書店消失 ~ 私たちはどこで買い物するのか
・「京都でもか!」
正月が明けて一週間。ネットでも大きな話題となったのは、この2月末で大型書店「ジュンク堂」の京都店と名古屋店の2店同時閉店が発表されたことだった。
京都店は四条通りに面しており、1988年の開業以来、多くの顧客を集めてきた。また、名古屋店は、名古屋の中心商業地である栄のロフト店内にあり、昨年春に改装したばかりだった。
京都市中心部には、一時閉店していた丸善京都本店が10年ぶりに、2015年8月に新装なった京都BALに大型店を出店しており、その影響も大きかったようだ。
しかし、それにしても、大学も数多い京都でも、ついに大手書店が経営困難になってきたということは、多くの人たちの関心を呼んだようだ。10月には、京都府内に20店舗以上を持つ地元書店チェーンの大垣書店が、創業店であり、かつて本店であった北大路店を閉店している。
・愛知では書店の破産で23店が閉店
11月末には、愛知県岩倉市に本社のある大和書店が破産手続きの開始決定を受け、経営していた「ザ・リブレット」など全23店を閉店した。また、広島に本社を置くフタバ図書は、2019年12月から2020年2月にかけて中国地区と首都圏の合計5店を閉店する。
100年以上続く老舗も例外ではない。長野市では明治初年に善光寺の門前で創業した朝陽館荻原書店が、東京・神田小川町で明治8年に創業した神谷書店が、それぞれ2019年12月末で閉店している。
・大都市中心部、郊外駅前、郊外店も総崩れに
10年ほど前から指摘されていたことだが、ネット通販の普及、書籍や漫画のデジタル化によって書店系は年々厳しさを増し、倒産、廃業などが急増している。
一時は全国24都道府県に約120店舗を出店していた文教堂も2000年代に入り、急速に経営が悪化。2018年には債務超過が明らかになり、2019年には事業再生ADRを申請した。その後、資産の売却、事業譲渡などを行い経営再建を行っているが、その一つとして不採算店の整理が進んでおり、2019年の10月から12月までに10店舗、今年に入ってすでに2店舗の閉店を発表している。この中には、首都圏郊外の駅前にあったものや、福岡・天神のパルコ内の店舗などが含まれている。
・そもそも紙媒体が売れていない
全国出版協会が発表したところによると、紙の出版物の推定販売金額は2018年に1兆2921億円となっており、14年連続してマイナスの前年比5.7%減となっており、その中でも雑誌は前年比9.4%減の5930 億円で、こちらは 21年連続のマイナスだ。
実際、電車に乗っても、新幹線に乗っても、雑誌を読んでいる人はほとんどいなくなった。車内や駅で放送されていた「お読みになった新聞や雑誌はごみ箱にお捨てください」というアナウンスもとうの昔になくなっている。
しかし、これだけで人々の「読書離れ」だとは言い難い。インプレス総合研究所が昨年(2019年)7月に発表した「2018年度電子出版市場の動向調査結果概要」によれば、2018年度の電子書籍市場規模は前年比26.1%増の2826億円となっている。
・書店消失が現実のものに
2019年の書店の閉店状況を見てみると、今回、目を引くのは、ネットに対抗して、多くの書籍を実際に手に取って見ることができることをウリにしてきた大都市中心部の大型書店や、喫茶店や文具雑貨店などと併設して集客してきた郊外型チェーン店でも次々と閉店していることだ。
大都市に居住する人たちにとっても、会社の行きかえりに都心のターミナル近くの大型書店や、郊外の駅前の書店に立ち寄るという楽しみは過去のものになりつつある。
地方部では、書店のない自治体が2017年に2割を超している(トーハン調べ)。今後、こうした自治体は今後、急増すると見られている。書店というものが近隣から消失する。
・書店だけではない
「書店は、人々に物だけではなく、文化を運んできた」という過去を懐かしむ人も多い。人々が集い、文化に触れる場が失われることを心配する人も多い。しかし、実店舗で物を売るという商業形態が、いずれの業種でも問題に直面している。私たちの「買い物」という行為が、IT化、デジタル化が進むことによって、大きく変化してきた。
家に居ながらにしてあらゆるものを購入できるようになり、書店がなくなり、百貨店がなくなり、商店街がシャッター通りとなった。市場の魚屋や八百屋で買い物した経験がない子供たちが増えているのと同様に、本屋さんで本を買ったことのない子供たちも増えている。私たちは、これからどこで買い物をすることになるのだろうか。
急速に進む少子化は、容赦なく地方の書店の経営にも影響を与えている。「地方の書店の重要な収益源だったのが、教科書や参考書などだったのですが、小学生や中学生の人数が急減し、経営を支える柱を失った」と東北地方の書店経営者は言う。「小学生の教科書だけではなく、上履きや体操服、給食などの需要が地方の中小企業の経営の一助だったことは確か。ここまで人数が減少すると、それも過去の話だ」と中国地方の商工会議所職員は指摘する。
・市場は縮小するが・・・
MMD研究所が2018年6月に15歳~69歳の男女5,000人を対象に行った「オンライン書店の利用に関する調査」によれば、書籍を購入したことがある場所は「街中などの書店」が47.7%、「オンラン書店で現物の本の購入」が35.1%、「デパートなど商業施設の中の書店」が32.5%となっており、意外なことに書籍の購入場所の上位は「街中の書店、オンライン書店、デパートなど商業施設の書店」だ。
経営をする側としては全体の市場が縮小しているとはいえ、こうした需要をどのようにつかむのかが、一層、重要になる。「紙媒体の本だけにこだわらず、電子書籍やオーディオブックスなどの販売にも取り組んでいる。意外だったのは、こうした媒体は高齢者に需要があるということが判った。使い方を教えたり、新しいタイトルが出たら小まめに案内するなど、大手がやらないことを取り組んでいる」と話すのは、中国地方の書店経営者だ。従来と同じ販売方式に固執していれば、変化する市場から取り残されるのは、他業界と同じだ。
一方で、客側としては、過去のノスタルジーに浸っているだけではなく、我が町に書店を残したいのであれば、「買って残そう」を実践するしかないだろう。ローカル線も、銭湯も、百貨店も、そして書店も同じだ。
・インプレス総合研究所「2018年度の市場規模は2826億円、海賊版サイト閉鎖を受けて前年比126.1%の大幅増 ~電子書籍に関する調査結果2019~」