深夜のD51(デゴイチ)輸送大作戦 直江津発糸魚川行
12月17~18日にえちごトキめき鉄道の糸魚川駅で、開業110周年記念イベントが行われ、D51(デゴイチ)が駅構内を展示走行して地元の皆様方をはじめ、たくさんの方々にお楽しみいただけたというニュースを先日書きました。
ぼくらの町にD51(デゴイチ)がやって来た!(12月19日)
このD51ですが、ふだんは直江津駅の構内にある「直江津D51レールパーク」で展示されている機関車で、大井川鉄道や真岡鉄道、JR各社がやっている本物の蒸気機関車ではなくて、圧縮空気で稼働する空気機関車。走行はできるとはいえ、駅構内を低速で行ったり来たりするのがせいぜいで、遠くまで本線の線路の上を走っていくというのは全国的に見ても前例がありません。
では、どうやって直江津から糸魚川まで、38.8kmもの距離を運ぶことができたのか、その過程をレポートしてみましょう。
線路閉鎖という手続き
このD51は機関車としての正式な車両登録をしていません。
博物館や駅の構内を展示走行することが目的で、列車の先頭に立って客車を引っ張ることはありませんから、いわゆる機械扱いで、線路の保守作業車や除雪用車両などと同じ種類なのですが、そういうものが線路の上を走る場合はお客様を乗せたり貨物を運んだりする一般の列車を止める「線路閉鎖」という手続きを取ります。
つまり、終列車が出た後、始発列車までの間に行うということになりますが、えちごトキめき鉄道の場合は貨物列車がたくさん走ります。
そこでさらに貨物列車の走らない時間帯ということで、午前1時から午前4時の3時間に限って線路閉鎖を行って、D51を輸送することになりました。
勝負は3時間。この3時間で糸魚川へ輸送しなければなりません。
ディーゼルカー2両で挟んで運ぶウラ技
このD51は駅構内を空気稼働で走ることができるものですが、前述の通り糸魚川駅までの38kmを自走していくことは、本当にできるかどうか何の保証もありません。
通常であれば電気機関車やディーゼル機関車に引かれて移動するのでしょうが、えちごトキめき鉄道ではけん引する機関車がありません。
そこで、ふだんひすいライン(直江津-市振間)で旅客用として走るディーゼルカーで引っ張ってはどうかと考えました。
ところが、ディーゼルカーにはD51を引っ張るだけの力があるかどうか。
計算上では引っ張れるのですが、途中で勾配もありますから不安が残ります。
だったら前と後ろにディーゼルカーを連結して、2両で挟んで運んだらどうか。
でも、間にD51を挟んだら、制御系統が分断されますから前の運転士の操作で後ろのディーゼルカーをコントロールできない。
D51とディーゼルカーでは連結器の形が違うから、そもそも連結できない。
というような課題がたくさん出てきました。
できない理由を探す人たち
筆者の経験ですが、鉄道業界というのは前例のないことをやりたがらない風土があります。
「そんな余計なことをやって、もし何かあったらどうするんだ。」
そう言って、できない理由を一生懸命探して自分を正当化しようという人たちがたくさんいるのが一般的な鉄道会社の現状です。
そんな鉄道業界ですが、筆者は社長として常に、
「できない理由を探すなら中学生だってできるだろう。どうやったらできるかを考えるのがプロフェッショナルだ。」
と社内会議で話していますから、えちごトキめき鉄道では、開口一番「できません。」と言う幹部はおりません。そして、開業から現在まで、リゾート列車「雪月花」や国鉄形観光急行の運行など、かなり難しい問題をクリアして実施しているというチャレンジ精神の社風と、お客様の喜ぶ姿をいつも目の当たりにしているという経験がありますから、今回の輸送も運輸部長の「俺たちはJR時代にできなかったことをこの会社でやるんだ。」という号令の下、全社員が一丸となって行ったのであります。
中間連結機という特殊な連結器を取り付けてディーゼルカーを連結する。
前と後ろのディーゼルカーに運転士を乗務させて無線で連絡を取りながら運転操作をする。
D51にも運転士を乗せて機器の調整をする。
走行速度は時速20km程度に抑え、途中駅で停車時間を取って点検をする。
踏切の誤動作検知時の対策として、各踏切に係員を配置する。
各駅に警備員を配置し、関係者以外の人間の立ち入りを制限する。
等の細かな対策を取りながら、12月16日の深夜から17日の未明にかけて、D51運搬大作戦が決行されました。
途中駅で停車時間を設け、D51の走行装置を入念に点検し、異常がないことを確認しながら約3時間かけて糸魚川駅へ運びました。
糸魚川駅到着
こうして2両のディーゼルカーに挟まれてD51は午前4時過ぎに糸魚川駅に到着しました。
多くのファンに出迎えられたD51。
蛍光色のベストを着ているのはこの運搬をカメラに収めるために特別に企画した撮影ツアーの参加者の皆様方です。
ディーゼルカーが切り離され、顔を出したD51。
運搬当日は大雨でしたが、何とか計画通りに実施することができました。
そして17~18日の糸魚川駅110周年イベントでたくさんの皆様方にご覧いただくことができました。
イベント終了後の18日深夜、D51は糸魚川からの帰途につき、19日の早朝、午前4時過ぎに直江津の機関庫に帰りつきました。
この日から新潟県地方が大雪に見舞われることになりましたが、その直前になんとかホームベースに帰り着くことができました。
今回の糸魚川駅でのD51の展示走行は、1,000人以上の地元市民の皆様方にお越しいただき大好評だったのはもちろんですが、このような前例のないことに果敢に挑戦し、運輸部だけでなく設備部や営業部、あるいは総務企画部といった、全社が一丸となって企画実行できたことに大きな意義があると筆者は考えますし、会社全体の総合力がまた大きく磨かれたと確信しています。
ちびっ子たちや、あるいは昔のちびっ子たちの笑顔をたくさん見ることができたことが、職員一人一人の財産となり、それが会社の財産となっていくことで地域鉄道として地域の皆様方に受け入れられる存在になっていくと筆者は考えます。
この場を借りまして社長として社員に向けて感謝の意を表したいと思います。
皆様、ありがとうございました。
そしてお疲れさまでした。
市民の皆様、全国の鉄道ファンの皆様、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
※本文中に使用した写真は筆者撮影およびえちごトキめき鉄道運輸部撮影のものです。