学生を騙す「ブラックインターンシップ」の罠 実態と対処法
就活生の多くが経験するインターンシップ。「2018年卒マイナビ大学生広報活動開始前の活動調査」によると、「インターンシップに応募や申込み」をした経験がある割合は80.4%(母数3996名)、インターンシップ参加率は65.2%(母数3996名)であるという。実際の参加率は5年連続で増加しているといい、学生の多くがインターンシップに興味を持ち、参加している現状が見て取れる。
ところが、そんなインターンシップには、無法なものが多数まぎれこんでいる。
例えば、インターンシップなのに、アルバイトや正社員と同じ業務を任され、しかも給料が適切に支払われないといった相談が私たちには寄せられている。また、内定を目指す学生の弱みに付け込み、過酷な労働を強いる「ブラックインターンシップ」の被害も寄せられている。しかし、そうした「ブラックインターンシップ」の実態はほとんど知られていない。
そこで本記事では、これらの相談事例の紹介を通じて、「ブラックインターンシップ」の実態と対処法を考えていこう。
アルバイト業務をしているのに無給なインターンシップ
今年9月、インターンシップを行っていた企業が、アルバイト業務を学生にさせたにもかかわらず賃金を支払っていなかったとして、労働基準監督署から是正勧告を出された。
「インターンシップ学生に不払い労働 農業生産法人に勧告 石巻労基署」2017年9月15日 河北新報
この事件はインターン中におかしいと思った2人の学生が大学の先生へ相談し、大学の先生から私たちNPO法人POSSEへと相談が寄せられ、発覚した。
二人の学生(Aさん・Bさん)は、民間団体が主催するインターンシップ紹介イベントに参加し、そこで見つけた農業法人にインターンシップに行くことになった。Aさんは週3~4日の頻度で参加し、その支援金として、「活動支援金」3万円を支払うという内容であった。
Bさんは「サポートスタッフ」ということになっていた。インターン生のサポートをメインに活動することになっていたため、「活動支援金」は出ることになっていなかった。
2人のインターンシップは今年の3月から始まった。Aさんは、当初「商品開発」のインターンシップを受けることになっていた。しかし、実際に職場に行くと、「商品開発をやる余裕はなくなった」と言われ、商品販売の売り子やそのマニュアル作りなどを任されることになったという。
GWなどは、大型ショッピングセンターの催事場で商品を売る仕事についていた。BさんもAさんと同様の業務の他、会社の商品をウェブサイト上に紹介するページを作成する仕事を任された。「サポートメンバー」のはずが、Aさんと同様に、「インターン」ではない、「普通の仕事」が振られていた。
これらの仕事は、明らかに業務であり、「労働」だ。期待していたような「アルバイト」では得られないような社会経験を得ることはできなかったのである。そこどころか、実質的にはアルバイトでありながら、「インターン」だとして、給与すら支払われなかった。
そもそも、インターンシップに関しては、次のような行政の通達がある。
「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」(旧労働省平成9年9月18日基発第636号)。
要するに、直接企業の利益となるような仕事を行っている場合などは、「労働者」として扱われ、賃金が支払われなければならないということだ。
今回の事例は、ショッピングセンターの売り子などで明白なように、基本的に直接企業の利益になるような仕事であった。たとえ形式が「インターンシップ」とされていたとしても、このような業務をさせるのであれば賃金を支払わなければならない。
だからこそ、労働基準監督署が指導したのだ。Aさんは「活動支援金」を支払われてはいたが、労働時間分の賃金は払われておらず、Bさんは全く賃金が支払われていなかった。学生らは、インターンシップ中に証拠を集め、辞めた後に私たちの支援を受けて、労働基準監督署に申告を行った。この農業法人は労働基準監督署の指導に従い未払賃金を支払っているという。
「ブラックインターンシップ」も横行。ブラックバイトと同様の被害が多発
似たような事例はほかにも挙げることができる。
ある学生は、1日8時間勤務で週5日もインターンシップに行き、日給2000円の労働条件だったという。
最低賃金を大きく下回っている。本人もおかしいとは思っていたが、「1年間はインターンシップを続ける」という契約書にサインされており、辞めていいものかわからず、相談に訪れたのだった。
