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就職活動を妨害するブラックバイト 実情と対処法

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

5月に入り、就職活動シーズンが佳境を迎えている。正式な選考解禁日である6月が近づくにつれて、多くの企業が説明会や面接などに学生は奔走している。また、早いところでは来年度の就活生に向けた説明会やインターンが始まっているところもある。

こんな時期に寄せられる労働相談が、学生からのブラックバイトの相談だ。アルバイト先から、就職活動よりもアルバイトを優先するように強いられ、就職活動に支障をきたしてしまうというケースである。

今回の記事では、そうした「就職活動中のブラックバイト」への対処法を紹介する。現在就活中の学生、来年以降就活をする学生はもちろん、就活を控える子どもを持つ保護者の方にも是非参考にしてほしい。

就活中のブラックバイト被害実態

一般的に、ブラックバイトの特徴は「学生であるのに、アルバイトのせいで学生らしい生活を送ることができない」という点にある。人手不足の中で、サービスや小売業で学生を社員並みに活用する企業が後を絶たないのだ。

厚生労働省・文部科学省も、2015年12月に「学生の本分である学業とアルバイトの適切な両立のためのシフト設定などの課題へ配慮すること」をアルバイトの多い業界に要請する異例の事態となっている。

その結果、アルバイトが学校のテストや授業、サークル活動に支障をきたしてしまうことが問題となっているのだが、「就職活動への支障」も頻発している。ここでいくつかの相談事例を紹介したい。

まず、本格的な就活シーズンを間近に控えた、都内の大学生Aさんの事例だ。

大学のある東京ではなく、地元の静岡県で就職活動をすることに決めたAさん。そこで就活の時期は、基本的に地元に帰って就活に専念することにした。それまで続けていた飲食店のアルバイトは、これを機に辞めることにし、そのことを店長に告げた。

しかし、店長は「他にもバイトが2人辞めたいと言っている。むしろシフトを増やして欲しいくらいだ」と言って辞めることを認めてくれなかった。

さらに店長は強い口調で「就職活動を地元で行うにしても、静岡なら日帰りで東京から通えるだろう」とも言った。東京と静岡を何度も移動するほどの資金はないことを伝えても、「君、携帯電話は持っているよね? その携帯電話代や学費は君の両親が払っているんでしょう? だったら東京‐静岡間の交通費くらい両親が払ってくれるでしょう?」などと問い詰められてしまった。

Aさんはそうした生活費を奨学金で賄っており、当然その交通費を親に負担してもらうことは不可能であった。しかし店長の迫力に押され、結局当面アルバイトを辞めずに続けることに同意してしまった。

Aさんのように、地元に帰って就職活動をするケース以外でも、地方から就活のために上京する学生は多く、地域内で就職活動をする場合にもアルバイトと両立することが難しいことは珍しくはない。したがって、法的にも「就職活動を理由としての退職」はきわめてまっとうであり、使用者側が拒否する権利はないと考えられる。しかし、それでも「辞められない」という事例は後を絶たないのだ。それどころか、学生の事情など構わずに多くのシフトを要求する雇用主もいる。

次に紹介するのは大手薬局チェーンで働くBさんの事例である。

もともと部活や学校の課題が忙しく、Bさんはアルバイトを週3日に限っていた。しかし就活のシーズンが近づくと同時に、店舗の人手不足が酷くなり、店長から曜日固定の週4日シフトに入るように言われた。

就活や卒業研究で忙しく、週4日入ることはできないと言ったものの、店長は「週4日で契約しているから」と一切聞いてくれなかった。

実は採用面接の際Bさんは「週3日にして欲しい」という相談を当時の店長にしており、口頭でシフトを週3にしてもらっていた。しかし、その時労働契約書の方は「週4日」のままにされていた。

そしてその契約書を盾に、店長は就活シーズンでありながら、シフトを減らすどころか、週4日のシフトを強制してきたのだった。

また、シフトを休もうにも、その際は代わりのアルバイトを見つけるよう言われていた。しかも当時はアルバイトの数が自分を含め5人しかおらず、調整することはほぼ不可能であったため、Bさんは就活とアルバイトの両立に不安を抱えていた。

今回紹介したように、「辞めることができない」「シフトを強要される」というのはブラックバイトの典型例である。

一方で、就職活動では交通費などの費用がかかるため、どうしてもアルバイトを続けながら就活を行わなければならないケースもある。そうした場合にも、やはり「シフトの調整」ができなければ就職活動はできなくなってしまうだろう。

就活に支障をきたすブラックバイトへの対処法

ではこのようなブラックバイトに対してどのように対処すればいいのか。

基本的に、しっかりと相手側に事情を伝えたうえで、アルバイトより就活を優先させればいい。どうしても相手が出勤しろと命じてきた場合にも、事情を伝えて休めば問題ない。

事例紹介の中でも触れたように、学生によって就職活動というのは重要なイベントである。何か大きな病気になった時に、会社に連絡を入れて休むのが「合理的」であるのと同じように、就活を理由にアルバイトを休むことは、合理的であると考えられる。

また、そもそもシフトの日数が最初の契約時に(Bさんのように口約束であっても)決められていれば、それ以上出勤する必要性はないし、さらに「入れない」と言っているのに勝手にシフトに入れられた場合、出勤する必要もない。

辞めたい時も同様である。そもそも労基法上「強制労働」は禁止されている。つまり会社は「労働者を辞めさせない」ということは禁止されているため、どんな理由であっても退職を妨害することはできない。さらに、就活のように「やむを得ない事情」があれば、基本的に会社をすぐにやめることができる。

その際、「代わりを探さないと」だとか「引き継ぎが終わるまで」といった条件を会社が押し付けてこようとしても、無効である。

有給休暇を使おう

もう一つ、就職活動の「武器」になる法律を紹介しておこう。労働基準法に定められた「有給休暇」である。有給休暇とは、労働者が日時を指定して休日を取得し、その分が給与が保障される制度だ。実は、アルバイトであっても有給休暇の権利が発生する。

アルバイトであっても、半年以上働いていれば、たいていの人は数日分取ることはできる。また休暇をとる理由も制限はない。週の勤務日数に応じて、有給休暇を取得する権利は下記のようにたまる。

  • 週5日 半年間の勤続で10日。一年半の時点で11日を加算して21日分。
  • 週4日 半年間の勤続で7日。一年半の時点で15日分。
  • 週3日 半年間の勤続で5日。一年半の時点で11日分。
  • 週2日 半年間の勤続で3日。一年半の時点で7日分。
  • 週1日 半年間の勤続で1日。一年半の時点で3日分。

有給休暇を使うとシフトのある日に、給料をもらいながら就活に専念することができ一石二鳥である。

ただ、会社には理由があれば有給休暇を取るタイミングを変更する権利がある。これを主張された際には、専門家を交えた交渉が望ましいため、詳しくは末尾の相談機関に問い合わせて欲しい。

【ブラックバイトに関する無料相談窓口】

ブラックバイトユニオン

03-6804-7245

info@blackarbeit-union.com

http://blackarbeit-union.com/index.html

*ブラックバイト問題に対応している個人加盟ができる労働組合。

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

ブラックバイト対策弁護団あいち

052-211-2236

札幌学生ユニオン

sapporo.gakusei.union@gmail.com

http://sapporo-gakusei-union.jimdo.com/

首都圏学生ユニオン

03-5359-5259

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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