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「火星12号」は日本列島を飛び越えて来る! 米朝どちらも「最後通牒」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
グアムを狙う「火星12号」の傍に立つ金正恩委員長

 北朝鮮が一昨日(8日)「核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告シグナルを送るため、中長距離戦略弾道ロケット『火星12』でグアム周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」との戦略軍報道官声明を発表したが、これにマティス米国防長官が早速反応した。

 マティス米国防長官は昨日(9日)北朝鮮に対して「同盟国の合同軍事力が地球上で最も正確でよく訓練されている確固とした防衛力と攻撃力を保有していることに北朝鮮は注目しなければならない」としたうえで「北朝鮮は政権の終末と国民の破滅を招く行動を中断せよ」との警告を発し、警告を無視するならば、軍事力行使も辞さないと強い姿勢を示した。

 ところが、北朝鮮は今朝、金洛謙(キム・ラッキョン)戦略軍司令官(大将)が「すでに明らかにしているようにグアム包囲射撃作戦案を慎重に検討している」として、発射されれば「島根、広島、高知を通過し、射程距離3、356.7kmを17分45秒間飛行した後、グアム周辺30~40km海上に着弾することになる」と「火星12号」の日本列島に向けて飛ばすことを明らかにした。報道官声明で触れていた「我々の弾道ミサイルの発射方位に深く注意を払うべき」という意味が判明した。

(参考資料:現実となる?北朝鮮のミサイル飛来に備えたハワイ、韓国、日本での避難訓練

 北朝鮮の弾道ミサイルは昨年だけで25発、今年もすでに11発発射されているが、いずれも日本列島の手前の日本海に着弾している。仮に日本上空通過となれば、2009年4月5日に「衛星」と称して発射された長距離弾道ミサイル「テポドン」以来ということになる。

 当時「テポドン」も所管の朝鮮宇宙空間技術委員会が41日前の2月24日に「人工衛星打ち上げの準備を行っている」と予告したうえで発射されていた。発射されたテポドンは秋田沖から銚子沖へと日本列島を突き抜けた。

 「8月中旬まで作戦計画案を最終完成させ、核兵力総司令官(金正恩委員長)に報告し、発射待機態勢で命令を待つ」と述べているところをみると、8月21日から韓国で始まる米韓合同軍事演習(フリーダムガーディアン)を意識した言動であることがわかる。戦略軍報道官声明でも「我々が軍事的な選択をしないよう、我々に対する無分別な軍事的挑発行為を直ぐに止めるべき」と言及していたことからも明らかだ。

 米軍が米韓合同軍事演習を中止すれば、あるいは「B-1B」戦略爆撃の飛行を止めれば、計画を中止してもよいと聞こえなくもないが、トランプ政権が中止しないのを百も承知の上での言動であることを考えると、逆に中止しないことを発射の口実、大義名分にする考えのようだ。

 トランプ大統領は1日、「北朝鮮がICBMによる米国攻撃を目指すなら戦争になる」と述べ、一週間後の8日には「北が米国を脅かすなら今直ぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」とツイトしていた。CNNはこの発言を北朝鮮に対する「極めて異例の最後通牒」と伝えていた。さらに昨日(9日)は「私が大統領として下した最初の命令は『核兵器を現代化せよ』だった。我々の核兵器はかつてない強力だ。この力を行使せずに済むよう望む」と呟いていた。

 「世界が見たことのない~」の言葉はトルーマン大統領が広島への原爆投下発表した際の言葉「地球上で見たことのない破滅の雨」を彷彿させるものだった。前日(8日)の「北朝鮮がICBM搭載可能な核の小型化に成功したと国防情報局(DIA)は了解している」とのワシントンポストの報道への米国民の憂慮を払拭するためのトランプ大統領特有の誇張した言い方なのかもしれないが、もしかして北朝鮮への攻撃手段として戦術核の使用を真剣に検討しているのかもしれない。

 トランプ大統領の強硬発言を耳にしたティラソン長官は「戦争は迫ってない。米国人は安心して眠ってよい。ここ数日間の言葉の戦争には神経を払ってない。金正恩が外交的修辞を理解できない為、大統領は彼が理解できるようそうした発言をしたと思っている。米国が戦争をすれば、どの戦争でも勝てる」と打ち消しに走っているが、北朝鮮が予告通り、グアム包囲射撃を強行すれば、トランプ大統領やマティス国防長官の発言が一層現実味を帯びることになるだろう。

 北朝鮮が「火星12号」の飛行コースを明らかにしたことで当然、日米韓は迎撃態勢に入ることになるだろう。

(参考資料:北朝鮮のICBMを迎撃するのは米国、韓国、それとも日本のイージス艦? )

「テポドン」の場合は、事前に発射予告日の通告があった。例えば、2009年4月5日に発射された「テポドン」は咸鏡北道の花台郡の東海衛星発射場から「4月4-8日の間に打ち上げる」との事前発表があった。

 また2012年の2度発射された「テポドン」も失敗した4月13日の「テポドン」は「4月12-16日の間に発射される」との予告があったし、成功した12月12日の「テポドン」もまた「12月10~22日の間に発射する」との発表があった。

 今回は弾道ミサイルであることからこれまでのミサイル同様に発射予定日が事前に公表されることはないだろう。

 ある日突然飛んで来て、その結果、最悪の事態に発展。これぞ悪夢である。夏の怪談話であって欲しい。

米国のミサイル迎撃に北朝鮮は反撃するか!?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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