もちろん、この事例のような最低賃金を下回るような違法な労働契約(「インターンシップ契約」の形式だとしても)はそもそも成立しない。当然、契約は成立していないのだから、すぐに辞めることができる。
しかし、悪質な業者の言うままにされてしまうと、逃げられず、大学を卒業できない。もちろん、まともな就活もできない。ブラックインターンシップは学生のキャリアを損なう恐ろしい罠なのである。
地方の大学から出てきたインターンシップ生がそのままブラック企業へ
次に紹介する事例は、実際にブラックインターンシップによって、キャリアを踏みにじられてしまった事例である。彼女はブラックインターンを通じてブラック企業の正社員となったあと、相談に訪れた。
学生時代、地方の大学に通っていた彼女は、東京のIT会社のインターンシップを受講した。ところが、9:00~18:00を定時とし、主に上司の手伝いとして雑務をこなすという、実質的にはアルバイトのように働かされた。
そして、その期間は日給3000円を支払われており、明らかに最低賃金を割り込んでいた。しかし、社員と変わらない業務を割り振られ、辞めることはできない。学生の内から囲い込まれていた彼女は、確実に正社員に就職できると説得され、そのままこの会社の正社員として就職したという。
ところが、4月以降の労働条件は極めて過酷であった。毎日3時間程度の残業が発生するも残業代は一切出ず、賃金は年俸制で240万だけ。社長や上司のパワハラもひどく、新卒は3年以内に8割が辞めていく、まさにブラック企業であった。入社時に、「退職時に一切損害賠償請求しない」という旨の書類に、日付を空欄にした状態でサインもさせられていた。
この事例のように、インターンシップに訪れた学生に「内定」の期待を持たせ、最初から実際の業務などを担当させていく。そして不当に賃金を払わないままに、責任も負わせていき、逃げられなくする。内定がほしい学生の弱みに付け込む、非常に悪質なやり方だった。
もし、インターンシップ先の企業に就職できるとしても、インターンシップ生に違法な労働を強いる企業は、ブラック企業の可能性が高い。たとえ就職できても、体か精神が持たずにすぐに辞めてしまい、せっかくの新卒を無駄にしてしまうだろう。
繰り返しになるが、このような「ブラックインターンシップ」にかかわってしまうと、自分のキャリアが大きく壊されてしまう。そうならないように、対処法を知っておくことが大事だ。
自分のキャリアを守るために、まずは専門家に相談しよう
「ブラックインターンシップ」に対処法するためには、労働法の知識が不可欠だ。インターンシップの現場では、先の事例でみたように、実際には単純労働を担わされることは多いにもかかわらず、賃金が適正に支払われないことや、正社員並みに過酷に働かされることが多くなっている。
単純労働を強いられ、コピーとりや売り子をやらされるなどを経験した学生は多い。自分のキャリアを守るためには、会社の言うままにすべてを受け入れるのではなく、賃金の支払われ方や最低賃金の額、正しい辞め方などを知っておき、被害にあわないにようにする必要がある。
これらは、ブラックバイトへの対処法と同様だ。また、未払い賃金が発生していたならば、最初に紹介した事例のように、辞めた後に未払い賃金を請求することもできる。今現在インターンシップを行っている学生や過去に行っていた学生は、是非一度自分のインターンシップを見直してみてほしい。証拠の残し方や法的な論点などは、過去の記事を参照してもらいたい。
「学校に行けなくなるアルバイトに注意! ブラックバイトの実例と対処法」
とはいえ、このような権利を一人で行使することは難しいだろう。権利を行使するためには、専門家に相談するということもあわせて覚えておいてほしい。「インターンシップだから」とあきらめる前に、是非一度専門家に相談してほしい。
無料労働相談窓口
NPO法人POSSE
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
http://www.npoposse.jp/
ブラックバイトユニオン
03-6804-7245
info@blackarbeit-union.com
http://blackarbeit-union.com/index.html
総合サポートユニオン
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
http://sougou-u.jp/
ブラック企業被害対策弁護団
03-3288-0112
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日本労働弁護団
03-3251-5363
http://roudou-bengodan.org/