マスコミによる有名人への「取材攻撃」 警護のプロはどう守る?小室圭・眞子ご夫妻の例から考える
記者会見がスムーズに終わるように全体の組み立てをするのが広報プロの仕事ですが、会社や自宅周辺で待機している記者による夜討ち朝駆けや写真撮影への対応体制も整える必要があります。最近、警備費用で話題となっているのはニューヨーク滞在中の小室圭・眞子さんご夫婦。日常に潜むマスコミからの取材から体をどう守るのか、有事発生リスクを考えた警備・警護の金額はいくらが妥当なのか、要人警護のプロ、田丸誠さんと考えます。
記者会見後に体を守る発想を
石川:小室圭・眞子さんご夫妻のニューヨークでの警備費用が年間8億円であることがデイリー新潮や他メディアで報道されています。皇籍離脱後もこのように話題になってしまうため、余計に警護が必要になるのだろうと思います。
私が記者会見における警備や警護の必要性を痛感したのは、2000年に発生した雪印乳業の集団食中毒事件での社長の「私は寝てないんだ」発言。追いかけてきた報道陣にもみくしゃにされた時に思わず言ってしまいました。そもそも三角形ビルで出入口が1つしかなく、報道陣と同じドアだったことも原因ではありますが、体を守る動線確保の発想が欠けていました。この会見は、日本における危機管理広報の原点になった有名な出来事として、語り継がれています。発言に注目が集まりましたが、記者会見レイアウトの失敗、広報の敗北です。
田丸:今の話なら必要なのは警護です。私の会社(誠シークレットサービス)では、警備と警護両方受けていますが、警備と警護は少し違いまして、警備は施設を守る、警護は人を守ります。警護はその人の安全が確保されるように会見後であっても、ずっと付き添っていきます。車に乗る直前にぶら下がり取材されることもありますから。人が来るとつい立ち止まってしまいますが、男性なら後ろのベルトを持って前に押し出したり、女性なら背中を押したりして、どんどん前に進ませます。こうです。
石川:おお、なるほど背中から、かなり力強く押すんですね。スタッフに会見者がスムーズに退出できる動線を確保する動きをつけますが、自分の体を張って社長の体を守るまで到達できません。模擬記者会見をすると、社長より先に司会者が出て行ってしまうことがありました(苦笑)。記者会見が終わるとほっとしてしまうのでしょう。
田丸:私達は警護対象者の安全が常に確保できるようにピタリとついて体を守ります。お忍びで遊ぶ場合にも一緒に行きます。その場合、外に車があれば、大抵記者だったりするので、こちらから声をかけて移動してもらいます。社長が付き合っている女性に手切れ金を運んだこともあります。最初の金額は数百万でしたから、ちょっと金額が少ないんじゃないか、とアドバイスしたこともあります。社長が妻子持ちのいわゆる不倫でしたし。女性は銀座のプロで20代後半から30代とちょうど婚期。社長は資産家、その後の告発予防のためにもそれなりの金額が必要でした。
石川:それで、最初の金額はやはり拒否されたのですね?
