄れつつあることが指摘されるようになった。
そして今、昭和レトロな木造アパートに注目が高まるという現象が起きている。
昭和時代に建てられ、風呂が付いていない木造アパートが若い世代に再評価されている、というのだ。いやいや、それは若い世代が経済的事情により、少しでも安い賃貸を選んでいるということ。やむを得ず借りているだけで、レトロさが好まれているわけではない、など、議論を呼んでいる。
じつは、この「昭和レトロな木造アパート」にも、阪神・淡路大震災の教訓というべきものがある。地震の教訓は長く語り継がれるべきなので、改めて、古い木造アパートを借りるときに知っておきたい事実を記したい。
犠牲者に高齢者と20代が多かったという事実
阪神・淡路大震災は多くの被害を及ぼし、亡くなった方は1996年12月時点で6425人に達した。この数字は震災後の病死や自殺も含まれており、兵庫県警察は5471人を直接災害による死者数としている(1996年1月)。
亡くなった方々のご冥福を祈りつつ、その年齢を分類した表を東日本大震災のものとともに掲げたい。
阪神・淡路大震災のときは建物の倒壊や火災で、東日本大震災のときは津波で、という違いはあるが、いずれも亡くなった方の数が多いのは60歳以上の高齢者だ。しかし、阪神・淡路大震災のときは、高齢層でなくても亡くなった方が多い層があることにお気づきだろうか。
それは、20歳から29歳の20代である。10歳から19歳の層でも亡くなった方の数が多い。東日本大震災と比べると、阪神・淡路大震災では10代、20代で亡くなった方の比率が高いのだ。
当時、被災地では、この数字が注目された。
10代、20代で亡くなった方が多いのは、古い木造アパートに住んでいた大学生、若い社会人が建物の倒壊や火災で命を落としたためと考えられたからだ。
親になるべく負担をかけたくないと考えた学生、まだ給料が少ない若いサラリーマンが、古いぶん家賃の安い木造アパートを選択して犠牲になったとしたら、なんともやりきれない。
持って行き場のない怒りから、古くて耐震性に不安がある建物を賃貸に供していた大家に責任を問う声も上がった。
そういう事実があったことを、教訓として忘れてはならない。
木造アパートを選ぶなら、耐震性を確かめて
古くて、風呂なしの木造アパートならば、当然、家賃は安く設定される。全般的に家賃設定が高くなってしまう都心部にあっては、「家賃が格安の賃貸アパート」はありがたい。それを選ぶメリットも十分に理解できる。
しかし、古い木造アパートを選ぶときは「新耐震基準」と「耐震補強」について確認することが肝要だ。特に、東京23区内や大阪市内では、大地震のときに怖いのは津波ではなく、建物の倒壊や火災。阪神・淡路大震災と同様、遡れば関東大震災と同様の被害が生じると想定されるので、「新耐震基準」と「耐震補強」が重要になる。
1981年(昭和56年)6月1日から建築基準法に適用されたのが「新耐震基準」で、それ以降に建設された建物であれば、地震に強くなっている。そのため、「新耐震基準」が適用されてから1年半後、1983年以降に完成した建物であれば、木造アパートでも安心できる。
それ以前に完成し、「新耐震基準」適用前の建物であれば、「耐震補強」を行っているかどうか。賃貸住宅を借りるときは、その点を不動産仲介店に確認したい。
「新耐震基準」適用ではなく、「耐震補強」も行っていない木造の建物は残念ながら皆無ではない。しかし、人に貸して賃料を取るアパート類が「新耐震基準」でもなく、「耐震補強」も行っていないとしたら……人命を預かる建物として、最も大事な資質に欠けている、と言わざるを得ない。
そのような建物は、たとえレトロで素敵でも避けるべき、と阪神・淡路大震災の教訓は教えてくれるのである。