田丸:はい、こんな金額じゃ納得できない、と激怒されました。会社に乗り込むと言われたり、著名な弁護士の名前を出されたりしたので、金額を上げて再交渉しました。これも社長を守る仕事の一つとして考えまして。付帯業務という部類です。
石川:女性が不満を持つと告発につながりますから。未然に防いだ事例ですね。著名でマスコミ活用がうまい弁護士が出てきたりしたら、それこそ報道による評判失墜につながってしまいます。女性問題をしつこく報道するのもどうかと思いますが、「女性たちにたいして、どうゆう接し方をしたのかということの中にこそ、その人の人間性、本質がにじみ出るからだ。『憎たらしい』『けしからん』『やっつけろ』ではない。『人間って面白いよな』と思うことを報じる。」(「週刊文春」編集長の仕事術 新谷学著)は、それなりに説得力のあるコメントではあります。
有事コストと警護体制のバランスで判断
石川:ある上場企業の広報室から、社長は飲むのが好きで時々飲みすぎてしまう、そんな時に記者に突撃されると困るから、何とかしたい、と相談されたことがあります。広報視点からすると警護をつける提案もありですが、サラリーマン社長だと費用を確保しない可能性の方が高い。気になる費用ですが、どのくらいでしょうか。
田丸:朝から晩までつければ、月に数百万はかかります。年間にすると数千万になります。上場企業の社長に1年間警護をつければ1億まではいきませんが、それなりの金額はかかります。
石川:代えがたい人物やオーナー企業じゃないと計上できませんね。サラリーマン社長だと他に社長候補はいます。小室圭・眞子さんの警護費用8億円は、どのような体制だと予測できますか。
田丸:皇族を離れたとはいえ、日本のプリンセスであることに変わりはありません。誘拐されて身代金を要求されたりしたらそれこそ国家的危機になります。ニューヨークの危険性を考えれば、元特殊部隊の人など最高の警備・警護をつけることになりますし、金額としては驚くような数字ではありません。人質救出をするグリーンベレーや対テロ部隊のデルタフォース出身者なら高額です。単純に警護の人数が多いだけでも費用はかかります。
ニューヨークでの警護が全て日本国民の税金かどうかは不明です。ニューヨーク市としては、トラブルがあると困るから重要人物として自ら負担する場合もあるからです。
石川:有事に掛かるコストを考えると妥当ということですか。国民の税金だという怒りの声もありますが、そこは現地持ちの可能性もあるなら憶測報道になります。眞子さんは、10月の会見で憶測報道に苦しまれたと発言していました。危機管理広報の視点からすると憶測報道には明確な打消しが必要。警護費については明確な説明が必要だろうと思います。
田丸:言えることは日本であればそこまでかかりません。皇室の場合は皇宮護衛官が警備・警護します。皇室を離れると皇宮護衛官を海外でつけることはできない。眞子さんの場合、結婚後は警視庁のSP(セキュリティ・ポリス 要人警護官)がついていました。ちなみに、PO(プロテクション・オフィサー)という、暴力団から民間人を守る警察官もいます。
石川:NYなら静かに過ごせると思ったところそうではなかった。何としても自分のやり方を貫く眞子さんには強さ、たくましさがあります。古事記を読むとその強さは、受け継がれているものだろうとも思いました。
結果としてどこにいても話題になるリスクがあると判断したなら、少しでも批判を減らせるように国内の選択への転換があってもいいだろうと思います。海外は英国ダイアナ元皇太子妃のようにパパラッチ(著名人を追いかけるフリーカメラマン)が異常です。日本なら、報道被害のクレームを受け付けるBPO(放送倫理・番組向上機構)があります。リスクマネジメントにおける考え方の基本に立つと、リスクは変化するし、成長するからゼロにはできない。最小限にしてコントロールする発想が必要です。
気になったのは、POという言葉。初めて耳にしました。
田丸:POの認知度が低いのは無理もない。まだ歴史が浅いですから。私が警察を退職してから出来た制度です。暴力団や組織犯罪対策対応になります。私は民間警護会社でPOのような仕事をしたことがあります。暴力団ではなく、元ロシア人諜報員に命を狙われた社長のケースでした。
石川:それは怖い。外資系企業の警護の場合、要求レベルも高いのですか。
田丸:このケースは日系企業でしたが、海外企業がクライアントになると、警護員は自動小銃を持てるだろう、とか、防弾仕様のハマーに乗りたい、などと要求されます。日本では、民間警備・警護会社といえども拳銃、自動小銃は携帯できないんです。
石川:リスク感度が日本と海外では相当違うということでしょう。社員100人程度のベンチャー企業でリスクの洗い出しをした時、最大のリスクが社長の海外出張でした。急成長した会社でしたので、社長は単独行動の習慣のままで、いつも一人で出張。行方不明になったり誘拐されたりしたら大変だと認識し、連絡体制を整えました。記者に変装して近づいてくるスパイや犯罪人もいるでしょうし、有事発生時のコストを予測して警護費用も盛り込む必要がありそうです。